障害者虐待の防止及び養護者・被虐待障害者の支援の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201516004A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者虐待の防止及び養護者・被虐待障害者の支援の在り方に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
志賀 利一(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 晃(上智大学総合人間科学部)
  • 佐藤 彰一(國學院大學法科大学院)
  • 井上 雅彦(鳥取大学大学院医学系研究科)
  • 小川 浩(大妻女子大学人間関係学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,490,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は障害者虐待防止法施行後、様々な領域からの事例の収集と分析を行い、虐待防止法の影響と課題、さらに運用に関する総合的対応策と具体的な提言を行うことを目的とするものである。具体的には、(1)虐待の予防と早期発見の方策、(2)虐待発生や疑いの通報・届出の適切な対応方法、(3)養護者への適切な支援、(4)障害者福祉施設等や企業等への対応・立ち直りに向けての取り組み、以上の(1)から(4)に関する全国の相談支援機関、障害者福祉施設、行政機関、障害者雇用企業等における実態調査を行い、法律上あるいは運用上の課題を整理する。
研究方法
平成27年度(3年研究の3年目)は主に、平成25年度(1年目)から継続的に行っている(1)相談機関の障害児者虐待の認知状況調査の他、(2)使用者による虐待の防止に向けた取り組みに関する実態調査、(3)障害者虐待防止・権利擁護研修の実施状況及びカリキュラムに関する調査を行い、さらに、3年間の調査研究を踏まえつつ、(4)障害者虐待防止の主旨について広く理解を求めるマニュアルの作成ならびに障害者虐待防止を考える研究セミナーの開催を行った。
結果と考察
1)障害者虐待防止法施行後3年半の間に法の主旨ならびにその仕組が一定程度理解されるようになった。
2)しかし、虐待の小さな芽を早期に発見し予防・支援する取り組みに向けてはさらなる周知徹底が必要である。
3)使用者に対して、虐待防止法の仕組みが十分周知されていない現実はあるものの、障害者雇用を積極的に取り組んでいる特例子会社では障害者の権利利益を擁護する独自の仕組みを積極的に取り入れており、この仕組については障害福祉関係機関にも大いに参考になるものである。
結論
障害者虐待法が施行されて3年半が経過し、障害福祉の分野では法の理念や仕組みが次第に理解されはじめているという根拠はいくつかある。例えば、すべての都道府県で障害者虐待防止・権利擁護研修が開催されており、平成26年度は全国で推計2万人がこの研修を受講している。また、厚生労働省の発表では、年間7,500件程度の虐待通報件数と2,500件程度の虐待認定と指導/支援が行われるようになった。
しかし、一方で、相談支援等において、障害者虐待の案件にかかわり支援を行った経験のない機関は6割を超えており、障害者の虐待の小さな芽を発見し、速やかに対処するという法の理念には、さらなる周知に向け、積極的な取り組みが必要であると考えられる。また、虐待の通報や認知件数は、地域による格差が非常に大きく、都道府県主催の研修のカリキュラムならびに運用方法も様々である。障害者虐待防止法の主旨の理解を広める取り組みは、今後も積極的に行っていく必要がある。
本研究においては、障害者虐待防止法の主旨ならびに仕組みをはじめて学ぶために、平易な内容で、なおかつ事例を中心に理解をすすめるマニュアルを作成し、WEBページ等で公開し、広く周知を試みた。
使用者虐待に関しては、障害者虐待防止法が施行時に厚生労働省がパンフレットを作成し、周知していたが、今回、障害者雇用に積極的に取り組んでいる特例子会社を調査したところ、その内容について十分な理解は得られていないことがわかった。また、障害者虐待防止・権利擁護研修においても、ほとんどの都道府県で使用者を対象とした研修は開催されていない。
一方、障害者雇用に積極的に取り組んでいる7社の訪問・ヒアリング調査においては、障害福祉施設等の虐待防止の体制整備と異なるものの、雇用している障害者の権利利益を擁護するための雇用管理は徹底して行われている実態が明らかになった。また、障害種別により異なる合理的配慮をどのように行うべきか試行的に、検討をはじめている。
障害者の権利利益を擁護に資する取り組みは、障害福祉サービスも障害者雇用の現場も変わりはない。それぞれの現場にフィットした仕組みづくりのためにも、相互の取組状況等、積極的に情報交換を行う仕組みづくりも期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516004B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者虐待の防止及び養護者・被虐待障害者の支援の在り方に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
志賀 利一(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 晃(上智大学総合人間科学部)
  • 佐藤 彰一(國學院大學法科大学院)
  • 井上 雅彦(鳥取大学大学院医学系研究科)
  • 小川 浩(大妻女子大学人間関係学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成24年10月から「障害者虐待防止法」が施行された。国が作成したマニュアル、研修等に沿って、市町村障害者虐待防止センター、都道府県障害者権利擁護センターを中心に、全国規模で虐待通報・届出の受理と相談、指導及び助言が行われている。また、虐待防止と養護者支援等に関する啓発活動、地域の実情に合った、見守りや緊急性、専門性に対応できるネットワーク構築の取り組みやその他体制整備が行われている中で、障害者虐待の予防と早期発見の方策、虐待の疑いや発生時の適切な対応、保護の必要性やその後の自立支援への移行、被虐待者だけでなく養護者・施設や使用者の立ち直りに向けての支援等について把握するとともに、現状における課題や先駆的な取り組みを整理することで、今後の障害者虐待防止への取組みや施策を検討する上での基礎資料を得ることを目的とする。
研究方法
本研究は大きく4つに分類される。1.相談機関における認知状況の把握、2.虐待者ごとにみる虐待と対応の把握、3.障害者虐待防止・権利擁護研修の実施及び企画の把握、4.他領域の虐待防止に関する取り組み状況等の把握。
具体的には、1年次に、①法的課題、養護者の虐待防止と心理的ケア、施設従業者の虐待防止の取組み、障害者雇用の現場の課題、地方自治体の支援体制について先行研究、各領域の専門家にヒアリングを実施し、現状把握と問題整理を行うとともに、②全国の相談支援事業や就業・生活支援センター等を対象にした事例調査を実施した。2年次は、引き続き①全国の相談支援事業や就業・生活支援センターを対象にした事例調査、②障害者支援施設における虐待事件後の経過の事例調査、③自治体における養護者虐待の分離保護対応の事例の収集を行った。3年次は、総合的なまとめとして、①全国の相談支援事業や就業・生活支援センターを対象とした虐待認知調査、②都道府県で開催されている障害者虐待防止・権利擁護研修カリキュラムの実態調査を行うとともに、調査結果で得た知見を元に、包括的な支援マニュアル『事例で読み解く障害者虐待』を作成した。また、研究検討委員会や研究セミナーを通し、分担研究者の専門領域毎に総合的な考察を行った。
結果と考察
障害者虐待防止法が施行されすでに3年半が経過している。厚生労働省が毎年公表している養護者虐待、障害福祉施設従事者等虐待、使用者虐待の相談・通報や認知・指導件数等からは、法の新たな仕組みと運用が一定程度進んだものと考えられる。また、障害者虐待防止・権利擁護研修の受講者も毎年2万人規模に到達しており、虐待防止に向けての取り組みは、積極的に行われている実態も明らかになっている。法施行後、障害者の権利利益を擁護に向けて着実な一歩を踏み出したのは間違いない。しかし、マスコミ等で報道される虐待事件には、障害者の権利意識に対する関心の低さが際立つものが多い。通報から始まるスキームの問題点、閉鎖的な施設や雇用環境、意思決定支援が必要な障害者へのアドボカシーの不十分さなど、法律面あるいは地方自治体や障害者福祉施設、障害者雇用企業等において運用面での課題も新たに明らかになってきている。一人ひとりの権利意識が研ぎ澄まされ、障害者虐待防止法が真の実効性のあるものにしていくためには、乗り越えるべき課題がたくさんあり、そして着実に前進に向けての実践や研究の蓄積が必要になる。
結論
平成25年度、26年度、27年度の研究結果から、包括的な障害者虐待防止マニュアル『事例で読み解く障害者虐待』を作成した。
作成にあたっては、本研究が実施した調査研究の知見を踏まえ、虐待防止について最初に学ぶための読みやすく、理解しやすいテキストの作成が必要であると判断した。
マニュアルでは、障害者虐待として出会う可能性の高い事例を大きく3つ、①養護者虐待、②障害福祉施設等虐待、③使用虐待・その他の虐待事例をあげ、事例ごとに虐待に至る背景やその後の対応をシンプルにまとめた。
併せて、職場の研修会等で意見交換できるよう、各章のはじめとおわりに、虐待防止の取組みとして大切な留意点をまとめた。

公開日・更新日

公開日
2016-08-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①全国の相談支援事業や就業・生活支援センター等を対象にした事例調査、②障害者支援施設における虐待事件後の経過の事例調査、③自治体における養護者虐待の分離保護対応の事例収集、④全国の相談支援事業や就業・生活支援センターを対象とした虐待認知調査、⑤都道府県で開催されている障害者虐待防止・権利擁護研修カリキュラムの実態調査を実施し、現状把握並びに評価を行い、課題を整理した。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
3年間の研究成果から、包括的な障害者虐待防止マニュアル『事例で読み解く障害者虐待』を作成した。なお平成28年度中に、内容の一部追加・修正を行い、実費頒布を行う予定としている。
その他行政的観点からの成果
平成24年10月より施行された「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、障害者虐待防止法)における、予防と早期発見の方策、虐待の疑いや発生時の適切な対応、保護の必要性やその後の自立支援への移行、被虐待者だけでなく養護者・施設や使用者の立ち直りに向けての支援等について、他分野への実態調査ならびに事例分析を通し、障害者虐待防止法の見直しに際しての基礎資料として、活用が期待できる。
その他のインパクト
平成26年2月25日(火)と平成28年1月12日(火)の2回、本研究事業で得られた知見をより深めるため、「障害者虐待防止を考える研究セミナー」を開催した。行政、医療、福祉事業所、大学、法律等、様々な分野から参加いただき、研究で見えてきた現状と課題の報告、これからの障害者虐待防止及び支援の在り方について、参加者も含めたディスカッションを行った。
(参加者数:平成26年2月25日のセミナーは112名、平成28年1月12日のセミナーは89名。)

発表件数

原著論文(和文)
5件
国立のぞみの園紀要
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
手をつなぐ
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
日本社会福祉学会(第62回)(第63回)
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
国立のぞみの園ニュースレターへの掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201516004Z