腎臓機能障害者の高齢化に伴う支援のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201516002A
報告書区分
総括
研究課題名
腎臓機能障害者の高齢化に伴う支援のあり方に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 戸村 成男(浦和大学総合福祉学部)
  • 秋葉 隆(東京女子医科大学血液浄化センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,795,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 初年度に実施した全国レベルの「障害透析患者の透析実態に関するアンケート調査」結果をもとに、26年度からパネルディスカッションを開催し、高齢/障害透析患者の支援のあり方や将来モデルを議論し、透析医療が直面している課題を克服する具体策や支援のあり方、行政措置、透析医療改革、介護制度の改善などについて議論することにした。今年度は仙台と札幌で同様のパネルを実施した。全国で聴取し議論を重ねた内容を総括する目的で、2016年1月24日にコンセンサス・ミーティングを開催することにした。
研究方法
 高齢透析患者に関わる諸問題について各地域の実情を把握し、将来に向けた建設的な方策を話し合うため、仙台、札幌の2ヶ所でパネルディスカッションを開催し、透析現場における生の声を聞くとともに、「障害透析患者の透析実態に関するアンケート調査」で浮かび上がった問題点をパネリスト並びにフロア参加者に提示し、問題点について各地の臨床医や研究者らと議論した。
 都合6回のパネルの集大成として2016年1月24日、コンセンサスミーティングを開催したが、その結果は総合報告書にまとめて記載することにした。

結果と考察
 2回のパネルディスカッションを通じて、仙台や札幌などの大都市圏は首都圏と透析事情に大きな隔たりがないものの、過疎地や山間部では、交通事情の悪さや風雪などの気象条件が高齢者問題に対する対策や考え方に大きな影響を与えていることが確認できた。透析患者の高齢化に伴う医療上もしくは介護上の問題点や矛盾は透析医療の現場で幅広く認識されているものの、問題点を具体的に詰めていくと、血液透析(HD) にしろ 腹膜透析(PD) にしろ、地域によって考え方や事情が異なり、必ずしも画一的に考えられないことがわかった。主なテーマとディスカッションの内容を整理した対策を下に記す。
(1)HDにおける送迎と通院介助
・無制限に送り迎えをするのではなく、今後は送迎患者の選別が必要である。
・地域自治体、行政からの公的支援
・PDへの誘導
・過疎化への対策
・NPOの活用
・介護問題に対処するスタッフの配置(可能であれば透析施設内に設ける)
・透析施設の経営を勘案して送迎のコストも賄えるよう配慮
(2)HD患者の長期入院透析
・慢性維持透析管理加算の有床診療所への適応拡大
・自立できないHD患者の介護関連施設への受入れ促進
・入院HD可能な療養病床の偏在をなくすこととPDへの積極的誘導
・HD導入の厳格な評価
(3)HDにおける介護保険サービスの問題
・介護保険サービス従事者のHDへの関心向上、啓発活動・多職種勉強会の促進
・HD医療者およびHD患者の介護サービスに対する関心をもっと高める
・HD患者において特養の活用推進
・HD医療における介護の重要性を認識(通院、送迎を考慮した介護度の認定など)
・介護保険制度変更に対する危惧(要支援患者に対する介護の減量、介護費用の削減などを阻止)
(4)PDにおける注排液の問題
・自立できない高齢者向けPDの簡略化
・各地域での多職種サポート体制の充実
・訪問看護ステーションとデイサービスセンターの活用
・ヘルパーなど介護系職員によるPD介助や労力の軽減
(5)在宅PDと医療保険診療、介護保険サービス
・在宅を終の棲家とするPDの重要性の認識
・介護度のミスマッチの是正
・PD医療者(医師、看護師)や介護施設へのインセンティブの導入
結論
 一昨年度に実施したアンケート調査結果をもとに27年度は計2回のパネルディスカッションを開催し、現場から様々な意見やコメント、提案を頂いた。腎機能障害者の高齢化に伴う諸問題は全国共通の課題であると同時に、地域性の違いもはっきりと認識できた。したがって、具体的な実効策を考える際、内容によっては地域特性も加味した対策が求められる。
 HDもPDも研究者や臨床医は一律の治療目標、一律の透析方法を是として理想的な方法を追究してきたが、わが国が置かれた医療環境や高齢化の進行、医療費の赤字を考えると、各高齢透析患者に合わせたテーラーメイドの透析や介護を検討すべき時代になってきた。つまり、同じ80歳台のHD患者でも認知症の程度や合併症、心機能、体力、ADL、家庭環境、経済力がみな違うわけで、各人の状況に合わせた各人各様の透析医療、介護を考える時代になったと言える。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516002B
報告書区分
総合
研究課題名
腎臓機能障害者の高齢化に伴う支援のあり方に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 戸村 成男(浦和大学総合福祉学部)
  • 秋葉 隆(東京女子医科大学血液浄化センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者の高齢化に伴う血液透析 (HD) や腹膜透析 (PD) の諸問題を洗い出し分析したうえで、高齢透析患者の生活・医療支援制度を提言して透析医療が直面している高齢化の課題を克服すること。
研究方法
1) 透析実態に関する全国アンケート調査、2) パネルディスカッション(6都市)、3) コンセンサスミーティング(集大成として東京で開催)、4) 政策提言と勧奨(過去3年間の研究班の活動総括)
結果と考察
(1)障害透析患者の透析実態に関するアンケート調査
①HD患者の送迎:患者送迎は54.6%の施設が実施、45.1%が未実施。送迎患者総数は、832施設だけで28,715人。送迎に対する負担感は77.1%が「大変負担」「少し負担」。
②HD施設への通院介助について:施設以外の通院介助患者は、判明しただけで17,269人。介助者の内訳は、ヘルパーが最も多く、次に配偶者、一親等親族の順。
③長期入院HD:長期入院(3ヶ月間以上)患者がいる施設は36.1%。そのうち、長期入院HD患者数を記入した522施設だけで総数は5,275人。
④介護保険サービスの受容:介護保険認定患者がいる施設は91.5%。介護保険サービスに対し「満足している」施設36.1%で、「どちらともいえない」施設33.9%。「満足していない」施設23.6%とやや少なかった。
⑤医療保険制度と介護保険制度の関係:医療とケアマネジャー、施設との連携および啓発の重要性を指摘する意見が多く、次に介護保健サービスのさらなる充実を求める意見が多かった。
⑥PD注排液の支援:約10%の患者が注排液を本人以外に頼っていた。注排液介助者の内訳は、配偶者が4割以上で、次に子供が多く、親や兄弟などの親族すべて合わせると80%以上。
⑦注排液の実施場所:PD施設の13.5%に、自宅や職場以外で注排液を実施している患者がいた。その場所として、病院/診療所が最も多いパターンであり、次いでグループホーム。
⑧在宅PD患者に対する訪問診療・支援:PDの訪問診療・支援を行っている施設は全体の17.3%、担当職種は看護師が最も多く57.4%、医師27.7%、介護職員5.0%、栄養士4.0%の順。
⑨自宅または職場以外におけるPDのあり方:在宅PD実施の為のサポート体制の整備・拡大を求めるコメントが多く、次にPD患者受入れ施設(療養施設、ショートステイなど)が少ないとの指摘。介護職員もPDをきちんと実施できるよう法整備が必要だとする意見やPDの認知度をもっと向上させなければならないとする意見もあった。
(2)コンセンサスミーティングによる総括を踏まえた政策提言と勧奨[1~6 は特に重要]
1. 高齢化に伴う諸問題を解決する為、地方自治体も透析医療者とともに問題解決に取り組むべきである。
2. 冬期の気象条件が厳しい地域や公共交通機関が乏しい過疎地、離島等では、HD患者の送迎に対し地方自治体も支援を考えるべきである。
3. 長期入院HD患者の療養を円滑に進める為、HD実施可能な有床診療所にも慢性維持透析管理加算を認めるべきである。
4. 透析医療者や学会は、介護保険スタッフや地方行政の関係者に対し高齢化したHD、PD患者の窮状を訴えるとともに、透析に対する理解が得られるよう啓発を進めるべきである。
5. HDに対して薬価の割高感が強いPDの医療費を見直すべきである。
6. 従来のHD、PDの条件(方法)に縛られることなく、柔軟な姿勢でテーラーメイドの高齢者向け透析を進めるべきである。
7. HD施設による送迎が困難な場合、NPOや民間団体による送迎も考慮すべきである。
8. 特養や老健でHD、PD患者の受入れが進むよう、透析医や地方自治体はさらに努力が必要である。
9. 自立していない高齢HD患者の場合、送迎、介助によるHD施設への定期的通院の負担に配慮した介護保険認定を考慮すべきである。
10. HD用長期留置型カテーテルの管理法に関して学会や医会でマニュアルを作成することが望ましく、長期留置型カテーテルの製品改良も必要である。
11. PD治療における訪問看護ステーションの役割は大きく、訪問看護師のPDに対する理解、意欲が高まるようPD導入医や地方行政は努力すべきである。
12. PDを普及させる為、保険給付の中でPDに関わるかかりつけ医や看護師、その他に対するインセンティブを考慮すべきである。
結論
本研究により、透析医療現場で向き合うようになった高齢化に伴う問題点を整理し系統だった解決に向けた糸口を見出した。今後は本研究の成果をもとに現場の医師やコメディカル、行政、介護保険スタッフ、学会、透析医会が「高齢化に伴う諸問題」を強く意識し、高齢透析患者に対しよりよい透析医療が提供され、支援、介助、介護の環境が整備されることを祈る。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516002C

収支報告書

文献番号
201516002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,005,000円
(2)補助金確定額
2,005,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,607円
人件費・謝金 197,400円
旅費 695,414円
その他 899,579円
間接経費 210,000円
合計 2,005,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
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