文献情報
文献番号
201515001A
報告書区分
総括
研究課題名
急性期病院における認知症患者の入院・外来実態把握と医療者の負担軽減を目指した支援プログラムの開発に関する研究
課題番号
H25-認知症-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター 精神腫瘍学開発分野)
研究分担者(所属機関)
- 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
- 井上 真一郎(岡山大学病院 精神科神経科)
- 上村 恵一(市立札幌病院精神医療センター)
- 谷向 仁(京都大学)
- 金子 眞理子(東京医療保健大学 看護学部)
- 平井 啓(大阪大学 未来戦略機構)
- 清水 研(国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
- 木澤 義之(神戸大学大学院 医学研究科内科系講座 先端緩和医療学分野)
- 近藤 伸介(東京大学医学部附属病院 精神神経科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,351,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動
研究分担者 谷向仁
大阪大学保健センター(平成26年5月16日~平成27年7月31日)→ 京都大学 准教授(平成27年8月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
急性期病院における認知症患者の救急外来受診、ならびに急性期病院入院後の医療・ケアの実態を全国規模の調査で把握するとともに、医療従事者の負担を軽減する簡便な支援プログラムを開発し、その実施可能性を検証すること。
研究方法
急性期病院の認知症ケアに関して、1.救急外来受診の実態調査、2.急性期病院入院中の認知症患者の医療・ケアの全国調査、3. 認知症患者の受け入れ適正化を目指した周術期支援体制の検討、4.医療従事者の負担軽減に資する認知症ケアの支援体制の構築の4つを軸に診療録調査、質問紙による郵送調査、フォーカスグループインタビュー、介入試験を中心に実施した。
結果と考察
1. 認知症患者の救急外来受診の実態調査
救命センターや精神科救急に搬送される認知症患者は、病態が重症化し、入院期間が長くなる可能性が高く外来通院中からの自覚症状の把握とバイタルサインの確認が重要であることが示唆された。
2. 急性期病院入院中の認知症患者の医療・ケアの全国調査
a. 急性期病院の認知症対応の現状調査
送付できた2893施設の内、1291施設より回答を得た。認知症・せん妄に関する対応マニュアルの整備は救急病棟も含めほとんどなされておらず、院内での情報共有のための体制、地域との連携についても、認知症に関する情報共有体制が整備されていない。それらの背景として、急性期病院では認知症の知識や情報が不足している可能性が推察されるため、基本的な認知症ケアや支援体制に関する普及/啓発が必要である。特に、認知症患者のケアを中心的に担う看護師に対し、認知症看護の質の向上に資する教育が重要である。
b. 認知症における痛みの評価法と精神症状・行動障害に及ぼす影響の解明
痛みのもつ個人的意味、いつもと違うことの気づき、痛みの見分け方、既存スケールの限界、モデリングによるスキルの獲得などの概念が抽出された。現場の設定では、発見と介入が同時進行していること、良質のケアスキルの獲得は試行錯誤・モデリング・経験共有によってなされること、良質のケアの根底には共感と関わりに基づく観察と介入があることが示唆された。
3. 認知症患者の受け入れ適正化を目指した周術期支援体制の検討
専門・認定看護師が用いることのできるスクリーニングツールの必要性が示唆され、今後、周術期管理体制を構築していくための検討が望まれる。
4. 医療従事者の負担軽減に資する認知症ケアの支援体制の構築
a. 総合的機能評価法の確立に向けた研究
高齢の初発血液がん患者において、認知機能障害の頻度は約20%と低くないことが示された。CGAなどにおいて、認知機能障害がルーティンに評価されることの重要性が示唆された。
b. 認知症に対する包括的支援のための教育プログラムの開発に関する研究
本年度は、前年度の調査結果に基づき教育目標・コンテンツの骨格を制定し、次に介入プログラムを作成し、更に2015年9月および10月に一般病院2施設で実施した。その結果、プログラム実施前後で認知症に関する知識とケアに対する自信の向上が示され、プログラムの実施可能性ならびに臨床効果が示唆された。今後は、プログラムを病院に導入し、患者アウトカムを指標とした有用性の検証を行なっていく必要がある。
救命センターや精神科救急に搬送される認知症患者は、病態が重症化し、入院期間が長くなる可能性が高く外来通院中からの自覚症状の把握とバイタルサインの確認が重要であることが示唆された。
2. 急性期病院入院中の認知症患者の医療・ケアの全国調査
a. 急性期病院の認知症対応の現状調査
送付できた2893施設の内、1291施設より回答を得た。認知症・せん妄に関する対応マニュアルの整備は救急病棟も含めほとんどなされておらず、院内での情報共有のための体制、地域との連携についても、認知症に関する情報共有体制が整備されていない。それらの背景として、急性期病院では認知症の知識や情報が不足している可能性が推察されるため、基本的な認知症ケアや支援体制に関する普及/啓発が必要である。特に、認知症患者のケアを中心的に担う看護師に対し、認知症看護の質の向上に資する教育が重要である。
b. 認知症における痛みの評価法と精神症状・行動障害に及ぼす影響の解明
痛みのもつ個人的意味、いつもと違うことの気づき、痛みの見分け方、既存スケールの限界、モデリングによるスキルの獲得などの概念が抽出された。現場の設定では、発見と介入が同時進行していること、良質のケアスキルの獲得は試行錯誤・モデリング・経験共有によってなされること、良質のケアの根底には共感と関わりに基づく観察と介入があることが示唆された。
3. 認知症患者の受け入れ適正化を目指した周術期支援体制の検討
専門・認定看護師が用いることのできるスクリーニングツールの必要性が示唆され、今後、周術期管理体制を構築していくための検討が望まれる。
4. 医療従事者の負担軽減に資する認知症ケアの支援体制の構築
a. 総合的機能評価法の確立に向けた研究
高齢の初発血液がん患者において、認知機能障害の頻度は約20%と低くないことが示された。CGAなどにおいて、認知機能障害がルーティンに評価されることの重要性が示唆された。
b. 認知症に対する包括的支援のための教育プログラムの開発に関する研究
本年度は、前年度の調査結果に基づき教育目標・コンテンツの骨格を制定し、次に介入プログラムを作成し、更に2015年9月および10月に一般病院2施設で実施した。その結果、プログラム実施前後で認知症に関する知識とケアに対する自信の向上が示され、プログラムの実施可能性ならびに臨床効果が示唆された。今後は、プログラムを病院に導入し、患者アウトカムを指標とした有用性の検証を行なっていく必要がある。
結論
本年度は急性期病院における認知症患者の救急外来受診、ならびに急性期病院入院後の医療・ケアの実態を把握すべく、昨年度の予備調査の知見に基づき、全国規模の調査を実施した。今回の全国調査においては、病院や病棟におけるソフト面、ハード面双方の整備に加え、それらに関するスタッフへの教育も進んでいないことが明らかとなった。また全国の急性期病院においては、認知症に対応するスキルを有する専門/認定看護師や専門医が少なく、認知機能障害や精神症状の影響により入院治療を断らざるを得なかったケースも報告された。連携室への全相談のうちで在宅調整が行われたのは3割程度にとどまり、それ以外は他院への転院や施設への入所調整であったという結果も得られた。これは退院時に処置など介護を要する状態が生じていること、入院後のADL低下により介護力の強化が求められていることを反映している。今後、急性期病院における一般医療者への認知症診療・ケアの教育、多職種チームによるサポートを整備する必要がある。
また、本研究において、今後急性期病院において、認知症を合併する患者が増加することを鑑み、知識と実践をつなげ、看護師自身が自信をもってケアに取り組めるよう、認知行動療法・学習理論に基づいた教育プログラムを開発し、臨床効果が示された。今後は、プログラムを病院に導入し、患者アウトカムを指標とした有用性の検証を行なっていく必要がある。
また、本研究において、今後急性期病院において、認知症を合併する患者が増加することを鑑み、知識と実践をつなげ、看護師自身が自信をもってケアに取り組めるよう、認知行動療法・学習理論に基づいた教育プログラムを開発し、臨床効果が示された。今後は、プログラムを病院に導入し、患者アウトカムを指標とした有用性の検証を行なっていく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2016-05-23
更新日
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