文献情報
文献番号
201514005A
報告書区分
総括
研究課題名
生活行為障害の分析に基づく認知症リハビリテーションの標準化に関する研究
課題番号
H27-長寿-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学)
研究分担者(所属機関)
- 石川 智久(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学 )
- 田中 響(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
- 北村 立(石川県立高松病院)
- 川越 雅弘(国立社会保障・人口問題研究所)
- 堀田 聰子(国際医療福祉大学大学院)
- 小川 敬之(九州保健福祉大学大学院)
- 田平 隆行(西九州大学 リハビリテーション学部 リハビリテーション学科)
- 堀田 牧(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
- 村田 美希(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
- 吉浦 和宏(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,984,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新オレンジプランの認知症施策の一つである、「認知症患者の意思が尊重された地域生活の実現」とは、「認知症者の質の高い在宅生活をいかに継続・維持させるか」が基本となる。しかし、日常営まれる生活行為が障害されると在宅生活の質は低下し、本人の意思を尊重した地域生活は成り立たないため、認知症者の生活行為障害の原因を分析することが重要となる。そして、在宅生活に必要とされるADL・IADL行為を分析し、認知症者に見合った評価指標の選定、また開発の検討が必要となる。本研究では認知症専門医と作業療法士が協働して、認知症者の生活行為障害を疾患別・重症度別に分析・評価をすることで、「認知症者の生活行為を維持するための早期介入・早期支援の指標」となるガイドラインの確立を目的とする。今年度は、認知症者の生活行為障害の実態を明らかにすることを目的に、認知症の4大原因疾患である、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、脳血管性認知症(VaD)について、認知機能や重症度とADL・IADL行為の自立との関連を視覚的に検証した。
研究方法
平成19年4月~平成26年11月の期間、熊本大学医学部附属病院神経精神科認知症専門外来に初診し、以下の認知症と診断された患者895例(AD:635例, DLB:118例, FTLD:50例, VaD:92例)とその家族介護者を対象に、Mini-mental State Examination(MMSE),Clinical Dementia Rating(CDR),Physical Self-Maintenance Scale(PSMS),Lawton Instrumental Activities of Daily Living Scale(IADL)を、認知症専門医・作業療法士・精神保健福祉士・臨床心理技術者が、それぞれに面接にて評価した前向きデータベースを用いて検討した。ADL/IADLの自立度に関して、以下のように完全自立と修正自立とに定義づけを行い、MMSEとCDRとの関連を検討するため、PSMSおよびIADLにて生活行為障害の分析を実施した。
<完全自立>PSMSの各設問項目において、「1」を得点した場合を指す。IADLでは各項目で得点条件が異なるため、ここでは1番目に得点があった場合とする。
<修正自立(IADLのみ)>IADL各設問項目の1番目に得点があった場合と、1番目に得点がなく2番目に得点があった場合の両方を指す。すなわち修正自立には完全自立も含まれている。「買い物」「食事の支度」「服薬管理」の場合、2番目は「0」となるが、ここでは修正自立の得点とみなす。「食事の支度・家事・洗濯」のデータは女性のみのデータであるが、定義は同様である。
<完全自立>PSMSの各設問項目において、「1」を得点した場合を指す。IADLでは各項目で得点条件が異なるため、ここでは1番目に得点があった場合とする。
<修正自立(IADLのみ)>IADL各設問項目の1番目に得点があった場合と、1番目に得点がなく2番目に得点があった場合の両方を指す。すなわち修正自立には完全自立も含まれている。「買い物」「食事の支度」「服薬管理」の場合、2番目は「0」となるが、ここでは修正自立の得点とみなす。「食事の支度・家事・洗濯」のデータは女性のみのデータであるが、定義は同様である。
結果と考察
ADでは認知機能の悪化に従って、各行為はなだらかに悪化する傾向であった。一方、DLB、FTLD、VaDには明確な傾向は示されなかった。そのため、AD635例に絞って検討したところ、ADLではMMSEが中等度に悪化した18点前後から、「着替え」「身繕い」が急速に低下を示すが、「移動能力」は点数の低下と相関があり、なだらかに自立の低下が示され他の行為は重度になっても自立の割り合いが高く示された。一方、IADLは認知機能の低下とIADLの低下に高い相関があり、IADLは完全自立と修正自立の比較から、明らかに認知機能が低下しても少しの援助があればかなりの行為が維持され易いことが明らかになった。これはIADLバッテリーそのものが認知機能の検査に代用されるなど、従来からの指摘通り認知機能と高い相関があることから、IADL行為は認知機能の低下に伴った相関を示したと考えられた。他の3疾患には明確な傾向を把握することができなかった。その原因として、非ADの対象者数がADと比較して少ないことも一因として挙げられるが、各疾患の特性から考察すると、DLBでは日内での認知の変動や気分変動、パーキンソニズムなど症状が多彩で必ずしも臨床像が一致しないことが影響していると考えられる。また、FTLDでは失語などの影響から臨床サブタイプがあり、臨床像が一致しないことが同様に考えられ、VaDでは受傷部位によって症状が異なり、身体麻痺の影響も考えられた。
結論
本年度の研究結果より、ADの認知機能とADL・IADL行為との関係性が明らかになった。次年度は、ADの生活行為障害の各行為が、認知機能の低下・判断力の低下・生活環境など、どのような要因に強く影響されているかを調査・分析し、同時に、健常高齢者のADL・IADL行為を認知機能面と身体機能面から分析したノーマル指標の作成を目指す。ADとノーマルの比較検証を行い、共通する低下因子があれば、各行為の関連性について分析を行う予定である。
公開日・更新日
公開日
2016-06-30
更新日
-