腎移植患者のHTLV-1感染とHAMおよびATL発症に関する研究

文献情報

文献番号
201512007A
報告書区分
総括
研究課題名
腎移植患者のHTLV-1感染とHAMおよびATL発症に関する研究
課題番号
H27-難治等(免)-指定-101
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
湯沢 賢治(国立病院機構水戸医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所 ウイルス学)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 大学院 先端医療開発学)
  • 市丸 直嗣(大阪大学大学院 先端移植基盤医療学寄附講座)
  • 錦戸 雅春(長崎大学病院 血液浄化療法部)
  • 柴垣 有吾(聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科学)
  • 杉谷 篤(国立病院機構米子医療センター)
  • 中村 信之(福岡大学 医学部)
  • 三重野 牧子(自治医科大学情報センター 医学統計学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等政策研究 移植医療基盤整備研究分野)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 これまで、腎移植患者のHTLV-1感染とHAM発症、ATL発症について詳細な調査は行われていなかった。昨年度までの研究と報告を受けて、今年度はHTLV-1感染に関する危険群163例について、HTLV-1感染とHAM発症、ATL発症について、現存する診療録の記録、検査データーから観察研究を行うものである。これにより、腎移植全症例のドナーとレシピエントでのHTLV-1感染の実態が明らかになり、今後の腎移植医療の発展に資することを目的とする。
研究方法
1、調査対象 臨床腎移植登録のデータの2000年から2014年の腎移植症例から明らかになった、HTLV-1感染についての危険群としてD(+)→R(-)23例、D(+)→R(+)44例、D(-)→R(+)96例の計163例を調査対象とする。
2、調査項目の検討 ドナーとレシピエントの診療録の記載からHAMとATLに関わる調査とする。調査に先立ち、腎移植患者のHTLV-1感染とHAMとATL発症に関わる調査研究での調査項目を検討する。
3、日本移植学会倫理委員会への諮問 診療録からのデータ提供については、該当移植施設での倫理委員会での了承を得る必要があると考えている。この研究の実施、研究計画、該当施設での倫理委員会での了承の必要性について、日本移植学会倫理委員会へ諮問したいと考えている。
4、移植施設への依頼 移植施設で連結可能なデータとして存在するドナーとレシピエントの診療録と検査データについての提供を依頼する。後ろ向きの観察研究であるので、該当ドナーとレシピエントの同意は必要ないと考えるが、該当移植施設での倫理委員会に申請し了承を得たのち、調査項目を提供していただく。
5、解析 各移植施設から返された症例の集計データを解析する。これにより、HTLV-1感染についての危険群としての、D(+)→R(-)、D(+)→R(+)、D(-)→R(+)の各群について、臨床症状、検査データから、HAMおよびATL発症の頻度,発症までの期間,免疫抑制剤の使用状況,危険因子などが明らかになる。
結果と考察
 臨床腎移植登録からの解析により、2000年から2014年までで、生体腎移植と献腎移植で、HTLV-1感染に関する危険群として、D(+)→R(-)28例、D(+)→R(+)48例、D(-)→R(+)107例の計183例が登録されていることが明らかになった。回答が得られた症例は、D(+)→R(-)33例中15例、D(+)→R(+)46例中22例、D(-)→R(+)107例中48例であり、計85例となった。D(+)→R(+)では、HAMおよびATLを発症している症例はなかった。D(-)→R(+)では、HAMおよびATLの発症は両疾患を発症した1例で、HAMが移植後8年、ATLが移植後10年で発症し、11年で死亡している。感染時期は不明である。D(+)→R(-)は33例中9例にHAMが発症し、ATLの発症はなかった。HAMの発症は移植後平均4.5年であった。D(+)→R(-)症例のHAM発症率は33例中9例で27%であるが、今回の調査で回答があった症例は33例中15例であり、この中から9例がHAMを発症しており、回答症例から計算すると発症率は15例中9例で60%となる。今後、既登録データから、HAMやATL発症率,患者生存率,移植腎生着率,発症リスクに関与する因子を解析し、透析療法や腎臓以外の移植など腎移植症例以外の結果との比較することも必要である。このためには、腎移植前陰性レシピエントのHTLV-1感染判定、ドナーとレシピエントの血液検体を用いたプロウイルス量の測定、ドナーとレシピエントの予後調査を行う必要もある。これらの結果から、当該患者・家族および医療施設への相談支援体制の構築、相談可能な施設の紹介も含めた説明文書や診療マニュアルの配布などが必要である。
結論
 D(+)→R(+)では、HAMおよびATLの発症はなかった。D(-)→R(+)では、HAMおよびATLの発症は両疾患を発症した1例で、HAMが移植後8年、ATLが移植後10年で発症し、11年で死亡している。D(+)→R(-)は33例中9例にHAMが発症し、ATLの発症はなかった。HAMの発症は移植後平均4.5年で、HAM発症率は33例中9例で27%であったが、今回の調査で回答があった症例では15例中9例で60%であった。
 今後、腎移植前陰性レシピエントのHTLV-1感染判定、ドナーとレシピエントの血液検体を用いたプロウイルス量の測定、ドナーとレシピエントの予後調査を行う必要がある。これらの結果から、当該患者・家族および医療施設への相談支援体制の構築、相談可能な施設の紹介も含めた説明文書や診療マニュアルの配布など必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201512007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染者は、我が国に100万人以上存在し、発病は成人T細胞白血病(ATL)が5%、HTLV-1関連脊髄症(HAM)が0.25%程度とされ、発病までは50年程度と考えられていたため、腎移植は禁忌とはされて来なかった。今回の研究結果から、感染ドナーからの生体腎移植でシピエントがHTLV-1に新規に感染し、数年以内にHAMを通常の発症率に比べ60%という極めて高い割合で発症していること、発症後数年で急速に重篤な状態に進行する傾向があることが明らかになった。
臨床的観点からの成果
2000年から2014年までのHTLV-1感染に関する危険群について、D(+)→R(+)では、HAMおよびATLを発症している症例はなかった。D(-)→R(+)では、HAMおよびATLの発症は両疾患を発症した1例で、D(+)→R(-)は9例にHAMが発症し、ATLの発症はなかった。D(+)→R(-)症例の回答は15例であり、この中から9例がHAMを発症しており、これから計算すると発症率は15例中9例で60%となる。腎移植後に極めて高率で早期に、重症のHAM発症に至ることが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
本研究の先行研究を開始するにあたって、腎移植施設に注意喚起を行なった。内容は、1,今後の腎移植症例の全ドナー、レシピエントのHTLV-1感染の検査。2,陽性ドナーからの腎移植、陽性レシピエントの腎移植を行う場合、HAMが早期に発症し、重症化した症例があったことの告知と同意。3,腎移植後のHTLV-1感染レシピエントに対する厳重な経過観察。である。今後、本研究を継続し、腎移植におけるHTLV-1感染に関する指針を作成し、腎移植のガイドラインにも盛り込まれることが必要と結論された。
その他行政的観点からの成果
日本移植学会の臨床腎移植登録で、2000年から2014年の腎移植症例の中で、HTLV-1感染とHAM発症およびATL発症の危険群として、感染ドナーから非感染レシピエントへの腎移植 33症例、感染ドナーから感染レシピエントはの腎移植 46症例、非感染ドナーから感染レシピエントへの腎移107症例で、合計186例あることが明らかになった。これら186例についてレシピエントのHTLV-1ウイルス量を含めたHTLV-1についての感染状況、HAM発症およびATL発症の有無など、詳細な調査が必要と考えられた。
その他のインパクト
2015年10月の日本移植学会総会(熊本)で経過報告を行い、2016年3月の日本臨床腎移植学会(米子)で結果報告を行った際に、大いに関心を集め、その継続した詳細な研究、その成果としてのガイドライン作成が求められた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
2019-05-24

収支報告書

文献番号
201512007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,036,906円
人件費・謝金 0円
旅費 338,360円
その他 324,734円
間接経費 300,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-06-06
更新日
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