文献情報
文献番号
201510094A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-難治等(難)-一般-027
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
柳瀬 敏彦(福岡大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 成瀬 光栄(国立病院機構京都医療センター)
- 西川 哲男(独立行政法人労働者健康福祉機構・横浜労災病院)
- 笹野 公伸(東北大学)
- 長谷川奉延(慶應義塾大学)
- 田島 敏広(自治医科大学)
- 勝又 規行(国立成育医療研究センター)
- 棚橋 祐典(旭川医科大学)
- 岩崎 泰正(高知大学)
- 宗 友厚(川崎医科大学)
- 柴田 洋孝(大分大学)
- 山田 正信(群馬大学)
- 武田 仁勇(金沢大学)
- 曽根 正勝(京都大学)
- 佐藤 文俊(東北大学)
- 上芝 元(東邦大学)
- 方波見卓行(聖マリアンナ医科大学)
- 三宅 吉博(愛媛大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,483,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
副腎ホルモン産生異常症の実態把握に努め、科学的根拠に基づき、診断・診療指針を作成し、適切な診断・治療法を国民に提示することを目的とする。
研究方法
1.各種副腎疾患の診療指針作成:班会議等を通じて作成した。
2.副腎偶発腫の長期予後に関する全国疫学研究:H11-15年度に集積した3,672例の10年後長期予後追跡調査を施行、最終有効回答2,443例(回収率66.5%)を対象とし、ホルモン非産生腺腫(NFA)とサブクリニカルクッシング症候群(SCS)を含むコルチゾール産生腺腫(CPA)におけるメタボリック症候群(MS)関連疾患のサブ解析を行った。
3.施設臨床研究:今後の診断基準や診療指針の作成や改訂等のための基盤的研究として施設臨床研究を行った。実施に際しては種々の研究指針を遵守し、関連学会と連携の上、行った。
2.副腎偶発腫の長期予後に関する全国疫学研究:H11-15年度に集積した3,672例の10年後長期予後追跡調査を施行、最終有効回答2,443例(回収率66.5%)を対象とし、ホルモン非産生腺腫(NFA)とサブクリニカルクッシング症候群(SCS)を含むコルチゾール産生腺腫(CPA)におけるメタボリック症候群(MS)関連疾患のサブ解析を行った。
3.施設臨床研究:今後の診断基準や診療指針の作成や改訂等のための基盤的研究として施設臨床研究を行った。実施に際しては種々の研究指針を遵守し、関連学会と連携の上、行った。
結果と考察
1.診療指針・重症度分類の作成:(1)指定難病の副腎不全症4疾患(アジソン病、先天性副腎低形成症、先天性副腎酵素欠損症、ACTH不応症)に関して、新たに診療指針を作成した。アルドステロン合成酵素欠損症に関しては補充療法がグルココルチコイド(GC)ではなくミネラルコルチコイドであるため、重症度分類を新たに作成した。本班と日本内分泌学会が合同で作成した「副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断と治療に関する指針」を出版した(日本内分泌学会雑誌91,1-78, 2015)。(2) 偽性低アルドステロン症、GC抵抗症を追加指定難病候補として診断基準や重症度分類等の資料を厚労省に提出した。(3)副腎性クッシング症候群の改訂診断基準と重症度分類を作成した。
2.副腎偶発腫の長期予後に関する全国疫学研究: NFAとCPAはそれぞれ1298例(53.1%)、283例(11.6%)で、平均年齢は60.0±11.7歳と55.5±12.8歳、手術施行率は68.2%と26.2%であった。診断時高血圧症ありが43.8%と61.9%、降圧剤3剤以上でコントロール不良の割合は3.2と9.3%で、CPAで有意に高値であったが、直近では1.8および4.5%と改善していた。耐糖能異常は27.3と36.0%に認められ、CPAで有意に高値であったが、直近での改善もCPAで多い傾向にあった。CPAはNFAに比較して有意に若年で女性に多く、診断時腫瘍径は大きく、約3倍の手術率であった。MS関連疾患は、診断時にCPAでいずれも高頻度であったが、直近ではいずれも有意差が消失し、手術、降圧薬、スタチン、血糖降下薬等の投与による病態の改善が推定された。
3.施設臨床研究:(1) SCSの診断基準改定に向けた臨床研究:多施設共同臨床研究(福岡大学、九州大学、大阪大学、千葉大学、弘前大学、聖マリアンナ医科大学、浜松医科大学)として、副腎腫瘍530例のデータベースを構築した。本年度は、コルチゾールアッセイキットの標準化により、1mgDSTの血中コルチゾール3μg/dL以上というSCSの診断に与える影響を検討した。対象は標準化のための補正式が存在するECLIA法(ロシュ)294例とCLEIA法(シーメンス)124例を対象に検討した。その結果、桑らの校正式で校正を行った場合、一部のSCS例においてSCSが非SCSと診断が変わったが、非SCS例は全例非SCS例のままであった。1mgデキサメサゾン(DEX)抑制試験(DST)のコルチゾール値が現行基準で3.0-3.3μg/dl、新基準案で2.0-2.3μg/dlの症例でSCSから非SCSと診断が変わったが、深夜血中コルチゾールが高値等の他所見を参考にすれば、総合判断は可能と思われた。校正前後の診断一致率はいずれの診断基準を用いても96%以上と高かった。SCSの診断基準の提示においてはごく一部の境界領域の症例については参考としての補正式の提示と同時に、測定値の解釈に関する注釈を加える方法を考慮する予定である。(2)副腎腫瘍に対するDex負荷量と血中濃度測定の検討:0.5mgあるいは1mg DEX投与時の薬物動態を検討、ACTH抑制の観点からは、1mgDSTの優位性が明らかとなり、負荷試験の選択(0.5mgDST vs 1mgDST)に貴重なエビデンスを提供した。(3)原発性アルドステロン症(PA)の新規病理組織学的分類の試み:片側性でCT陰性のPAで手術切除された15例において免疫組織化学的検討から、アルドステロン合成酵素のCYP11B2が球状層全体かあるいは過形成性結節に限局するタイプに分類可能であった。前者はいわゆるDHMNに、後者は UMNに相当すると推定された。
2.副腎偶発腫の長期予後に関する全国疫学研究: NFAとCPAはそれぞれ1298例(53.1%)、283例(11.6%)で、平均年齢は60.0±11.7歳と55.5±12.8歳、手術施行率は68.2%と26.2%であった。診断時高血圧症ありが43.8%と61.9%、降圧剤3剤以上でコントロール不良の割合は3.2と9.3%で、CPAで有意に高値であったが、直近では1.8および4.5%と改善していた。耐糖能異常は27.3と36.0%に認められ、CPAで有意に高値であったが、直近での改善もCPAで多い傾向にあった。CPAはNFAに比較して有意に若年で女性に多く、診断時腫瘍径は大きく、約3倍の手術率であった。MS関連疾患は、診断時にCPAでいずれも高頻度であったが、直近ではいずれも有意差が消失し、手術、降圧薬、スタチン、血糖降下薬等の投与による病態の改善が推定された。
3.施設臨床研究:(1) SCSの診断基準改定に向けた臨床研究:多施設共同臨床研究(福岡大学、九州大学、大阪大学、千葉大学、弘前大学、聖マリアンナ医科大学、浜松医科大学)として、副腎腫瘍530例のデータベースを構築した。本年度は、コルチゾールアッセイキットの標準化により、1mgDSTの血中コルチゾール3μg/dL以上というSCSの診断に与える影響を検討した。対象は標準化のための補正式が存在するECLIA法(ロシュ)294例とCLEIA法(シーメンス)124例を対象に検討した。その結果、桑らの校正式で校正を行った場合、一部のSCS例においてSCSが非SCSと診断が変わったが、非SCS例は全例非SCS例のままであった。1mgデキサメサゾン(DEX)抑制試験(DST)のコルチゾール値が現行基準で3.0-3.3μg/dl、新基準案で2.0-2.3μg/dlの症例でSCSから非SCSと診断が変わったが、深夜血中コルチゾールが高値等の他所見を参考にすれば、総合判断は可能と思われた。校正前後の診断一致率はいずれの診断基準を用いても96%以上と高かった。SCSの診断基準の提示においてはごく一部の境界領域の症例については参考としての補正式の提示と同時に、測定値の解釈に関する注釈を加える方法を考慮する予定である。(2)副腎腫瘍に対するDex負荷量と血中濃度測定の検討:0.5mgあるいは1mg DEX投与時の薬物動態を検討、ACTH抑制の観点からは、1mgDSTの優位性が明らかとなり、負荷試験の選択(0.5mgDST vs 1mgDST)に貴重なエビデンスを提供した。(3)原発性アルドステロン症(PA)の新規病理組織学的分類の試み:片側性でCT陰性のPAで手術切除された15例において免疫組織化学的検討から、アルドステロン合成酵素のCYP11B2が球状層全体かあるいは過形成性結節に限局するタイプに分類可能であった。前者はいわゆるDHMNに、後者は UMNに相当すると推定された。
結論
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究を様々な観点から行い、多くの成果が得られた。これらは本領域の病態の理解、新たな診断法や治療法の開発に有用と考える。
公開日・更新日
公開日
2017-03-31
更新日
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