包括的感染症情報システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800498A
報告書区分
総括
研究課題名
包括的感染症情報システムの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
井上 榮(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小池 麒一郎(日本医師会常任理事)
  • 鈴木 大輔(成田空港検疫所長)
  • 大友 弘士(東京慈恵医大熱帯医学教室教授)
  • 相楽 裕子(横浜市立市民病院感染症部長)
  • 高山 直秀(都立駒込病院小児科医長)
  • 大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所所長)
  • 木村 幹男(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は新興・再興感染症が国内に発生した際の危機管理体制を整備するために、国内の機関が分担協力して、国内外の感染症情報の収集、解析、伝達および輸入感染症の早期診断治療が可能となるようなシステムを構築することを目的としている。そのために我が国に必要と思われる4つの項目についてサブグループを作り、空港検疫所を中心とした海外渡航者における感染症の迅速診断(マラリアなど)の継続、海外での感染症の流行の情報収集や、輸入感染症、特に渡航者の下痢症の監視と集団発生を把握すること、あるいは輸入感染症の診断に役立つ諸外国におけるマニュアルの比較検討、日本医師会などとの協力体制の構築。さらに、感染症新法の施行に伴う病原体サーベイランスのあり方について検討を行う。
研究方法
平成11年度は4つのグループを組織した。①渡航者の不明発熱に対する対処体制②海外渡航者の下痢症のネットワーク③海外感染症の情報の収集伝達④感染症新法の施行時における病原体サーベイランス体制
①熱帯熱マラリアの迅速診断キットを数箇所の空港検疫所で希望者を対象に検査を昨年より継続した。昨年度は不明熱患者における、診断のマニュアルの原案を作成したが、今年度は海外からの帰国者、その中でも1類感染症である出血熱が疑われる際のマニュアルについて諸外国のものの比較検討を行った。また、駒込病院での海外での動物に噛まれ、狂犬病ワクチンの暴露後接種を行った患者の解析を行った。
②は関西空港検疫所・成田空港検疫所、横浜市立市民病院、大阪市立総合医療センター、駒込病院、日本医師会などと電子ネットワークを構築し、渡航者の下痢症について、その病原体、発病日、推定罹患先などについて解析を行ってきたが、これを継続し、さらに集団発生の捕捉が可能であるか検討する。また、駒込病院における赤痢感染例についての過去からの集計をもとに解析を行った。
③成田検疫所が始めたプロメド情報(米国の科学者協会などが主体となってインターネット上で電子メールを用いて新興・再興感染症の監視を世界的規模で行うシステム)の翻訳情報を昨年発信し始めたが、今年も継続し、感染症情報センターにおいても、インターネット情報を含む、包括的な感染症情報について情報収集、分析をし、必要に応じて、その情報をホームページ、メーリングリストなどを通じて発信しているがこれを継続する。さらに、黄熱病ワクチン接種者や大学生などのハイリスク・グループを対象に実態調査をおこなった。
④感染症新法において、病原体の検査能力の充実がうたわれているが、病原体サーベイランスについて、主に地研における検査、サーベイランス体制について検討を行う。
結果と考察
①成田空港検疫所でのマラリア迅速診断で2例の熱帯熱マラリア患者を捕捉することが出来、専門病院への迅速な紹介が可能であった。諸外国の出血熱が疑われる際のマニュアルを比較検討を行った。駒込病院において海外で動物に噛まれ、狂犬病ワクチンの暴露後接種を受けた患者の解析を行い、男女差は見られなかったが、若者の割合が高く、暴露した場所としてはタイが多かった。
②毎週、毎月の渡航者下痢症の実態について監視を行った。そのなかで、9月下旬におきたイタリア旅行者からのサルモネラ・エンテリティディス感染症の集団発生を捕捉することが可能であり、さらに、疫学的、実験室学的なアプローチにより、感染源がホテルの朝食のスクランブルエッグであることを解明した。また、年間を通じてもっとも旅行者が多い8月が感染者も多かった。12月、1月は必ずしも多くなく、3月に若者の間での感染が特徴的であった。駒込病院における赤痢患者の解析を行い、若者における感染者が多く、感染地としてはインドが多かった。
③感染症情報システムの中での検疫所の役割について検討し、検疫法の改正に伴い海外感染症情報の収集・発信が重要であることが確認された。また、黄熱病ワクチンの接種者における調査では、海外情報については旅行業者から得ていたものの、ワクチンの重要性については、不十分であった。また、大学生協での情報提供についての調査では情報提供をしているところも7個所のうち3個所みられたが、情報の内容は必ずしも十分ではなかった。
④地研は1類から4類感染症の病原体サーベイランスを担当し、感染症対策の科学的・技術的中核として機能すべきであるとして、更なる病原体検出技術の向上と、地域での感染症情報センターとしての役割、実地疫学調査専門家との協力体制が必要である。
結論
①熱帯熱マラリアの簡易キットは、迅速診断において有用であることがわかった。すでに2例の患者を捕捉することが出来ており、空港検疫所における有力な補助診断試験となっている。さらにデング熱など迅速診断試験が実用化されており、国内で診断が容易でない病原体については空港検疫所における迅速試験のいっそうの普及が望まれる。諸外国における出血熱発生時の対応マニュアルを比較検討を行い、昨年は不明熱患者の診断マニュアルの原案を策定しているので、国内の実状や法律にあわせた日本におけるマニュアルの作成が望まれる。海外での動物に噛まれて狂犬病ワクチンの暴露後接種をうける患者が増加しており、海外での病気に関し、とくに若者に対する一層の知識や予防手段の教育が望まれる。
②今回、イタリアからの海外旅行者帰国者の中での下痢症の集団発生を捕捉し、感染源を特定することが可能であったが、このネットワークを充実させ継続し、さらに来年度から養成される実地疫学者との協力で、疫学と実験室診断を結び付けたアプローチが重要となる。赤痢などについても若者の感染者が多いことから、これら若者への感染症の知識、予防方法の効果的な教育などが必要である。
③感染症研究所・感染症情報センターと成田空港検疫所が速報性に優れたプロメド情報を必要に応じて翻訳して関係期間に伝達すること、感染症情報センターにおいてはさらに国内外の感染症誌や、主要な国の感染症の週報についても毎週情報をスクリーニングし、必要な情報については電子メールを使って、厚生省や日本医師会の感染症危機管理対策室などとの情報交換が可能となり、国内でも海外情報の発信は活発になってきている。今後、これらの情報をハイリスク・グループに対していかに伝達するかが問題となる。
④感染症新法の施行に伴い、地検での検査体制の充実が望まれるが、さらに、地域の感染症情報センターとしての役割や、実地疫学調査専門家との協力体制などが必要となる。包括的な感染症情報システムを構築するために、この研究班においてすでに具体化し、活動を始め、成果をあげているものもあり、さらなる継続・充実が望まれる。

公開日・更新日

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