エビデンスに基づいた神経免疫疾患の早期診断基準・重症度分類・治療アルゴリズムの確立

文献情報

文献番号
201510057A
報告書区分
総括
研究課題名
エビデンスに基づいた神経免疫疾患の早期診断基準・重症度分類・治療アルゴリズムの確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-074
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
松井 真(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 修一(信州大学 医学部)
  • 荻野 美恵子(北里大学 医学部)
  • 梶 龍兒(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 神田 隆(山口大学 大学院医学系研究科)
  • 吉良潤一(九州大学 大学院医学研究院)
  • 楠 進(近畿大学 医学部)
  • 久保田 龍二(鹿児島大学 医歯学総合研究科)
  • 桑原 聡(千葉大学 医学研究院)
  • 清水 潤(東京大学 医学部)
  • 清水 優子(東京女子医科大学)
  • 鈴木 則宏(慶應義塾大学 医学部)
  • 園生 雅弘(帝京大学 医学部)
  • 祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 竹内 英之(名古屋大学 環境医学研究所)
  • 田中 正美(宇多野病院 神経内科)
  • 中辻 裕司(大阪大学 医学系研究科)
  • 新野 正明(北海道医療センター 臨床研究部)
  • 西澤 正豊(新潟大学 脳研究所)
  • 野村 恭一(埼玉医科大学 総合医療センター)
  • 酒井 康成(九州大学 大学院医学研究院)
  • 藤原 一男(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 松尾 秀徳(長崎川棚医療センター 臨床研究部)
  • 横田 隆徳(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 本村 政勝(長崎総合科学大学)
  • 山村 隆(国立精神・神経医療研究センター)
  • 吉川 弘明(金沢大学 保健管理センター)
  • 渡邊  修(鹿児島大学 大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
16,420,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 藤原一男 東北大学大学院医学系研究科(平成27年4月10日~平成27年9月30日)→ 福島県立医科大学医学部(平成27年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
神経免疫疾患として分類される疾患のうち、難病指定を受けたMS/NMO、MG、ビッカースタッフ脳幹脳炎、CIDP、MMN、クロウ・深瀬症候群、HAM等について、早期診断基準の策定、重症度分類や判定基準を客観的に示すことにより個々の患者の社会的ニーズに応じた医療行為や社会資源の効率的な利用に寄与すること、さらには治療アルゴリズムを確立することによって標準的な治療水準を高めるとともに、個々の患者の病態に応じた治療手段を選択することができるような医療体制の改善を包括的に行う。新たな難病指定により、アトピー性脊髄炎とアイザックス症候群を研究の対象に加え、さらにビッカースタッフ脳幹脳炎の難病指定と関連して、自己免疫性脳炎を新たな研究対象とした。
研究方法
上記の研究対象疾患は、免疫異常が関与した病態を有するため、早期診断、重症度、治療選択基準のいずれにおいても、免疫指標や標的組織破壊といったバイオマーカー研究の進歩が大きく寄与する。したがって、研究室レベルでの研究成果と患者予後やQOLに直結する臨床データを有機的に結びつけ、その研究成果の社会への貢献度が追跡できるシステムが必要である。このような目的を効率よく達成するために、対象疾患が多岐にわたる本班では、領域別担当幹事を6名指名し、リーダーとしてグループ内で意見を調整しながら具体的かつ主体的に調査研究を進めた。バイオマーカーの測定等については、患者の臨床検査結果や試料を使用するすべての臨床研究において、各施設の倫理委員会の承認後に十分なインフォームドコンセントを得て行なわれた。
結果と考察
先ず、慎重な討議を重ねてMGの改訂診断基準を作成し、厚労省へ提出した。また、新たな指定難病候補としてランバート・イートン筋無力症候群を取り上げ、診断基準を策定した。抗MuSK抗体の経時的測定が同抗体陽性MG患者の病勢を反映する可能性が指摘された。
 MS/NMOにおいて、難病法制定による臨床調査個人票の新規用に10件、更新用に6件の意見を付して改良し、AMEDプロジェクトで行なわれているMS/NMO患者登録システム情報の一部を補完し得る質を確保した。また、同疾患の高次脳機能障害の重症度分類を行なう上で、Brief International Assessment of Cognition for Multiple Sclerosis (BICAMS)が日常診療で使用するに堪える実用的な基準であることが示された。脳萎縮はMS/NMO患者の高次脳機能障害と関連するが、客観的評価は画像解析ソフトの面で必ずしも容易ではない。しかし、VSRADとSienaという2つのソフトを使用し、灰白質の萎縮が脳萎縮に関与する割合が大きいことが明らかにされた。一方、小児のMS/NMOについては、10年前の全国調査を踏まえて二次調査を行なった結果、MS再発予防薬としてのインターフェロン製剤は、安全性と忍容性は確認できるものの、実際の有効性の検証は不十分であることが判明した。MSの臨床面では、フィンゴリモドはインターフェロンβとは異なり、血清セマフォリン4Aの値に関わらず同薬は有効であり、MS患者の骨粗鬆症を抑制する可能性が示された。一方、NMO患者では、タクロリムス併用療法が再発抑制に有効である可能性が指摘された。抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性患者の髄液バイオマーカーの検索の結果、脱髄が主体であることが判明し、抗AQP4抗体陽性患者に比して血液中のtransitional B細胞とnaïve B細胞が増加していることが示された。MS/NMO診療ガイドライン作成のため、110のClinical Question(CQ)を同作成委員会で決定したが、原稿が揃い、平成28年度内の出版が視野に入る状況である。
新たな指定難病候補として、自己免疫機序が考えられる脳炎・脳症の全国調査の必要性が指摘され、NMDAR脳炎、VGKC脳炎、橋本脳症が対象として相応しいことが確認された。関連して、自己免疫性脳炎の概念としてDubeyらの基準が妥当であることが示された。さらに、肥厚性硬膜炎とスティッフパーソン症候群も、新たな指定難病候補と考えられ、ANCA関連肥厚性硬膜炎の診断基準としてWattsらの基準を使用することの妥当性と治療反応性が検証され、スティッフパーソン症候群の暫定的な診断基準と重症度分類が提唱された。
結論
政策研究班としての本研究班であるが、実用化研究班(AMED)における基礎分野の学際的研究や動物実験の成果が、本研究班での対象疾患への応用(早期診断基準の抽出や重症度分類など)を実現するための原動力となることが、合計12班で開催した合同班会議における活発な討論から明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201510057Z