プリオン病の高感度診断技術の開発

文献情報

文献番号
199800494A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の高感度診断技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 秀宗(国立感染症研究所)
  • 神山 恒夫(国立感染症研究所)
  • 澤田 純一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岡田 義昭(国立感染症研究所)
  • 北本 哲之(東北大学)
  • 小野寺 節(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
汚染脳硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病の発生、牛屑肉を介した牛海綿状脳症の人への伝播等、伝達性海綿状脳症の感染による発生が現実のものとなっていることから、該疾病の感染因子をバイオアッセイにより高感度にしかも短時日で検出できる実験動物の開発と、その構成蛋白であるPrPScを高感度で迅速に検出する試料調整法及び検出法を開発し、人への伝播を未然に防止することを目的とする。
研究方法
1)感染因子を高感度で速やかに検出できる実験動物として人、牛、羊などプリオン病の宿主のプリオン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスの開発と、2)感染因子を構成するプリオン蛋白(PrP)を免疫生化学的に高感度に検出する方法の開発の両面から、研究を進める。
結果と考察
1.プリオン蛋白、PrPScの高感度検出
1)PrPSc検出用の、特異性と親和性の高い抗体の作成
PrPの複数ヶ所のアミノ酸配列に一致した合成ペプチドに対するポリクローナル抗体と一部モノクローナル抗体も得られた。関連蛋白に対する抗体を含め10種以上作成された。PrPScのコアのN末端領域を含むペプチドに対する抗体は一般に高力価であった。次いでC末端領域に対する抗体が使用に耐えるものであった。
2)PrPSc検出用試料の調整
スクレイピーでは発症前から細網リンパ系組織にPrPScが蓄積されるが早期では微量である。また畜産物や医療用材原料などを汚染するプリオンは微量と推定される。このような微量プリオンのPrPScを検出するためには、選択的に効率良くPrPScを濃縮する試料調整が最も重要となる。今回、コラーゲンおよびゼラチンを対象とした試料調整法を確立した。試料容量は50mlで回収率が30%程度のため、なお改良の余地がある。大容量の血清などの蛋白溶液を対象とした試料調整法、抗体を用いた濃縮法、PrPScの金属塩等との親和性を利用した濃縮法などの検討に入っている。
3)PrPScの検出系
試料調整法の改良と適当な抗体および最適なブロット条件の組み合わせにより、ウエスタンブロット法(WB法)で感染価にしておよそ8×103LD50、感染脳重量にして20μg中のPrPScが検出可能な段階に至った。調整された試料をグアニジンで可溶化し、プレートに吸着させる方法を開発し、ELISA法も可能となった。化学発光を用いたELISA法を開発し、その感度はWB法の20倍であった。蛍光法は、試料によるクエンチング効果のため、組織から調整された試料の高感度測定は成功しなかった。
2.バイオアッセイ系の開発
1)ヒト・プリオンに対する高感受性のマウスの樹立
ヒト型のトランスジェニック・マウスを樹立したが、マウスPrP遺伝子の存在が影響して、潜伏期が予想したほど短くなかった。そこで、ヒト型のトランスジェニック・マウスとプリオン蛋白のノックアウトマウスを交配し、完全にトランスジーンだけが発現するというマウスを作成した。この樹立されたマウスはヒト・プリオンに対して高感受性であった。
2)ヒツジ型のトランスジェニック・マウス
羊PrPの発現が確認されたトランスジェニック・マウス4系統が樹立された。これらのマウスの羊スクレピープリオンに対する感受性を感染試験を行い観察中である。一方、人型マウスの経験から、ヒツジ型のトランスジェニック・マウスをプリオン蛋白のノックアウトマウスと交配し、完全ヒツジ型の作成に入っている。
3)オリックス型トランスジェニック・マウス
牛プリオンに対して牛や羊より数千倍感受性が高いと考えられるシロオリックスのPrP遺伝子を導入したトランスジェニック・マウスの系統を樹立した。このマウスとプリオン蛋白のノックアウトマウスと交配して完全シロオリックス型を作成している。
抗原エピトープの違った抗体が幾つか用意できた。これらの抗体はPrPScの検出以外に、その構造研究にも有用と考えられる。
組織、液体試料中の微量PrPScを検出するための試料調整法として、従来からの、界面活性剤不溶物で蛋白分解酵素抵抗性の性質を利用した濃縮法には限界がある。このため、大容量の試料から濃縮するためには、PrPの銅イオン、ニッケルイオン等との高親和性等を利用したステップを加えることも必要と考えられる。
ヒト型トランスジェニックマウスより、ヒト型PrPだけを発現するマウスが有効なことが分かった。現在羊型トランスジェニックマウスの感染試験が進んでいるが、ヒト型と同様マウス遺伝子の影響からか、予期したほど潜伏期は短くない。ヒツジPrPだけを発現するマウスが完成次第、感染試験を計画している。それぞれのPrP発現マウスの感染実験系でより潜伏期が短いことが証明できれば、細網リンパ系組織からPrPScが検出できるか否かを検討する必要がある。これらからPrPScを検出することによりより早期に診断可能となることが期待できる。僅か懸念されることは、β-アクチンプロモーターによるオリックス型PrP発現マウスでのプロモーターの影響である。感染試験によりこの点は明らかとなろう。
結論
PrPSc検出のための試料調整法は、対照が多様なため個々に対応する必要がある。血液、血清等について、これまでに開発できていない。次年度はこの点も解決する必要がある。ヒト型PrPだけを発現するマウスはヒトプリオンに高感受性であった。ウシ及びヒツジ型のキメラトランスジェニックマウスのヒツジスクレイピー感染試験は進行中であるが、高感受性とはいえない。ヒツジPrP及びオリックスPrPだけをそれぞれ発現するマウスの樹立が進行中である。

公開日・更新日

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