難治性聴覚障害に関する調査研究

文献情報

文献番号
201510027A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性聴覚障害に関する調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-032
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐美 真一(国立大学法人信州大学 学術研究院医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 諭(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学 医学部)
  • 原 晃(筑波大学 医学医療系)
  • 石川 浩太郎(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 池園 哲郎(埼玉医科大学 医学部)
  • 野口 佳裕(信州大学 医学部)
  • 武田 英彦(虎の門病院 耳鼻咽喉科)
  • 加我 君孝(東京医療センター臨床研究センター)
  • 松永 達雄(東京医療センター臨床研究センター)
  • 小川 郁(慶應大学 医学部)
  • 山岨 達也(東京大学 医学部)
  • 佐野 肇(北里大学 医療衛生学部)
  • 岩崎 聡(信州大学 医学部)
  • 曽根 三千彦(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院)
  • 西崎 和則(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 羽藤 直人(愛媛大学 医学部)
  • 中川 尚志(九州大学 医学部)
  • 東野 哲也(宮崎大学 医学部)
  • 高橋 晴雄(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 小橋 元(獨協大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,355,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難聴は音声言語コミュニケーションの際に大きな障害となるため、日常生活や社会生活の質(QOL)の低下を引き起こし、長期に渡って生活面に支障を来たすため、診断法・治療法の開発が期待されている重要な疾患のひとつである。しかしながら、①聴覚障害という同一の臨床症状を示す疾患の中に原因の異なる多くの疾患が混在しており、②各疾患ごとの患者数が少なく希少であるため、効果的な診断法および治療法は未だ確立されていない状況である。本研究では、急性高度感音難聴(突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、外リンパ瘻、自己免疫性難聴、ムンプス難聴、音響外傷、薬剤性難聴)および、慢性高度難聴(遺伝性難聴、特発性難聴、症候群性難聴、外耳・中耳・内耳奇形、耳硬化症、サイトメガロ難聴)を対象に、All Japanの研究体制で調査研究を行う事により、希少な疾患の臨床実態および治療効果の把握を効率的に実施し、診断基準の改訂、重症度分類の改訂および科学的エビデンスに基づいた診療ガイドラインの策定を目的としている。
研究方法
平成27年度は前年度までに引き続き、診断基準改定、診療ガイドライン策定および改訂のための基盤情報となる症例登録レジストリ・ソフトウエアを用いた症例登録を中心的に実施した。各施設過去20年分(電子カルテの導入時期により過去10年分)の臨床データの収集を目標にデータ収集を行い、罹患者頻度の比較的高い突発性難聴に関しては3,149例、急性低音障害型感音難聴は1,052例と遺伝性難聴に関しては3,450例と非常に多くの症例の詳細な臨床情報(家族歴、聴力像、随伴症状、重症度)および治療実態(治療法とその効果)のデータを収集することができた。また、症例数の比較的多い突発性難聴に関しては、予後予測因子、治療効果に影響を及ぼす因子に関する検討を行った。
結果と考察
突発性難聴に関しては今年度収集された症例データのうち治療効果に関する臨床情報の揃っていた2,938例を対象に重症度・治療効果に関連した因子を検討した。その結果、めまいの随伴、心疾患の既往、脳梗塞の既往、糖尿病の既往が重症度や治療効果に影響を及ぼすことが明らかとなった。また、我が国における治療実態に関しては、ステロイドの全身投与が行われていた症例が2,436例(82.9%)、ステロイドの鼓室内投与の行われた症例が646例(21.9%)(うち、439例は全身投与も実施されており、サルベージ治療の可能性が考えられる)であった。全体でみると全身あるいは鼓室内投与のいずれかでステロイド剤を用いている症例は2,643例(89.9%)であり、大部分の症例に関して副腎皮質ステロイド剤が用いられていた。併用薬剤別に見た治療前の重症度と治療効果に関して検討では、プロスタンディン製剤を併用した群では、併用しなかった群よりも、初診時の重症度が高いにもかかわらず、同等の治療成績となることが比較的多数の症例の検討により明らかになった。今後これらのエビデンスを確立し診療ガイドラインへと反映させる計画である。
 また、遺伝性難聴に関しては、昨年度までに作業を行った診療の手引きに関して、関連学会(日本聴覚医学会および日本耳鼻咽喉科学会)の承認のためのレビューを受けた。
日本耳鼻咽喉科学会によるレビューにおいて指摘事項に関する加筆修正を行い、修正版を再度、日本耳鼻咽喉科学会に提出し承認を得て、平成28年2月に日本耳鼻咽喉科学会 推薦を受けて一般社団法人 日本聴覚医学会 編にて「遺伝性難聴の診療の手引き2016」として出版を行った。また、各遺伝子変異による難聴に関するシステマティックレビューを実施し、治療法としての補聴器、人工内耳の効果に関する論文のレビューを実施した。以上の成果に関しても、前述「遺伝性難聴の診療の手引き2016」に反映させた。
結論
平成27年度は当初計画通り、診断基準改定、診療ガイドライン策定および改訂のための基盤情報となる症例登録(臨床情報調査)に向けた基盤整備を中心に研究を行った。具体的には、症例登録レジストリ・ソフトウエアを用いた症例登録を行い、効率的にデータを収集できている状況である。特に突発性難聴と遺伝性難聴に関しては、共に現時点で3,000例を超える症例の詳細な臨床情報家族歴、聴力像、随伴症状、重症度)および治療実態(治療法とその効果)のデータが収集されており、非常に効率的に解析を行う基盤が整いつつある。また、遺伝性難聴に関しては前年度より作業を進めていた「診療の手引き」に関して日本耳鼻咽喉科学会のレビューおよび修正を経て2016年2月に出版することができた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
201510027Z