文献情報
文献番号
201510020A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性GPI欠損症の疾患概念の確立と診断基準の制定:発達障害・てんかんを主症状とする新しい疾患
課題番号
H26-難治等(難)-一般-024
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
村上 良子(大阪大学 微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
- 井上 徳光(大阪府立成人病センター研究所)
- 高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,212,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
GPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーは150種以上の蛋白質を細胞膜に繋ぐ糖脂質でその生合成と修飾に27個の遺伝子が必要である。これらの遺伝子に変異があると種々のGPIアンカー型蛋白質(GPI-AP)の細胞膜上の発現が低下、あるいはアンカーの構造が異常となり、精神発達障害やてんかん、時に高アルカリホスファターゼ(ALP)血症を来す。本研究班ではまず先天性GPI欠損症(IGD)の疾患概念を確立し診断基準・診療ガイドラインを作成する。また効率的な診断システムを確立し診断が確定すれば、匿名化した上で疾患データベースに患者情報を集積して情報を共有し、今後の診断に役立てる。ビタミンB6(ピリドキシン)の投与が難治性てんかんに著効する症例があるので早期の的確な診断が重要である。
研究方法
精神発達障害、てんかん、高ALP血症を伴う患者の末梢血のフローサイトメトリー検査で顆粒球におけるGPIアンカー型タンパク質の発現を確認する。CD16bの発現低下が見られれば、IGDの診断は確定する。責任遺伝子同定の為に末梢血から抽出したゲノムを用いてGPI関連遺伝子のターゲットエクソームシークエンス、あるいは横浜市立大学の遺伝子解析拠点班と連携して全エクソームシークエンスを行った。さらに患者情報の集積の為に現在大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースの構築を前年度から開始している。
結果と考察
結果
(1) 患者の診断と患者情報の集積
今年度は国内から61例のフローサイトメトリー解析を行い、5人でCD16の明らかな低下を認め、IGDと診断した。現在横浜市立大学にて全エクソーム解析を施行中であるが、まだ責任遺伝子が判明していない。また日本の症例を含めた海外との共同研究により世界で初めてPIGG欠損症を報告した。PIGG欠損症は早期発症型てんかん性脳症の症例から見つかっている。PIGGはGPIアンカーの2番目のマンノースにエタノールアミンを付加する酵素であるが、このエタノールアミンがなくても反応が進み、後にこのエタノールアミンが除かれるステップがあるためPIGGノックアウトの培養細胞ではGPIアンカー型タンパク質は細胞表面に正常量、かつ正常の構造で発現することがわかっている。そのため今までPIGGが担うステップの役割が不明であった。しかし患者が発見されたことで、この遺伝子が神経発達に重要な働きをしていることがわかった。また最近ではGPI pathway以外の遺伝子変異によるIGDも見つかっており、他の疾患とオーバーラップする症例も今後見つかってくると考えられる。多くの症例を集積してその特徴を詳細に観察することが重要である。患者情報の集積については大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースが完成し、運用を始めている。現在英語版を作製中で、海外症例も含める予定である。
(2) 診療ガイドライン、疾患ホームページの作成
診療ガイドラインが完成し、日本小児神経学会のホームページと疾患ホームページに掲載している。(http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/)
考察
疾患ホームページを作成したので、そこで多くの臨床医にIGDの診療ガイドラインを示すことにより、多くの原因不明の疾患からスクリーニングによりIGDを抽出することが可能になる。さらには遺伝子解析に至る前にベッドサイドでより正確に診断する為に新規の疾患マーカーを検索する必要がある。リン酸化のないビタミンB6(ピリドキシン) の投与がけいれん発作に著効する症例があり、神経発達にも効果がある可能性がある。IGDの神経症状は生後も進行性で早期治療により症状の軽減が期待されるので、早期の的確な診断が重要である。
(1) 患者の診断と患者情報の集積
今年度は国内から61例のフローサイトメトリー解析を行い、5人でCD16の明らかな低下を認め、IGDと診断した。現在横浜市立大学にて全エクソーム解析を施行中であるが、まだ責任遺伝子が判明していない。また日本の症例を含めた海外との共同研究により世界で初めてPIGG欠損症を報告した。PIGG欠損症は早期発症型てんかん性脳症の症例から見つかっている。PIGGはGPIアンカーの2番目のマンノースにエタノールアミンを付加する酵素であるが、このエタノールアミンがなくても反応が進み、後にこのエタノールアミンが除かれるステップがあるためPIGGノックアウトの培養細胞ではGPIアンカー型タンパク質は細胞表面に正常量、かつ正常の構造で発現することがわかっている。そのため今までPIGGが担うステップの役割が不明であった。しかし患者が発見されたことで、この遺伝子が神経発達に重要な働きをしていることがわかった。また最近ではGPI pathway以外の遺伝子変異によるIGDも見つかっており、他の疾患とオーバーラップする症例も今後見つかってくると考えられる。多くの症例を集積してその特徴を詳細に観察することが重要である。患者情報の集積については大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースが完成し、運用を始めている。現在英語版を作製中で、海外症例も含める予定である。
(2) 診療ガイドライン、疾患ホームページの作成
診療ガイドラインが完成し、日本小児神経学会のホームページと疾患ホームページに掲載している。(http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/)
考察
疾患ホームページを作成したので、そこで多くの臨床医にIGDの診療ガイドラインを示すことにより、多くの原因不明の疾患からスクリーニングによりIGDを抽出することが可能になる。さらには遺伝子解析に至る前にベッドサイドでより正確に診断する為に新規の疾患マーカーを検索する必要がある。リン酸化のないビタミンB6(ピリドキシン) の投与がけいれん発作に著効する症例があり、神経発達にも効果がある可能性がある。IGDの神経症状は生後も進行性で早期治療により症状の軽減が期待されるので、早期の的確な診断が重要である。
結論
先天性GPI欠損症(IGD)は新しい疾患であるが最近原因不明の運動発達障害や難治性てんかんの症例の中から次々と見つかっている。末梢血のフローサイトメトリーでスクリーニングが可能であり、遺伝子解析で変異遺伝子を同定し、機能解析で確認できる系がある。またビタミンB6(ピリドキシン)の投与がけいれん発作に著効する症例がある。早期診断・早期治療を実現する為にベッドサイドでの鋭敏な疾患マーカーの検索と、新たな治療法の開発が重要である。
公開日・更新日
公開日
2016-07-19
更新日
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