乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立

文献情報

文献番号
201510018A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-022
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小林 健一郎(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 小児血液・腫瘍研究部 造血腫瘍発生研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
935,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児劇症型肝不全は、成人と異なり肝炎ウイルスの関与がまれで、その病態には依然として不明な点が多い。1995年から2005年の全国調査では、本邦での小児劇症肝不全の発生率は9.3例/年で、そのうち43 %は原因不明例であった。全体の7割で肝移植が導入されていたが、救命率は1歳未満で54 %、1歳以上で76 %であり、乳児例では予後不良であった。
本症の病態解析に取り組んだ結果、本症のバイオマーカーである新規バイオマーカー(炎症性サイトカインX)の同定に成功した。本研究班の目的は小児期の劇症肝不全の実態把握と臨床病態の解明に基づく新しい重症度分類の確立である。
研究方法
小児肝移植オンラインシステムに基づき本邦における実態調査を行う、2)国立成育医療センターで施行された小児肝移植症例の臨床病理学的データを集計・分析する
結果と考察
1) 乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立
平成26年度はサイトカインX(肝細胞アポトーシス誘導因子)とそれを分解する肝酵素Yの発現に基づく“新しい重症度分類(組織診断)”を構築した、さらに成人例でも追加検証を行い、その臨床的意義を明らかとした。本症の最終診断には肝生検が必要であるが、重度の凝固障害を合併した場合は肝生検の施行が困難なことも少なくない。そこで、27年度は尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術とマルチポイントで定量解析が可能な臨床指標を整備した。今後はこの体外診断技術の感度および特異度の検証に向けて臨床研究を進める予定である。
2) 患者および家族に対する包括的支援のためのデータベース整備
1989年に本邦で肝移植の第一例目が実施されてから20年以上が経過し、肝移植は肝不全に対する治療として確立されている。国立成育医療研究センターは、2013年から本邦における小児肝移植医療の現状把握と肝移植を受けた小児移植の成長発達の評価のための小児肝移植オンライン登録を開始している。今回の調査で、肝移植後の約80%の例で通常の就労・就学(学齢期以前では正常な成長)と判定され、難病を克服したあとの比較的良好なるQOLの実態を明らかにすることができた。今後ともフォローアップを継続し、この情報を患者家族に還元することで包括的な患者支援に繋げてゆくことが期待できる。
3) 分子情報に基づく新規治療法開発を目指して
本症の更なる治療成績の改善には、分子情報に基づく先駆的診断および治療法開発の確立が急務である。近年、炎症性サイトカインは肝不全の治療標的として注目されている。興味深いことに、本症では炎症性サイトカインXを失活させるプロテアーゼ(内因性の肝酵素Y)の発現が著減しており、このことが肝局所でのサイトカインストームしいては組織傷害を増悪因子の一つに組み込まれている可能性が示唆された。今後は炎症性サイトカインXを標的としたプロテアーゼ補充療法という新規治療の可能性を検討してゆく。
結論
本研究班では、乳児劇症肝不全の病態解明に基づく新規バイオマーカーの同定と診断技術基盤の構築が出来た。この尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術と従来の病理診断技術との統合で、さらに迅速かつ確度の高い診断が見込まれる。これにより、重症例の早期発見と高次医療施設への搬送が図られ急性肝不全の更なる治療成績の改善が期待できる。


公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201510018B
報告書区分
総合
研究課題名
乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-022
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小林 健一郎(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 小児血液・腫瘍研究部 造血腫瘍発生研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児劇症型肝不全は、成人と異なり肝炎ウイルスの関与がまれで、その病態には依然として不明な点が多い。1995年から2005年の全国調査では、本邦での小児劇症肝不全の発生率は9.3例/年で、そのうち43 %は原因不明例であった。全体の7割で肝移植が導入されていたが、救命率は1歳未満で54 %、1歳以上で76 %であり、乳児例では予後不良であった。また、当センターは肝移植医療の実態調査と肝移植後の小児の成長発達のアウトカムの観察研究を目的として、平成25年1月から小児肝移植オンラインシステムを開始した。加えて、申請者らは、本症のバイオマーカーである新規バイオマーカー(炎症性サイトカインX)の同定に成功した。本研究班の目的は小児期の劇症肝不全の実態把握と臨床病態の解明に基づく新しい重症度分類の確立である。
研究方法
1.小児肝移植オンラインシステムに基づき本邦における実態調査を行う。
2.国立成育医療センターで施行された小児肝移植症例の臨床病理像を解析する。
結果と考察
1.小児肝移植オンラインシステムの整備
1989年に本邦で肝移植の第一例目が実施されてから20年以上が経過し、肝移植は肝不全に対する治療として確立されている。国立成育医療研究センターは、2013年からは本邦における小児肝移植医療の現状把握と肝移植を受けた小児患者の成長発達の評価のためのオンライン登録を開始し、平成28年3月の段階で358例を登録した。その内訳は男児156例、女児202例で、主たる原因疾患は胆道疾患(205例)、代謝性疾患(67例)、急性肝不全(55例)であった。本データベースでは詳細な小児の成長・発達の調査項目を整備しており、こどもの成長発達、そして復学・進学・就業状況を継続的に評価できる。

2.乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立
平成26年度はサイトカインX(肝細胞アポトーシス誘導因子)とそれを分解する肝酵素Yの発現に基づく“新しい重症度分類(組織診断)”を構築した。さらに成人例でも追加検証を行い、その臨床的意義を明らかとした。本症の最終診断には肝生検が必要であるが、重度の凝固障害を合併した場合は肝生検の施行が困難なことも少なくない。そこで、27年度は尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術とマルチポイントで比較検討できる臨床指標を整備した。今後はこの体外診断技術の感度および特異度の検証に向けて臨床研究を進める予定である。この尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術と従来の病理診断技術との統合で、さらに迅速かつ確度の高い診断が見込まれる。
本症の更なる治療成績の改善には、分子情報に基づく先駆的診断および治療法開発の確立が急務である。近年、炎症性サイトカインは肝不全の治療標的として注目されている。興味深いことに、本症では炎症性サイトカインXを失活させるプロテアーゼ(内因性の肝酵素Y)の発現が著減しており、このことが肝局所でのサイトカインストームの増悪因子になっている可能性が推察された。今後は炎症性サイトカインXを標的としたプロテアーゼ補充療法という新規治療の可能性を検討してゆく。
結論
1.今回の調査で、肝移植後の約80%の例で通常の就労・就学(学齢期以前では正常な成長)と判定され、難病を克服したあとの比較的良好なるQOLの実態を明らかにすることができた。今後とも本調査を継続し、この情報を患者家族に還元することで包括的な患者支援に繋げてゆくことが期待できる。
2.本研究班では新規バイオマーカーの発現に基づく組織診断と体外診断技術を整備した。とくに、後者では非侵襲的かつ簡便なpoint of care testing (POCT)を目指してゆきたい。この臨床検査法が確立できれば重症例の早期発見と小児センター等の高次医療施設への搬送が図られ、しいては肝移植のドナー確保等の救命の連鎖(chain of survival)をさらに円滑に進めることが期待される。上記の研究成果は“急性肝不全の診断方法、および予防又は治療剤”として知財確保した。2015年5月に特許出願(特願2015-101759)2016年2月PCT出願済みである。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201510018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成26年度はサイトカインX(肝細胞アポトーシス誘導因子)とそれを分解する肝酵素Yの発現に基づく“新しい重症度分類(組織診断)”の構築に成功した。加えて、尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術とマルチポイントで比較検討できる臨床指標を整備した。この尿中のサイトカイン測定に基づく体外診断技術と従来の病理診断技術との統合で、さらに迅速かつ確度の高い診断が見込まれる。
臨床的観点からの成果
劇症肝不全の病態制御因子であるサイトカインX(肝細胞アポトーシス誘導因子)を新規に同定した。炎症性サイトカインXは病勢のバイオマーカーであると同時に治療標的であることを明らかとした。上記の研究成果は“急性肝不全の診断方法、および予防又は治療剤”として知財確保した。2015年5月に特許出願(特願2015-101759)2016年2月PCT出願した。
ガイドライン等の開発
特記すべきことはなし
その他行政的観点からの成果
特記すべきことはなし
その他のインパクト
特記すべきことはなし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
急性肝不全の診断方法、および予防又は治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-101759
発明者名: 小林 健一郎
権利者名: (独)国立成育医療研究センター(50%) LSIPファンド運営合同会社(50%)
出願年月日: 20150519

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201510018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,815,000円
(2)補助金確定額
2,815,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,159,180円
人件費・謝金 0円
旅費 4,820円
その他 2,000円
間接経費 649,000円
合計 2,815,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-