乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究

文献情報

文献番号
201510016A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-020
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田充人(北海道大学医学部 小児科)
  • 中西敏雄(東京女子医科大学 循環器小児科)
  • 賀藤均(国立成育医療研究センター 循環器科)
  • 山岸敬幸(慶応義塾大学医学部 小児科)
  • 安河内聰(長野県立こども病院 循環器科)
  • 吉田恭子(今中恭子)(三重大学医学部 修復再生病理学)
  • 森崎隆幸(国立循環器病研究センター 分子生物学部)
  • 市川肇(国立循環器病研究センター 小児心臓外科)
  • 宮本恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
  • 黒嵜健一(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 北野正尚(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 坂口平馬(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 池田善彦(国立循環器病研究センター 臨床検査部病理)
  • 檜垣高史(愛媛大学病院小児総合医療センター 小児循環器部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,171,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳児特発性僧帽弁腱索断裂は、生来健全な乳児(4-6ヶ月)に突然の僧帽弁腱索断裂から急性の呼吸循環不全を発症し、早期の診断と適切な外科治療が行われないと死に至る疾患である。過去の報告例はほとんどすべて日本人乳児であるという特徴を有する。これまでの全国調査から、僧帽弁腱索断裂を引き起こす基礎疾患として、ウイルス感染、川崎病、抗SSA抗体などが示唆されるが、病態の詳細は不明である。本研究では、乳児特発性僧帽弁腱索断裂の全国調査を継続し、病因および臨床経過および臨床検査所見を詳細に調査するとともに、血液や尿、便、摘出された便や腱索組織からDNAやRNAを網羅的にない関市、本疾患の早期診断および的確な内科的および外科的治療法を確立することを目的とする。
研究方法
乳児特発性僧帽弁腱索断裂と診断された乳児。発症年齢、基礎疾患の有無、発症様式、血液生化学所見、画像所見、手術所見、病理組織所見、予後、転帰などについて調査。サンプルが得られた症例では、全血および血清サンプルの凍結保存、尿、弁、咽頭拭い液からのウイルス分離、弁置換を行った症例では弁組織の凍結保存やホルマリン固定病理組織標本の免疫組織科学的検討を行い、腱索断裂のメカニズムを解明研究する。特にあたらに発症する症例では、血液や尿、便、摘出された便や腱索組織からDNAやRNAを網羅的に解析して、病態を明らかにする。
結果と考察
平成22年度より開始した全国調査から、過去16年間に発症した95例について臨床所見を要約したところ、発症は生後4-6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く(53/42)、春から夏の頻度が高かった(66%)。全体的に近年増加傾向にある。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)で、中枢神経系後遺症は10例(11%)認められた。これらの結果は、平成26年9月に国際雑誌に発表し(Circulation. 2014;130:1053-1061)、米国の医学新聞にも掲載された。。
また平成27年度は、患者から得られた病理組織サンプルを、DNA, RNAを劣化させない固定液PaxGeneで固定し、そこからDNA, RNAを回収して、大阪大学附属微生物病研究所感染症メタゲノム解析研究分野教室において、ウイルスゲノムの検索を行う。平成27年度に新たに発症した1例において、弁および腱索サンプルからDNAを網羅的に解析したが、本例に関しては明らかな原因と考えられるウイルスは検出されなかった。
結論
今回の研究で病態がかなり明らかになった。今後研究を継続して、早期発見および的確な治療法を早急に確立する。また基礎研究と疫学調査を継続して行い、病因解明に向けた努力を行う。とくに採取した弁組織からのウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、同じく組織からのRNAトランスクリプトーム解析による病態解明を行い、本疾患の診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201510016B
報告書区分
総合
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-020
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田 充人(北海道大学医学部小児科)
  • 中西 敏雄(東京女子医科大学循環器小児科)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター循環器科)
  • 山岸 敬幸(慶応義塾大学医学部小児科)
  • 安河内 聰(長野県立こども病院循環器科)
  • 吉田 恭子(今中 恭子)(三重大学医学部修復再生病理学)
  • 森崎 隆幸(国立循環器病研究センター分子生物学部)
  • 市川 肇(国立循環器病研究センター小児心臓外科)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター予防健診部)
  • 黒嵜 健一(国立循環器病研究センター小児循環器部)
  • 北野 正尚(国立循環器病研究センター小児循環器部)
  • 坂口平馬(国立循環器病研究センター小児循環器部)
  • 池田善彦(国立循環器病研究センター臨床検査部病理)
  • 檜垣高史(愛媛大学病院小児総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳児特発性僧帽弁腱索断裂とは、生来健全な乳児に突然の僧帽弁腱索断裂による急性呼吸循環不全が発症し、診断と早期の外科治療が遅れると死に至る疾患である。ほとんどが日本人で、生後4-6ヶ月に発症が集中するという特徴を持つ。基礎疾患として川崎病、抗SSA抗体、弁の粘液変成、ウイルス心内膜炎等などが示唆されるが詳細は不明である。乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因および臨床経過および臨床検査所見を詳細に調査し、本疾患の早期診断および的確な内科的および外科的治療法を早急に確立する。
研究方法
乳児特発性僧帽弁腱索断裂と診断された乳児を対象とする。発症年齢、基礎疾患の有無、発症様式、血液生化学所見、画像所見、手術所見、病理組織所見、予後、転帰などについて調査。サンプルが得られた症例では、全血および血清サンプルの凍結保存、尿、弁、咽頭拭い液からのウイルス分離、弁置換を行った症例では弁組織の凍結保存やホルマリン固定病理組織標本の免疫組織科学的検討を行い、腱索断裂のメカニズムを解明研究する。新たに発症した症例では、DNA, RNAの網羅的解析を行い、病院と病態を明らかにできないかを検討する。
結果と考察
平成22年度より行った全国調査から、過去16年間に発症した95例について臨床所見を要約。発症は生後4-6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く(53:42)、春から夏の頻度が高かった(66%)。全体的に近年増加傾向にある。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)で、中枢神経系後遺症は10例(11%)認められた。これらの結果は、2014年9月に米国心臓協会の公式雑誌(Circulation. 2014;130:1053-1061)に論文として掲載された。
 さらに平成27年度は本疾患の病因および病態を明らかにするために、新たな研究計画を国立循環器病研究センター倫理委員会に提出して承諾された(M25-097-2)。その結果、患者代諾者から同意書を得た上で、DNA, RNAを劣化させない固定液PaxGeneで固定し、そこからDNA, RNAを回収して、大阪大学附属微生物病研究所感染症メタゲノム解析研究分野教室において、ウイルスゲノムの検索を行っている。1例の新たな症例においてサンプルを解析したが、本例においては原因と考えられる明らかなウイルスは検出されなかった。また同様に過去に僧帽弁置換術を行った3例においてもホルマリン固定パラフィン切片(FFPE)からRNA, DNAを回収して、ウイルスゲノムの検索およびRNAトランスクリプトーム解析を行う予定である。
結論
今回の研究で病態がかなり明らかになった。今後研究を継続して、早期発見および的確な治療法を早急に確立する。また基礎研究と疫学調査を継続して行い、病因解明に向けた努力を行う。とくに採取した弁組織からのウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、同じく組織からのRNAトランスクリプトーム解析による病態解明を行い、本疾患の診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201510016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
乳児特発性僧帽弁腱索断裂は、生来健康である乳児が突然に呼吸循環不全に陥る重篤な疾患で、国内外の小児科の教科書にも記載がない。過去の死亡例は「乳児突然死症候群(SIDS)」と誤って診断されていた可能性もある。1)乳児特発性僧帽弁腱索断裂が健康な乳児に突然襲いかかる重度な疾病であること、2)早い診断と的確な外科治療が必要であること、3)診断と治療が遅れると死に至るかもしくは循環不全により重度な神経学的後遺症をきたす可能性のある難病であること、を国内外に情報を発信する必要がある。
臨床的観点からの成果
全国調査の結果から、過去16年間に発症した95例について臨床所見を要約し、発症は生後4-6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く(53:42)、春から夏の頻度が高い(66%)。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡率は8.4%と高く、年間20例ほどの発症ではあるが、看過できない疾患である。以上より、本疾患臨床像が、初めて明らかになった。
ガイドライン等の開発
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の診断基準
A症状
1. 生来健康な乳児に突然出現する多呼吸、陥没呼吸、頻脈、顔面蒼白、四肢末梢冷感
2. 生来健康な乳児に新たに出現する心雑音(胸骨左縁での収縮期逆流性心雑音)

B検査所見
確定所見
1. 断層心エコー:僧帽弁腱索の断裂像、僧帽弁弁尖の著しい逸脱、Doppler断層で重度の僧帽弁閉鎖不全
参考所見

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目+Bの確定所見を満たす。
その他行政的観点からの成果
本疾患は診断と治療が数時間遅れると死亡する症例や重篤な後遺症を残す症例がみられるので、一般小児科医に本疾患の認識と診断法を広く啓蒙する必要性がある。そこで今回の研究で病因および治療研究を発展させることにより、早期発見および的確な治療法を早急に確立する。本疾患を、重篤な合併症を残すことなく的確に診断治療することは、少子化が進む現在、国民全体の保健・医療・福祉の向上に大きくつながる。
その他のインパクト
1) 白石 公.「赤ちゃん 突然心不全」読売新聞. 2014.9.23.
2) “Rupture of mitral chordae tendineae in infants more common than thought.”Reuter Health. Thomson Reuters 2014. USA.
3) 同上タイトル Consultant 360 for Pediatrician. 2014.8.14. USA

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
2件
1) 気づかないと致死的な乳児特発性僧帽弁腱索断裂. 小児内科. 2015;47(2):283-285. 2) 乳児特発性僧帽弁腱索断裂. 小児内科2014;46(suppl):259-262.
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
日本小児循環器学会
学会発表(国際学会等)
1件
European Society of Cardiology
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiraishi I, NIshimura K, Sakaguchi H, et al.
Acute rupture of chordae tendineae of the mitral valve in infants: a nationwide survey in Japan exploring a new syndrome.
Circulation , 130 (13) , 1053-1061  (2014)
doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.114.008592.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2018-06-13

収支報告書

文献番号
201510016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,521,000円
(2)補助金確定額
1,521,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 792,000円
人件費・謝金 0円
旅費 61,380円
その他 320,133円
間接経費 350,000円
合計 1,523,513円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-