非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の全国調査研究

文献情報

文献番号
201510013A
報告書区分
総括
研究課題名
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の全国調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-016
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
南学 正臣(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 香美 祥二(徳島大学大学院小児医学分野)
  • 宮田 敏行(国立循環器病研究センター)
  • 松本 雅則(奈良県立医科大学 輸血部)
  • 宮川 義隆(埼玉医科大学医学部 総合診療内科)
  • 丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科)
  • 加藤 秀樹(東京大学医学部附属病院 腎臓内分泌内科)
  • 吉田 瑶子(東京大学医学部附属病院 腎臓内分泌内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,102,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、血栓性微小血管症(TMA)のなかで、志賀毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)やADAMTS13の異常による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、基礎疾患のある二次性TMAを除いた、補体関連の異常を主な原因とする症候群である。本邦においても様々な補体調節因子の遺伝子異常が報告されているが、全国レベルでの発症数、原因遺伝子の頻度、予後に関しては不明である。aHUSの診断には非常に特殊な補体調節因子等の蛋白質学的解析や遺伝学的検査が必要であり、大半の大学病院では実施できず、診断の保険収載もされていない。従来、本邦におけるaHUS患者解析は分担研究者である藤村吉博と宮田敏行が、その解析系を樹立し、89名の先天性aHUS患者を診断し、うち45例について海外との原因遺伝子頻度の違いなどを報告してきた。
平成26年より、これらaHUS患者の解析システムは東大病院腎臓・内分泌内科及び名古屋大学に全面的に移行した。同年より厚生労働科学研究 難治性疾患等政策研究事業の採択を受けたことから、aHUS疑い症例の診断、治療コンサルテーションを行なうシステムを確立させた。本研究班では、従来のaHUS研究を発展させて、その病態および疫学的実態をより詳細に解明し、本邦aHUS患者の実情に即した診断基準、ガイドラインの策定を通じて、aHUS患者の診断・治療の質を高めることを目的とする。
研究方法
従来、本邦aHUS患者の解析は奈良県立医科大学の藤村吉博、国立循環器病研究センターの宮田敏行らを中心に実施されてきた。平成26年より、TMAに含まれる疾患の中で、TTPに関しては奈良県立医科大学輸血部、aHUSに関しては東大腎臓・内分泌内科(東日本の解析拠点)と名古屋大学(西日本の解析拠点)で解析を引き継ぎ、遺伝子診断は引き続き国立循環器病研究センター研究所で施行する本邦TMA解析のネットワークシステムを樹立した。
aHUSの診断基準は代表研究者の南学と分担研究者の藤村が委員として加わった日本腎臓学会と日本小児科学会合同のワーキンググループによって、2013年に作成された。本研究班員も参加している日本腎臓学会と日本小児科学会合同で非典型溶血性尿毒症症候群診断基準改訂委員会を開催し、補体関連HUSと二次性TMAを区別する方向で診断基準の改訂を行った。
本研究ではTMAからHUS、TTP、二次性TMAを除外し、臨床的に補体関連HUSが疑われる症例を対象とし、解析を実施した。
結果と考察
平成27年4月~同年12月末までに59件の解析の問い合わせを受けた。そのうち、臨床的に補体関連異常によるHUSが疑われた症例は32例(男性16例、女性16例)であった。その他の症例は2次性TMA:23例、DIC:2例、TTP:2例に分類され、依然として臨床現場においては2次性TMAとの鑑別が困難であることがうかがわれた。奈良医大輸血部で集積した症例及び前年度に本研究班で集積したaHUS患者と合計すると、計138例(男性87例、女性51例)という本邦最大のaHUSコホートの樹立を成し得た。溶血試験では2例の患者に明らかな溶血亢進(溶血度75%以上)を認めた。このうち1例にCFH変異を認め、残りの1例には明らかな異常を認めなかった。aHUS患者32例の遺伝子変異等の内訳は、H因子変異:3例、C3変異:3例、DGKE変異:1例、変異未同定:15例であった(解析実施中の症例:10例)。
平成27年4月23日、7月25日に日本腎臓学会と日本小児科学会の合同で非典型溶血性尿毒症症候群診断基準改訂委員会を開催し、非典型溶血性尿毒症症候群診療ガイドを作成した。本診療ガイドではaHUSを、TMAから志賀毒素関連HUS及び血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を除き、さらに2次性TMAを除いた“補体系の異常によるTMA”とした。
本年度の研究を通して本事業の目的である新しい「非典型溶血性尿毒症症候群診療ガイド」の策定も成し得た。また本事業を開始してから、本研究班への解析問い合わせ件数は100件を超えたことから、研究班・本疾患の認知度も高まり、本邦における診断・診療レベルが向上していると考えられる。
結論
 本年度の研究を通じて、aHUSの認知度の向上、診療の質の改善、登録患者数の増加が可能となった。さらに、本研究事業の目的である診断基準の改訂を成し得、診療ガイドの公示が可能となった。本疾患への研究活動を継続し、今後はさらに基礎的病態解明、新規原因遺伝子探索、疫学的調査の発展を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201510013B
報告書区分
総合
研究課題名
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の全国調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-016
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
南学 正臣(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 香美 祥二(徳島大学大学院 小児医学分野)
  • 宮田 敏行(国立循環器病研究センター)
  • 松本 雅則(奈良県立医科大学 輸血部)
  • 宮川 義隆(埼玉医科大学医学部 総合診療内科)
  • 丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科)
  • 加藤 秀樹(東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)
  • 吉田 瑶子(東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、血栓性微小血管症(TMA)のなかで、志賀毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)やADAMTS13の異常による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、基礎疾患のある二次性TMAを除いた、補体関連の異常を主な原因とする症候群である。1998年に補体調節蛋白の1つであるH因子の遺伝子異常が原因として報告されてから、本邦においても様々な補体調節因子の遺伝子異常が報告されているが、本邦での発症数、総患者数、病態、原因遺伝子の頻度、予後に関しては不明であった。
aHUSの診断は非常に困難であり、臨床所見、一般病院で施行される検査所見、詳細な問診の他に、特殊な補体調節因子等の蛋白質学的解析(羊赤血球を用いた溶血試験等)や遺伝学的検査が必要であるが、大半の大学病院においても実施できず、診断の保険収載もされていない。また最近では、補体系以外の因子の異常も同定されるなど、その疾患背景は多様化しており、診断のみならず治療の面においても複雑性を増している。
そこで本研究班はまず、本邦におけるTMA疾患のうちaHUS患者解析は東京大学腎臓・内分泌内科・名古屋大学腎臓内科、TTPは奈良県立医科大学輸血部、両者の遺伝子解析は国立循環器病研究センターで樹立する解析システムの立ち上げを行った。また本疾患は、本邦でこれまでに200人弱程度しか診断されていない希少疾患であることから、本研究事業を通して、本邦での遺伝学的背景や疫学的データを集積し、本邦の実情に即した診療ガイドを作成することで診療の質を向上させることを目的とした。
研究方法
aHUSはTTPと臨床症状が似ているため、TTPを精力的に研究してきた奈良県立医科大学輸血部に診断が依頼されることが多く、これまでは本邦aHUS患者の解析は奈良県立医科大学の藤村吉博、松本雅則、国立循環器病研究センターの宮田敏行らを中心に解析されてきた。しかしながらTMAに含まれる疾患のうち、aHUSに関しては患者の約半数が腎不全に至ること等から、病態解析の発展には腎臓専門医の知見が必要であると考えられた。TMAに含まれる疾患の中で、TTPに関しては奈良県立医科大学輸血部、aHUSに関しては東大腎臓・内分泌内科(東日本の解析拠点)と名古屋大学(西日本の解析拠点)で解析を引き継ぎ、遺伝子診断は引き続き国立循環器病研究センター研究所で施行する、本邦TMA解析のネットワークシステムを樹立した。
aHUSの臨床試験を開始するにあたり、東大医学部ヒトゲノム倫理委員会の承認を受け、大学病院医療情報ネットワーク研究センターにおけるUMIN-CTRにて臨床試験登録を行った。疫学調査方法としては、臨床所見、検査所見、薬剤使用状況などを記入する調査票を作成、各医療機関へ送付し、各主治医に経過を記載していただいた上で、得られたデータの集積を行った。
結果と考察
平成26年9月より東大病院において本格的にaHUS患者の解析受入れを開始し、患者解析システムの構築を行った。平成26年9月~平成27年12月末までに105件の解析依頼を受けた。そのうち、臨床的に補体関連異常によるHUSが疑われた症例は51例(男性30例、女性21例)であった。奈良医大輸血部(分担研究者 藤村)で平成26年8月末までに集積したaHUS患者と合計すると、計138例(男性87例、女性51例)という本邦最大のaHUSコホートの樹立を成し得た。
本疾患は多数の遺伝子疾患を含み、鑑別が非常に困難な疾患であるが、本研究活動を通じて疾患概念が明確になりつつある。平成27年には指定難病に認定され、平成28年にあらたに公表された非典型溶血性尿毒症症候群診療ガイドには、疾患に対する説明、新しい診断基準、鑑別疾患、鑑別に必要な検査、治療法、遺伝子別の説明、重症度分類についても掲載することが可能となった。
 本研究活動を通じて、研究班・本疾患の認知度が高まるとともに本邦における診断基準も定まり、診療ガイドを公布することが可能となった。これにより、本邦における診断・診療レベルの向上に寄与したと考えられる。今後も本疾患の診断を継続し、本研究班で実施している検査のさらなる評価、疫学的調査を継続する予定である。
結論
本疾患の認知度の向上、診療の質の改善、本邦における疫学的調査が可能となり、本研究事業の目的である診断基準の改訂、診療ガイドの公示が可能となった。今後は本疾患への研究活動を継続し、基礎的病態解明、新規原因遺伝子探索、疫学的調査の発展を行う。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201510013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
羊赤血球を用いた定量的溶血試験、抗H因子抗体検査、血漿中のCFHR1~5のウエスタンブロット法を用いた解析、既知の原因遺伝子として知られているCFH、MCP、CFI、CFB、C3、THBD、DGKEのサンガー法による遺伝子解析、次世代シークエンサーによるwhole exome解析による診断方法を樹立した。既知の補体関連因子の遺伝子異常や抗H因子抗体陽性例でのコホート解析により,遺伝子異常の部位と頻度,また各異常の臨床プロファイルや予後を解析した。
臨床的観点からの成果
本研究班の活動を通じて全国から2014年から2017年12月までに227件のコンサルテーションを受け、aHUS診断に必要な検査を実施し、103例をaHUSと診断した。奈良県立医科大学輸血部において診断された症例と合わせると、合計180名のaHUS患者コホートを樹立した。研究機関中に本疾患が指定難病に認定され、難病センターに情報が掲載された。aHUSのコホート解析により補体関連因子の異常別の臨床プロファイルおよび予後について本邦のデータを公開することができた。
ガイドライン等の開発
本疾患の概要・診断方法・診断基準・治療法をまとめた「非典型溶血性尿毒症症候群診療ガイド」が2016年に日本腎臓学会と日本小児科学会から公表された。本研究の成果は、我が国におけるaHUS患者の医療水準の向上に貢献したと考えられる。更にガイドラインを英文化し、学会英文誌にて公表した。
その他行政的観点からの成果
本疾患が指定難病に認定され、概要、診断基準の作成、重症度分類の作成、臨床個人調査票の作成、難病情報センターの本疾患解説作成。2016年からは「血液凝固異常症等に関する研究班」で活動を継続。
その他のインパクト
本研究活動を通じて、研究班・本疾患の認知度が高まるとともに本邦における診断基準も定まり、診療ガイドを公布することが可能となった。本邦における診断・診療レベルの向上に寄与したと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
36件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
6件
「非典型溶血性尿毒症症候群診療ガイド」の作成、指定難病の概要、診断基準の作成、重症度分類の作成、臨床個人調査票の作成、難病情報センターの本疾患解説作成、ガイドラインの英文誌での公表
その他成果(普及・啓発活動)
10件
各種研究会での発表など

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshida Y, Miyata T, Matsumoto M, et al
A novel quantitative hemolytic assay coupled with restriction fragment length polymorphisms analysis enabled early diagnosis of atypical hemolytic uremic syndrome and identified unique predisposing mutations in Japan.
PLoS One. , 10 (5) , e0124655-  (2015)
10.1371/journal.pone.0124655
原著論文2
Fan X, Kremer Hovinga JA, Shirotani-Ikejima H, et al
Genetic variations in complement factors in patients with congenital thrombotic thrombocytopenic purpura with renal insufficiency
Int J Hematol. , 103 (3) , 283-291  (2016)
10.1007/s12185-015-1933-7
原著論文3
Kato H, Nangaku M, Hataya H, et al
Clinical Guides for Atypical Hemolytic Uremic Syndrome in Japan
Clin Exp Nephrol. , 20 (4) , 536-543  (2016)
10.1007/s10157-016-1276-6
原著論文4
Kato H, Nangaku M, Hataya H, et al
Clinical Guides for Atypical Hemolytic Uremic Syndrome in Japan
Pediatr Int. , 58 (7) , 549-555  (2016)
10.1111/ped.13044
原著論文5
Miyata T, Uchida Y, Yoshida Y et al.
No association between dysplasminogenemia with p.Ala620Thr mutation and atypical hemolytic uremic syndrome.
Int J Hematol. , 104 (2) , 223-227  (2016)
10.1007/s12185-016-2021-3
原著論文6
Yoshida Y, Kato H and Nangaku M.
Atypical Hemolytic Uremic Syndrome
Renal Replacement Therapy. , 3 (5)  (2016)
10.1186/s41100-016-0088-1
原著論文7
Fujisawa M, Kato H, Yoshida Y, et al.
Clinical characteristics and genetic backgrounds of Japanese patients with atypical hemolytic uremic syndrome.
Clin Exp Nephrol.  (2017)
in press

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2020-06-22

収支報告書

文献番号
201510013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,432,000円
(2)補助金確定額
1,432,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 802,663円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 310,456円
間接経費 330,000円
合計 1,443,119円

備考

備考
物品で予定を超えた支出があったため、補助金確定額より11,119円超過した。超過分は研究室の委任経理金から支出した。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-