文献情報
文献番号
201510011A
報告書区分
総括
研究課題名
腹腔外発生デスモイド腫瘍患者の実態把握および診療ガイドライン確立に向けた研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-014
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
西田 佳弘(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 川井 章(国立がん研究センター中央病院 希少がんセンター)
- 戸口田 淳也(京都大学再生医科学研究所)
- 生越 章(新潟大学医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センタ-)
- 國定 俊之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
- 松延 知哉(九州大学病院)
- 阿江 啓介(公益財団法人がん研究会がん研有明病院)
- 平川 晃弘(名古屋大学医学部附属病院 先端医療 ・臨床研究支援センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
952,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
腹腔外発生デスモイド型線維腫症に対する診断・治療指針については明らかになっていない。稀少疾患であるために不適切な治療を受け、QOLを低下させられている例を多く認める。本研究では、本邦における腹腔外発生デスモイド型線維腫症患者の発症様式、診断・治療、特に手術の治療成績の実態を把握し、また診断・各種治療成績におけるβ-カテニンの変異の意義を明らかにし、稀少疾患であるデスモイド型線維腫症に対する全国共通の診断・治療のガイドラインを作成することを目的とし、以下の研究を実施した。 (i) 本邦におけるデスモイド型線維腫症患者の発症数、発症年齢、性別、発生部位を含めた臨床実態とともに、手術治療成績 (ii) 保存治療の効果を予測する各種因子の解析 (iii) 様々な治療法の実施状況と、その成績 (iv) CTNNB1変異型の異なる腫瘍細胞での増殖度、薬物反応性 (v) 診療の実態と合わせて、本邦における診療ガイドライン案の作成。
研究方法
(i) 全国骨・軟部腫瘍登録のデータを使用し、2006年から2012年までの7年間に登録された軟部腫瘍の中で、デスモイド型線維腫症と診断のついた症例を抽出し、年度別手術治療割合を調査した。次に手術治療成績が登録されている2006年から2010年までのデータを解析し、手術治療後の再発率、再発に関与する因子を調査した。 (ii) NPO法人骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)参加67施設に対するアンケートにより、手術以外の保存的治療法が選択されていることが明らかとなった。保存的治療の1つであるメロキシカム治療の有効性を予測することがMRI画像および腫瘍の発生する筋の構造力学的際によって可能であるかを解析した。 (iii) がん研有明病院で手術治療を実施した87例の再発様式を検討した。研究代表施設で実施している計画的単純切除手術の成績を明らかにした。 (iv) 若年女性の腹壁に発生した3種の異なるCTNNB1変異型を有するデスモイド型線維腫症の組織から細胞を分離・培養し、βカテニンの核内集積、増殖度、Wnt/βcatenin経路の下流遺伝子の発現、薬物への反応性の差異を検討した。 (v) 海外の各種ガイドライン(NCCN、ESMO、British Sarcoma Group、Australasian Sarcoma Study Group)を検索し、本邦におけるデスモイド型線維腫症の診療実態と合わせて、本邦における診療ガイドライン案を作成した。
結果と考察
(i) 経年的に手術治療が減少していることが示された。根治を目的に実施された手術症例は103例であり、3年無再発生存率は77.7%であり、多変量解析では、発生部位で四肢、腫瘍サイズ、切除縁が予後規定因子として抽出された。wideとmarginal間には有意差を認めなかった。成績不良因子が抽出されたことで、手術症例の選択の際に有用な情報となる。(ii) 治療方針は、薬物治療が最も多かった。薬物治療効果を推測する因子として、治療開始時のMRI、T1およびT2における低信号エリアの割合が挙げられ、腫瘍の発生する筋肉の構造力学的特性について、平行筋と比較し、羽状筋においては有意に治療反応例を多く認めた。これらは保存治療選択の際に有用な情報となる。(iii) 腫瘍の再発として、追加治療を要したものと定義すると、再発率は23%であった。腫瘍サイズ5cm未満で再発はなかった。再発後の追加手術で70%が病勢コントロールされた。計画的単純切除を実施した15例のすべてで断端腫瘍陽性であったが再発は2例でのみ認めた。CTNNB1の変異型と発生部位が再発と関連する傾向があった。計画的単純切除は、あらたな手術治療の選択肢を提供できる可能性がある。(iv) 細胞は野生型(WT)、T41A変異、S45F変異の3種中、βカテニンの核内染色は特にS45F変異細胞では強い染色性を示し、S45F変異株ではAxin2, c-Myc, Cyclin D1全ての発現亢進を認めた。Wnt/βcatenin経路の阻害剤投与により、Axin2, c-Myc, Cyclin D1発現が有意に抑制された。(v) NCCN、ESMO、BSG、ASSGのすべてにデスモイド型線維腫症に対する診療ガイドラインが記載されていた。これらのガイドラインの内容と、デスモイド型線維腫症に対するアンケート調査結果をもとに研究代表者が診療ガイドライン案を作成した。
結論
本邦におけるデスモイド型線維腫症に対する治療実態、手術治療成績、新たな切除法の提案、薬物治療成績に関連する因子を明らかにし、海外の診療ガイドラインを参考に、日本における診療実態と合わせてデスモイド型線維腫症の診療ガイドライン案を作成した。
公開日・更新日
公開日
2016-07-19
更新日
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