新生児・小児における特発性血栓症の診断、予防および治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201510010A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児・小児における特発性血栓症の診断、予防および治療法の確立に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大賀 正一(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
892,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児と小児の血栓症は近年増加している。血栓発症リスクの最も高い遺伝性素因である Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症の早期診断法が注目されている。小児の血栓症診断と素因解析は難しく治療管理法と予防法も確立していない。周産期の特異な発症様式を明らかにして、早期診断の指針作成をめざして本研究を開始した。
研究方法
新生児・小児に発症する特発性血栓症を集積し、血栓性素因解析とPC, PSおよびAT遺伝子解析を行う。3年間で集積した国内症例基本データをもとに、遺伝子診断のために効果的スクリーニング法(各年齢別活性下限値の設定、基準値の標準化、過凝固の評価法)を開発する。診断指針、重症度分類案を作成し、診療経験の主治医ネットワークを全国で確立して指針案のコンセンサスを得る。治療管理および予防に関する情報を集積する。
結果と考察
1)新規発症例の集積
2014年は新規28家系から21検体を解析し、 PC遺伝子変異3名(複合へテロ1、ヘテロ2)の児、PS複合へテロ変異1名の母を同定した。3年間に集積したPC欠乏児37名から13名(44%)の変異保有者を確定したが、小児では活性値と臨床像からの予測が難しい。
2)小児期発症者における血栓性素因の効果的診断法
年齢別に設定した各因子活性下限値の有用性を20歳までの血栓症例の解析から検討した。2歳未満と中学生では低PC活性児が約45%と他2因子活性低下児の割合より高いこと、小学生では低PC活性児と低PS活性児の割合(各19%)も高いこと、が明らかになった。PC欠損症による特発性血栓症は2歳未満が最多(44%)でこの年齢群にPROC変異を6名同定した。PS欠損症は小学生に多く(33%)この年齢群にPROS1変異を4名同定した。この年齢別下限値の成人の基準値に相当する有用性が示された。一方、2歳未満とくに新生児におけるPC異常症診断のための活性下限値の設定の難しさが明らかとなった。早期産児は凝固検査の評価が難しく、多施設共同で基準値設定の標準化を行った。新規活性測定法、新生児の基準値と過凝固の評価について検討を継続している。
3)診療ガイドラインの作成
年齢別抗凝固因子活性下限値と発症様式を考慮した成人と異なる「新生児・小児における遺伝性栓友病の診断基準案」および「重症度分類案」を作成した。また治療に関しては新生児DICの新しい診療ガイドラインと組み合わせて早期の効率的な遺伝子診断につなげる方法を提案した。新生児領域を中心に全国ネットを確立してこの案の有用性を継続して検討中である。本研究班での確定診断例に根治療法としてのドミノ移植が成功した。予後不良な新生児発症例の保存的治療と予防法の確立することが重要である。
結論
研究班の症例集積から成人とは明らかに異なる小児血栓症の遺伝的背景と臨床像が明らかになり、早期診断案が今回具体化した。重篤な後遺症を残すこの稀少疾患を小児期に早期診断する体制を整え、治療と予防の診療指針確立をめざして次年度の本臨床研究を継続する。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201510010B
報告書区分
総合
研究課題名
新生児・小児における特発性血栓症の診断、予防および治療法の確立に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大賀 正一(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児・小児に発症する遺伝性血栓症を効率よく診断し、的確な治療管理法を確立するため、血栓発症リスクが最も高いとされる先天性Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症を中心に、全国から症例集積を継続して解析した。
研究方法
新生児・小児に発症する特発性血栓症を集積し、血栓性素因解析とPC, PSおよびAT遺伝子解析を行う。3年間で集積した国内症例基本データをもとに、遺伝子診断のために効果的スクリーニング法(各年齢別活性下限値の設定、基準値の標準化、過凝固の評価法)を開発する。診断指針、重症度分類案を作成し、診療経験の主治医ネットワークを全国で確立して指針案のコンセンサスを得る。治療管理および予防に関する情報を集積する。
結果と考察
1)これまでの症例集積
2014-15年に新規48家系の46検体を解析し、 PROC変異13名(複合へテロ2、ヘテロ11)、PROS1変異3名(複合へテロ2、ヘテロ1)、SERPINC1変異3名(ヘテロ3)を同定した。PCとAT異常には妊娠中に発症し、児も変異を有して血栓を発症した母児をそれぞれ診断した。PS異常にも脳虚血疑いでこのリスクの高い複合ヘテロ変異の母を診断した。さらに、この2年間に、周産期症例に加えて、乳幼児期に感染を契機に発症したPC異常症を4例、思春期に誘因なく発症したPCおよびPS異常症を2例、また未発症複合ヘテロ変異も同定した。周産期からリスクを抱える血栓予備軍の母児の存在を確認した。
2)小児期発症遺伝性血栓症の効果的診断法
研究班で策定した年齢別の各因子活性下限値(0-3月, 3月-3歳, 3歳-6歳, それ以上)を設定し、これに同時測定のPC/PS活性比を考慮して積極的に遺伝子解析を行ったところ、小児でも3因子遺伝子変異を約30%に同定することができるようになった。一方、症例の多い新生児PC遺伝子変異例の検出率が十分とはいえず、とくに10日までの判別法を開発する必要がある。Perinatal Strokeを発症しやすい早期産児の凝固機能評価は難しく、多施設共同で基準値設定の標準化を行い、新規活性測定法、新生児の基準値と過凝固の評価法についてさらなる検討が必要である。血栓発症リスクのある長期療養児のスクリーニングも必要である。
3)診断基準と重症度分類と治療管理に関して
成人とは異なる「新生児・小児における遺伝性栓友病の診断基準」と「重症度分類」を作成することができた。治療管理に関しては、新生児DICに対する補充療法を策定したが、異常症患児の特異的治療を提言するには至らなかった。PC欠損症の根治療法として本研究班の診断例から肝移植療法が続いて行われ、経過良好である。
結論
研究班の症例集積から成人とは明らかに異なる小児血栓症の遺伝的背景と臨床像を前向き研究で明らかにすることができた。新生児・小児期発症における栓友病診断の指針をわが国のエビデンスとして策定した。一方、治療管理法のガイドライン作成のための質の高いエビデンスづくりが今後の課題である。根治療法のある予後不良なこの稀少疾患の診療体制を整える必要がある。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201510010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血栓発症リスクが最も高いとされる先天性Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症を中心に、全国から症例集積を継続して解析し、新生児・小児に発症する血栓症における遺伝性素因の影響を効率的な遺伝子解析により明らかにした。新生児および感染などを契機に発症するヘテロ変異保有小児の診断意義を明確にして、年齢別活性下限値を作成した。
臨床的観点からの成果
先天性Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症を年齢別の各活性値から、小児期に効率的に診断する方法を検証し、成人に匹敵する診断効率の水準に高めることができた。
ガイドライン等の開発
先天性Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症の小児および新生児の診断指針、重症度分類を作成し、その根拠となる論文が2016年に受理された。新生児期の診断効率を向上させる工夫が必要である。
その他行政的観点からの成果
先天性Protein C(PC)、 Protein S(PS)及びAntithrombin(AT)欠損症について、成人と小児・新生児では発症様式、誘因および各欠損症の割合が異なることを明らかにしたことから、小児慢性特定疾病および指定難病の情報に貢献することができた。
その他のインパクト
本研究班で診断した重症プロテインC欠損症の患児に、肝移植による治療が続けて成功し根治療法の道を開くことができた。小児への新しい抗凝固療法の適応を検討するための基本的な疫学、臨床情報をさらに集積中である。日本血栓止血学会、日本産婦人科新生児血液学会などでの報告を継続している。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ichiyama M, Ohga S, Ochiai M, et al.
Fetal hydrocephalus and neonatal stroke as the first presentation of protein C deficiency
Brain Dev , 38 (2) , :253-256  (2016)
doi: 10.1016/j.braindev.2015.07.004. Epub 2015 Aug 4.
原著論文2
Ichiyama M, Ohga S, Ochiai M, et al.
Age-specific onset and distribution of the natural anticoagulant deficiency in pediatric thromboembolism
Pediatr Res , 79 (1-1) , 81-86  (2016)
doi: 10.1038/pr.2015.180. Epub 2015 Sep 15.
原著論文3
Ichihara K, Yomamoto Y, Hotta T, et al.
Collaborative derivation of reference intervals for major clinical laboratory tests in Japan
Ann Clin Biochem , 53 (Pt3) , 347-356  (2016)
doi: 10.1177/0004563215608875. Epub 2015 Sep 11.
原著論文4
Matsunami M, Ishiguro A, Fukuda A et al.
Successful living domino liver transplantation in a child with protein C deficiency.
Pediatr Transplant , 19 (3) , E70-74  (2015)
doi: 10.1111/petr.12446. Epub 2015 Feb 25.
原著論文5
Hoshina T, Nakashima Y, Sato D, et al.
Staphylococcal endocarditis as the first manifestation of heritable protein C deficiency in childhood
J Infect Chemother , 20 (2) , 128-130  (2014)
doi: 10.1016/j.jiac.2013.08.002. Epub 2013 Dec 11.
原著論文6
Matsuoka W, Yamamura K, Uike K, et al.
Tachyarrhythmia-induced cerebral sinovenous thrombosis in a neonate without cardiac malformation
Pediatr Neonatol , 55 (5) , 412-413  (2014)
doi: 10.1016/j.pedneo.2014.02.003. Epub 2014 May 28.
原著論文7
Inoue H, Terachi SI, Uchiumi T, et al.
The clinical presentation and genotype of protein C deficiency with double mutations of the protein C gene.
Pediatr Blood Cancer , 64 (7)  (2017)
原著論文8
Matsunaga Y, Ishimura M, Nagata H, Ohga S, et al.
Thrombotic microangiopathy in a very young infant with mitral valvuloplasty.
Pediatr Neonatol , 59 (6) , 595-599  (2018)
doi: 10.1016/j.pedneo.2018.02.002.
原著論文9
Uehara E, Nakao H, Tsumura Y, Ohga S, Ishiguro A, et al.
Slow elevation in protein C activity without a PROC mutation in a neonate with intracranial hemorrhage.
Am J Perinatol Rep , 8 (2) , 68-70  (2018)
doi: 10.1055/s-0038-1639614.
原著論文10
Ichiyama M, Inoue H, Ochiai M, Ohga S, et al.
Diagnostic challenge of the newborn patients with heritable protein C deficiency.
J Perinatol , 39 , 212-219  (2019)
doi.org/10.1038/s41372-018-0262-0
原著論文11
Ogiwara K, Nogami K, Mizumachi K, Nakagawa T, Noda N, Ohga S, Shima M
Hemostatic assessment of combined anticoagulant therapy using warfarin and prothrombin complex concentrates in a case of severe protein C deficiency.
Int J Hematol , 109 , 650-656  (2019)
doi.org/10.1007/s12185-019-02645-7

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2020-06-16

収支報告書

文献番号
201510010Z