脳クレアチン欠乏症候群の臨床研究

文献情報

文献番号
201510004A
報告書区分
総括
研究課題名
脳クレアチン欠乏症候群の臨床研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
和田 敬仁(京都大学大学院 医学研究科 医療倫理学・遺伝医療学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(自治医科大学 小児科)
  • 後藤 知英(神奈川県立こども医療センター 神経内科)
  • 相田 典子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
  • 新保 裕子(神奈川県立こども医療センター 臨床研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
860,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳クレアチン欠乏症候群(cerebral creatine deficiency syndromes: CCDSs)は、 (1)クレアチンの早期投与により症状の改善が期待される治療可能なIDである(2)特にSLC6A8欠損症は欧米においては、男性ID全体の0.3-3.5%、アメリカには42000人、世界では100万人以上と推定され頻度が高い、の2点で重要である.
本研究の目標は、本症候群の発症頻度の推定と診断基準の作成と疾患の周知、および、近い将来、臨床治験に遅滞なく参加するための体制を整備することである.
研究方法
1. 脳クレアチン欠乏症の脳MRI/MRSに関する研究(相田)診断基準作成のための脳MRI/MRSの検討
2.脳クレアチン欠乏症候群の病態解明に関する研究(小坂)HPLC方法を用いた尿スクリーニング方法を開発.
3.脳クレアチン欠乏症候群の病態解明に関する研究(小坂)グルコーストランスポーター1型欠損症(GLUT1DS)の治療研究を行い、クレアチントランスポーター欠損症への応用を検討.
4.脳クレアチン欠乏症候群の診断基準作成および疫学調査に関する研究(後藤・和田)
神奈川県立こども医療センター神経内科の発達遅滞・自閉症・てんかんのいずれかを主訴に受診した患者からの有病率の推定.
5.脳クレアチン欠乏症の分子遺伝学的診断に関する研究(新保)HPLC法を用いた尿中グアニジノ化合物の測定と、遺伝学的検査による診断システムの確立 し、その有効性を検証した.
6.患者さんの検体登録システムと将来の治験を目指した体制整備(和田)
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のご協力により、研究参加支援サイト“CURE Path”を開設した.
7. 診断基準を作成、および、疾患周知のためのハンドブックを作成した.

結果と考察
1.MRI異常所見とMRS所見の明らかな関連は見出せなかったが、症例数が少なく、更なるデータの蓄積が必要である.
2.【症例】難治性てんかんと知的障害および運動障害を呈した成人女性に対して、頭部MRSでクレアチンピークの消失と、頭部MRIで両側淡蒼球の異常信号をみとめ、 CCDSが疑われた。尿中グアニジノ酢酸(GAA)が著しく上昇し、GAMT欠損症を強く疑った。GAMT遺伝子に複合ヘテロ変異を確認した. 確定診断により、クレアチン・オルニチン補充療法を開始し、症状の改善を認めた. HPLC法を用いた尿の解析が、脳クレアチン欠乏症候群のスクリーニング方法として有効であることが示された.
3.1)ヒト培養細胞へのSLC2A1導入一過性発現後の細胞を用いたウェスタンブロット法による解析.2)ヒト神経系培養細胞へのAAV9-SLC2A1導入3) Glu1+/-1へのAAV9-SLC2A1導入を行った.本研究におけるAAVウイルスベクターを用いた遺伝子導入による治療は、同じトランスポーターの異常であるクレアチントランスポーター欠損症にも応用できることが期待される.
4.2015年度はクレアチン輸送体欠損症が強く疑われる症例を1件見出した.当院で遭遇すると期待されるクレアチン輸送体欠損症の症例数は年間0.46~5.4人であり、この予測値の範囲内にあった。
5.現在までに、GAMT欠損症1症例、SLC6A8欠損症6例の遺伝学的診断を行った.また、HPLC法を用いた尿クレアチン/クレアチニン比の正常値を設定した.
6.現時点で、登録された患者はいない。
結論
診断基準およびハンドブック作成により、疾患の周知が進むことが期待される。神奈川県立こども医療センター症例の調査では、知的障害患者におけるSLC6A8欠損症の頻度は欧米並みであり、未診断例が多いことが推測される。尿を用いたグアニジノ化合物の測定は診断に有効であるが、女性の診断には注意が必要であり、遺伝学的検査とともに総合的に進めることが必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201510004B
報告書区分
総合
研究課題名
脳クレアチン欠乏症候群の臨床研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
和田 敬仁(京都大学大学院 医学研究科 医療倫理学・遺伝医療学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂  仁(自治医科大学 小児科)
  • 後藤 知英(神奈川県立こども医療センター 神経内科。)
  • 相田 典子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
  • 新保 裕子(神奈川県立こども医療センター 臨床研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳クレアチン欠乏症候群(cerebral creatine deficiency syndromes: CCDSs)は、クレアチン生合成や輸送の障害により脳内クレアチン欠乏をきたし、知的障害・自閉症・てんかんを主症状とし、グアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)欠損症、アルギニン・グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)欠損症、 クレアチン輸送体(SLC6A8)欠損症の3疾患からなる.
CCDSsは(1)クレアチンの早期投与により症状の改善が期待される治療可能なIDである(2)特にSLC6A8欠損症は欧米においては、男性ID全体の0.3-3.5%、アメリカには42000人、世界では100万人以上と推定され頻度が高い、の2点で重要である.
本研究の目標は、診断基準の作成と疾患の周知、および、近い将来、臨床治験に遅滞なく参加するための体制を整備する.
研究方法
1.脳クレアチン欠乏症の脳MRI/MRSに関する研究(相田)神奈川県立こども医療センターで診断されたクレアチントランスポーター欠損症4名に対して、MRI所見とMRSによる脳内Cr絶対濃度、臨床的重症度を比較検討した。
2.脳クレアチン欠乏症候群の病態解明に関する研究(小坂)HPLC方法を用いた尿スクリーニング方法を開発し、その有効性を検討した.
3.脳クレアチン欠乏症候群の病態解明に関する研究(小坂)グルコーストランスポーター1型欠損症(GLUT1DS)の治療研究を行い、クレアチントランスポーター欠損症への応用を検討した.
4.脳クレアチン欠乏症候群の診断基準作成および疫学調査に関する研究(後藤・和田)
神奈川県立こども医療センター神経内科を発達遅滞・自閉症・てんかんのいずれかを主訴に受診した309件に対して、ほぼ全例で脳MRSを含めた頭部MRI検査を実施し,有病率を検討した.
5.脳クレアチン欠乏症の分子遺伝学的診断に関する研究(新保)尿中のクレアチン関連化合物をHPLC法で測定し、次いで血液からRNA 、ゲノムDNAを抽出して遺伝子解析を行うことによる診断システムを開発し、その有効性を検証した.
6.患者さんの検体登録システムと将来の治験を目指した体制整備(和田)
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のご協力により、研究参加支援サイト“CURE Path”を開設した.


結果と考察
1.MRI異常所見の内訳は脳梁萎縮/容量低下(全4例)、小脳萎縮(2例)、淡蒼球信号異常(1例)、脳室くも膜下腔拡大(1例)であった。MRSによるCr定量は正常の15-20%程度であった。MRIの画像所見は非特異的ではあるが、精神遅滞で脳梁の容量低下がある症例ではMRSを追加する意義があり、小脳萎縮も認めれば追加したほうがよいと考えられる。
2.【症例】難治性てんかんと知的障害および運動障害を呈した成人女性に対して、頭部MRSでクレアチンピークの消失と、頭部MRIで両側淡蒼球の異常信号をみとめ、 CCDSが疑われた。尿中グアニジノ酢酸(GAA)が著しく上昇し、GAMT欠損症を強く疑った。GAMT遺伝子に複合ヘテロ変異を確認した. 確定診断により、クレアチン・オルニチン補充療法を開始し、症状の改善を認めた. HPLC法を用いた尿の解析が、脳クレアチン欠乏症候群のスクリーニング方法として有効であることが示された.
3.1)ヒト培養細胞へのSLC2A1導入一過性発現後の細胞を用いたウェスタンブロット法による解析.2)ヒト神経系培養細胞へのAAV9-SLC2A1導入3) Glu1+/-1へのAAV9-SLC2A1導入を行った.本研究におけるAAVウイルスベクターを用いた遺伝子導入による治療は、同じトランスポーターの異常であるクレアチントランスポーター欠損症にも応用できることが期待される.
4.2015年度はクレアチン輸送体欠損症が強く疑われる症例を1件見出した.当院で遭遇すると期待されるクレアチン輸送体欠損症の症例数は年間0.46~5.4人であり、この予測値の範囲内にあった。
5.現在までに、GAMT欠損症1症例、SLC6A8欠損症6例の遺伝学的診断を行った.また、HPLC法を用いた尿クレアチン/クレアチニン比の正常値を設定した.
6.現時点で、登録された患者はいない。


結論
現在までに本邦で診断が確定しているのは6家系であり、未診断例が多数存在することが推定される.まず臨床現場における本疾患の周知が重要である.

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201510004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現在までに、日本国内におけるクレアチントランスポーター欠損症症例6家系、および、GAMT欠損症1家系を確認し、分子遺伝学的診断も確認している。遺伝子変異と臨床症状との関連は明らかではなく、家族内でも臨床症状に幅があることが確認された。クレアチントランスポーター欠損症に関しては、尿のクレアチンクレアチニン比の上昇が男性患者の診断に有用であるが、女性においては、症状があっても正常値を呈する例もあり、その診断には注意が必要である。
臨床的観点からの成果
GAMT欠損症1家系に関しては、診断により、治療が開始され、症状の劇的な改善を認め症例報告されている(岡山大学 秋山倫之先生)。クレアチントランスポーター欠損症は国外では最も頻度の高い知的障害の一つであり、日本屋内における未診断例が多いと推測される。平成27年度は、クレアチントランスポーター欠損症の一家系賀症例報告された(滋賀県立小児保健医療センター 野崎章仁先生)
ガイドライン等の開発
診断基準を作成した。平成28年度以降は、その妥当性を検討し、修正を行う予定である。また、日本小児神経学会での承認を受ける予定。疾患認知のため、ハンドブックを作成した。
ハンドブックは、平成28年度中に修正を行い、改訂版を作成し、製本版を作成した。
その他行政的観点からの成果
日本国内における疾患の周知が急がれる。学会や雑誌報告も増えており、症例数の増加が期待される。
指定難病に申請したが、平成28年度の段階では却下された。平成29年度に再申請を試みる予定。
その他のインパクト
サイクロクレアチンの有効性が報告され、近い将来、臨床研究が始まる可能性があり、準備を進める必要がある。
平成29年3月19日に平成28年度「脳クレアチン欠乏症候群」班会議及び研究会、及び家族会を実施し、研究の進捗状況を報告するとともに、情報を交換した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
和田敬仁 脳クレアチン欠乏症候群。小児科臨床79:290,2016
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
日本小児神経学会で発表(2015.5)和田敬仁 「脳クレアチン欠乏症候群の臨床研究班」の取り組み
学会発表(国際学会等)
2件
アメリカ人類遺伝学会2015.10(サンデイエゴ)で発表 国際知的障害ワークショップ(イタリア・ソレント)でポスター発表、2019/9
その他成果(特許の出願)
1件
特許第5662182号 生体試料中のアミンの測定方法およびその方法を用いる患者のスクリーニング方法
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
和田敬仁「瀬尾シンチ対はなおらない」のか?第9回東北大学学際科学フロンティア研究所セミナー(東北大学、仙台、2015.7.8)

特許

特許の名称
生体試料中のアミンの測定方法およびその方法を用いる患者のスクリーニング方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5662182号
発明者名: 和田敬仁 新保裕子 小坂仁
権利者名: 地方独立行政法人神奈川県立病院機構
出願年月日: 20110201
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
野崎章仁、熊田知浩、柴田実、他。
尿中クレアチン/クレアチニン比と家族歴より診断に至ったクレアチントランスポーター欠損症の1家系 本邦3家系目
脳と発達 , 47 , 49-52  (2015)
原著論文2
van de Kamp JM, Errami A, Howidi M, et al.
Genotype-phenotype correlation of contiguous gene deletions of SLC6A8, BCAP31, and ABCD1
Clin Genet , 87 , 141-147  (2015)
原著論文3
Akiyama T, Osaka H, Shimbo H, et al
A Japanese adult case of guanidinoacetate methyltransferase deficiency
JIMD , 12 , 665-669  (2014)
原著論文4
Kato H, Miyake F, Shimbo H, et al.
Urine screening for patients with developmental disabilities detected a patient with creatine transporter deficiency dye to a novel missions mutation in SLC6A8
Brain Dev , 36 , 630-633  (2014)
原著論文5
和田敬仁
脳クレアチン欠乏症候群
小児科診療 , 79 , 290-290  (2016)
原著論文6
Uemura T, Ito S, Ohta Y, et al.
Abnormal N-Glycosylation of a Novel Missense Creatine Transporter Mutant, G561R, Associated with Cerebral Creatine Deficiency Syndromes Alters Transporter Activity and Localization.
Biol Pharm Bull. , 40 , 49-55  (2017)
10.1248/bpb.b16-00582
原著論文7
和田敬仁
【尿毒症とグアニジノ化合物-機能性小分子研究の歴史と新たな展開-】 神経とグアニジノ化合物 脳クレアチン欠乏症候群の概観とクレアチントランスポーター欠損症
腎と透析 , 83 , 67-73  (2017)
原著論文8
Uemura T, Ito S, Masuda T, Shimbo H, Goto T, Osaka H, Wada T, Couraud P-O, Ohtsuki S.
Cyclocreatine Transport by SLC6A8, the Creatine Transporter, in HEK293 Cells, a Human Blood-Brain Barrier Model Cell, and CCDSs Patient-Derived Fibroblasts.
Pharm Res. , 37  (2020)
DOI: 10.1007/s11095-020-2779-0

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2020-06-16

収支報告書

文献番号
201510004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
618,000円
(2)補助金確定額
618,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 407,820円
人件費・謝金 20,000円
旅費 345,956円
その他 86,224円
間接経費 258,000円
合計 1,118,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-