疫学調査による新しい疾患概念に基づく乾癬性関節炎の診断基準と重症度分類の確立

文献情報

文献番号
201510003A
報告書区分
総括
研究課題名
疫学調査による新しい疾患概念に基づく乾癬性関節炎の診断基準と重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中川 秀己(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 正(日本大学 医学部)
  • 大槻 マミ太郎(自治医科大学 医学部)
  • 佐野 栄紀(高知大学 医学部)
  • 衛藤 光(聖路加国際病院)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 医学部)
  • 森田 明理(名古屋市立大学 医学部)
  • 奥山 隆平(信州大学 医学部)
  • 亀田 秀人(東邦大学医療センター 大橋病院)
  • 岸本 暢将(聖路加国際病院)
  • 金子 敦史(名古屋医療センター)
  • 福田 国彦(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 長谷川 友紀(東邦大学 医学部)
  • 梅澤 慶紀(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,011,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乾癬性関節炎(PsA)は、関節障害をきたす前に足底腱膜炎、アキレス腱炎、指炎など様々な炎症を生じており、従来の疾患概念では本態を捉えきれていない。PsAは急速に不可逆的な関節破壊を生じ、関節障害は日常生活や就労の支障となり、労働生産性、QOLの著しい低下を引き起こすため、発症早期に診断し適切な治療を行う必要がある。現状では、関節障害が進行しないと診断がつかないため、新たな疾患概念の確立と早期のPsA診断基準を作成する必要がある。
本邦でのPsA患者数は3-4万人程度と推定されるが、正確な疫学調査は行われていない。客観的な指標に基づく診断基準による調査が行われていないことから、患者数は十分把握されていない。PsAの多くは、皮疹が先行するため、皮膚科医や総合診療医が簡便に利用できる精度の高い診断基準が望まれている。そこでPsAの①疫学調査と診断基準案の作成、②スコアリングツールと重症度分類の確立し、疫学調査に加え、画像検査を加えた早期診断と重症度判定基準などを確立し、それらの基準に基づき特に重症のPsA患者の難病指定を目指すことにある。
研究方法
PsA患者の有病率を班員施設と日本乾癬学会の協力で調査した(。関節症状の有無や日常生活動作への影響など早期の関節症状も検出できるように、50項目程度の質問票調査を行い、あわせて理学所見を得る。その結果、関節症状がある(または過去にあった)患者を対象に、疾患活動性を示す指標(DAS28に加え、AMDF,CPDAI,PASDAS等)やBASDAI、寛解基準であるMDAを満たす割合、X線検査、血液検査などの既存の方法によって関節症状の評価を行った。次に、関節症状があるにもかかわらず、既存の方法では関節変化が検出されなかった患者を対象に、関節や腱などの周囲組織の変化をより鋭敏に検出できるとされる超音波検査を行うことにより、早期の病変を捉える。さらに可能な患者には造影MRI,Dual Energy CT検査を行い、関節症状の評価を行う。これらを統計学的に解析し、簡便でかつ、検出力の高い診断基準案を作成する。PsAの多くは皮膚症状が先行するため、簡便に利用できるスコアリングツールと重症度分類の確立が必要であり、その素案を作成しPsAと診断された患者の腫脹関節数、疼痛関節数、変形関節数、罹患部位、CRPなどの他覚所見や、疼痛VASなどの自覚症状、QOL調査から重症度分類を策定し、それを用いて重症度と50項目に及ぶ質問票調査の結果の関連を解析し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を確立する。また、超音波検査やMRI、CT検査のような非侵襲的な画像検査と重症度の関係を解析する。更に、心血管障害や脳血管障害や腎障害などの併存症の有無が、重症度やスコアリングと相関するのか検討する。
結果と考察
PsAの早期関節症状を検出できる簡便でかつ、検出力の高い診断基準案をもとに調査を行った結果、PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった。多関節炎型では関節症状が10個以上に及ぶ患者も認められた。また、小児の乾癬性関節炎における乾癬皮疹は軽微であり、詳細な診察と経過観察が診断に必要と考えられた。
早期診断のための画像検査に関しては以下の結論を得ることができた。
1.単純X線写真
長所:簡便で経済性に優れ、骨びらんや骨増殖など構造変化が分かる。
短所:炎症性変化は見えず、早期の病変検出ができない。
2.超音波
長所:診察しながらon timeで炎症性変化も骨構造変化も観察できる。
短所:手指関節24か所全てを検査するのは、実際には煩雑で困難。
3.造影MRI
長所:炎症性変化も骨構造変化も観察できる。
短所:空間分解能が低いため、末梢の小関節の評価が難しい。造影剤を使用するため腎機能低下症例では実施不可。
4.Dual-energy CT
長所:空間分解能が高く、末梢関節の描出に優れている。
短所:被爆する、造影剤使用するため腎機能低下症例では実施不可。
5.PET/CT
長所:全身の関節を一度に検索することが可能であり、感度、特異度も高い。
短所:保険適用がない。
結論
PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった。重症患者の難病指定を目指すには、関節・骨障害が完成する前に重症PsAに移行する前に早期診断し、治療を開始することが重要である。そのために有用な画像診断が必要であるが被爆の問題はあるものの現時点ではDual-energy CTが優れていると考えた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201510003B
報告書区分
総合
研究課題名
疫学調査による新しい疾患概念に基づく乾癬性関節炎の診断基準と重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中川 秀己(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 正(日本大学 医学部)
  • 大槻 マミ太郎(自治医科大学 医学部)
  • 佐野 栄紀(高知大学 医学部)
  • 衛藤 光(聖路加国際病院)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 医学部)
  • 森田 明理(名古屋市立大学 医学部)
  • 奥山 隆平(信州大学 医学部)
  • 亀田 秀人(東邦大学医療センター 大橋病院)
  • 岸本 暢将(聖路加国際病院)
  • 金子 敦史(名古屋医療センター)
  • 福田 国彦(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 長谷川 友紀(東邦大学 医学部)
  • 梅澤 慶紀(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乾癬性関節炎(PsA)は、関節障害をきたす前に足底腱膜炎、アキレス腱炎、指炎など様々な炎症を生じており、従来の疾患概念では本態を捉えきれていない。PsAは急速に不可逆的な関節破壊を生じ、日常生活や就労の支障となり、労働生産性、QOLの著しい低下を引き起こすため、発症早期の診断と適切な治療が必要となる。しかし、関節障害が進行しないと診断がつかないため、新たな疾患概念の確立と早期のPsA診断基準を作成する必要がある。
本邦でのPsA患者数は3-4万人程度と推定されるが、正確な疫学調査は行われていない。医師や患者にも十分認知されておらず、客観的な指標に基づく診断基準による調査が行われていない。PsAの多くは、皮疹が先行するため、簡便に利用できる精度の高い診断基準が望まれている。そこで診療環境の充実が急務であると考え、PsAの①疫学調査と診断基準案の作成、②スコアリングツールと重症度分類の確立、③社会への知識普及を達成目標 として、PsAの疫学調査に加え早期診断と重症度判定基準などを確立し、それらの基準に基づき重症のPsA患者の難病指定を目指す。
研究方法
PsA患者を班員施設で調査したデータを基に乾癬患者数の多い全国施設で、1000例以上を目標に50項目程度の質問票調査を行う。関節症状がある(または過去にあった)患者を対象に、疾患活動性を示す幾つかの指標やBASDAI、寛解基準であるMDAを満たす割合、X線検査、血液検査などの既存の方法によって関節症状の評価を行う。早期のPsAを検出するために超音波検査、造影MRI、CT検査を行い、関節症状の評価を行う。これらを解析し、簡便でかつ、検出力の高い診断基準案を作成する。PsAの多くは皮膚症状が先行するため、皮膚科医が簡便に利用できるスコアリングツールと重症度分類の確立が必要であり、その素案を作成しPsA患者の腫脹関節数、疼痛関節数、変形関節数、罹患部位、CRPなどの他覚所見や、疼痛VASなどの自覚症状、QOL調査から重症度分類を策定し、それを用いて重症度と50項目に及ぶ質問票調査の結果の関連を解析し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を確立する。PsAと爪および皮膚症状との関連を合わせて検討する。
また、超音波検査やMRI、CT検査のような非侵襲的な画像検査と重症度の関係を解析する。あわせて、心血管障害や脳血管障害や腎障害などの併存症の有無が、重症度やスコアリングと相関するのかを検討する。
結果と考察
PsAの早期関節症状を検出できる簡便でかつ、検出力の高い診断基準案を作成した。重症のPsA患者を選定するための重症度分類案を作成し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を作成した。PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった。実際にはPsA患者の10%程度が最重症に当てはまることが示唆されている。早期診断のための画像検査では、単純X線写真は簡便で経済性に優れ、骨びらんや増殖など構造変化が分かるが炎症性変化は見えず、早期の病変検出ができないため、超音波、造影MRI、Dual-energy CTを組み合わせることにより早期病変の検出を行う重要性がしめされた。PET/CTは全身の節を一度に検索することが可能で、感度、特異度も高いが、保険適用がないことが問題である。
PsA患者において、爪甲剥離を見た場合はDIP関節炎を、点状陥凹、横溝を見た場合は全身の腱付着部炎の合併に注意すべきと考えられた。また、小児PsAの乾癬皮疹は軽微であり、詳細な診察と経過観察が診断に重要である。
結論
PsAの診断基準とスコアリングツールと重症度分類を作成した。早期関節症状を検出できる検出力の高い診断基準案をもとに調査を行った結果、PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった。多関節炎型では関節症状が10個以上に及ぶ患者も認められた。上記研究を通じ本邦でのPsAの疫学的な実態が把握でき、本症に関する施策を計画する上で重要な情報を提供できる。簡便で実用的な診断基準を策定することで、全国の医療施設で早期のPsAを適切に診断することが可能になり、重症度分類・スコアリングシステムを用いることで効果的に医療資源を提供する施策が可能となる。最重症患者を特定し、難病指定につなげることができる。
情報を国民に広報し啓発をはかることで、未受診患者を減少させ早期治療の開始が可能となることで関節破壊を防止でき、労働生産性やQOLが著しく低下してする患者の数が劇的に減少することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201510003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
乾癬性関節炎(PsA)の早期関節症状を検出できる簡便で検出力の高い診断基準案を作成した。PsAの重症度分類案を作成し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を作成した。PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった画像検査では、単純X線写真に超音波、造影MRI、Dual-energy CTを組み合わせることにより早期病変の検出が可能になることが示された。
臨床的観点からの成果
作成したPsAの診断基準とスコアリングツールと重症度分類から調査を行った結果、PsA患者の有病率は乾癬患者全体の約10%を示し、関節症状が5個以上の多関節炎型が約半数を占めた。重症型と考えられるムチランス型、強直性脊椎炎型の患者は3%以下であった。多関節炎型では関節症状が10個以上に及ぶ患者も認められた。上記研究を通じ本邦でのPsAの疫学的な実態が把握でき、本症に関する施策を計画する上で重要な情報を提供できる。最重症患者を特定し、難病指定につなげることができる。
ガイドライン等の開発
日本皮膚科学会学術委員会からの推薦で「乾癬診療ガイドライン」を作成することが理事会で承認され、作成委員会のメンバーも決定した。今後、乾癬性関節炎班研究の結果を組み入れた「乾癬診療ガイドライン」が作成される予定であり、完成後は公開予定となっている。
その他行政的観点からの成果
研究班として2月末に厚労省に指定難病としての申請書を提出した。厚労省の指定難病検討委員会の平成29年度実施分として今後検討される222疾病のリストになかに、「乾癬性関節炎」が入っている。
その他のインパクト
全国乾癬患者友の会と密な連携を保って班研究を継続してきており、今回の研究の結果に関しては、簡潔に患者会の代表に伝えてある。詳細は患者会が主催する各地の勉強会で公表する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201510003Z