文献情報
文献番号
201508030A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病及び慢性腎不全による合併症足潰瘍・壊疽等の重症下肢虚血に関する実態調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-循環器等-指定-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大浦 武彦(医療法人社団 廣仁会 褥瘡・創傷治癒研究所)
研究分担者(所属機関)
- 東 信良(旭川医科大学 外科講座 血管外科)
- 上村 哲司(佐賀大学医学部附属病院 形成外科)
- 中村 正人(東邦大学医療センター大橋病院 循環科内科)
- 大浦 紀彦(杏林大学医学部 形成外科)
- 小林 修三(湘南鎌倉総合病院 腎臓病総合医療センター)
- 市岡 滋(埼玉医科大学 形成外科)
- 菊地 勘(医療法人社団豊済 会 下落合クリニッ ク)
- 秋田 定伯(長崎大学病院 形成外科)
- 田中 純子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院 疫学・疾病制御学)
- 安部 正敏(医療法人社団廣仁会 札幌皮膚科クリニック )
- 田中 康仁(奈良県立医大 整形外科)
- 安藤 亮一(武蔵野赤十字病院 腎臓内科)
- 谷口 雅彦(聖マリア病院 移植外科診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
欧米では重症下肢虚血の年間発症は8~28万人とされ、そのうち82,000件が下肢切断に至っていると推計されている。日本において重症下肢虚血の全容実態調査は存在しない。しかし、慢性透析患者の四肢切断患者数は2013年3.6%であったが、2014年3.7%と増加している。本研究より下肢切断に至る原因、重症化機序、関連合併症を調査し、ハイリスク群を明確化することで下肢・足病の重症化予防を行う。
研究方法
日本透析医学会の統計資料は、わが国の慢性透析患者の現況を非常に良く把握されている。この日本透析医学会の統計調査のデータベースを使用して2つの調査を行った。さらに、日本透析医学会のデータの項目が四肢切断となっており、下肢切断の詳細が不明なため、下肢切断の補足的解析として、特定地区及び特定施設において調査した。
結果と考察
慢性透析患者の四肢切断数は2009年6,486人(全体に占める割合2.9%)、2012年8,274人(3.5%)、2014年8,787人(3.7%)であり、上昇傾向にあった。
2012-2013年に連結出来たデータは179,453症例であり、1年間で新規四肢切断を発症した症例は1,640人、新規四肢切断発生率は1,000人あたり9.1(1,640/179,453)人/年であった。患者背景では、年齢は高齢であるが、透析歴は短く、男性の割合が高く、原疾患が糖尿病性腎症の割合が高かった。既往症では、新規四肢切断群は糖尿病の合併が高率であり、動脈硬化疾患である心筋梗塞と脳梗塞を高率に合併していた。血液検査所見では、透析患者の血管石灰のリスク因子である高リン血症の影響が強く、リン値が6.0mg/dl以上で新規四肢切断のリスクは高率であった。高コレステロール(non-HDLコレステロール)血症に関しては、180mg/dl以上で有意なリスク因子となっていた。
特定地区奈良県下における一般病院で下肢切断の状況を調査したところ、2014年4月から2015年3月までの1年間に下肢切断はのべ153例(30施設)であり、男性65%、女性35%、手術時平均年齢は73才(41-98)であった。糖尿病は95例(62.1%)に合併しており、人工透析は44例(28.5%)で導入されており、切断術後早期に2例が新たに透析となっていた。奈良県では人口10万あたりにすると年間約11例の下肢切断症例が発生している。
重症下肢虚血や糖尿病性壊疽による下肢切断の予後は悪く、高齢者では義足による歩行は困難であると言われている。東京と鹿児島における特定2施設(杏林大学病院形成外科、南風病院整形外科)で、切断後の予後と歩行についての現状を調査した。仮に血行再建が行われ、下肢の温存が出来れば生存率がどの位であるかについて比較すると、Aulivola Bらの報告では、1年生存率は、69.7%で、2施設の生存率は1年54.6%、5年23.8%と、かなり低いことが示された。一方でOlive Registryによると血行再建を行った場合の1年後の下肢切断無し生存率は、74%であった。このことから、血行再建と創傷治療が成功すれば、切断を回避でき生存する割合が上昇することがわかる。大切断術後の歩行率は、9.0%と3.3%で、外傷における大切断術の報告と大きな乖離があった。糖尿病・重症下肢虚血における大切断術は、たとえ義足をつけたとしても歩行できず予後も悪いので積極的に行うべき治療法ではない。義足なしで歩行する治療をめざす必要がある。
2012-2013年に連結出来たデータは179,453症例であり、1年間で新規四肢切断を発症した症例は1,640人、新規四肢切断発生率は1,000人あたり9.1(1,640/179,453)人/年であった。患者背景では、年齢は高齢であるが、透析歴は短く、男性の割合が高く、原疾患が糖尿病性腎症の割合が高かった。既往症では、新規四肢切断群は糖尿病の合併が高率であり、動脈硬化疾患である心筋梗塞と脳梗塞を高率に合併していた。血液検査所見では、透析患者の血管石灰のリスク因子である高リン血症の影響が強く、リン値が6.0mg/dl以上で新規四肢切断のリスクは高率であった。高コレステロール(non-HDLコレステロール)血症に関しては、180mg/dl以上で有意なリスク因子となっていた。
特定地区奈良県下における一般病院で下肢切断の状況を調査したところ、2014年4月から2015年3月までの1年間に下肢切断はのべ153例(30施設)であり、男性65%、女性35%、手術時平均年齢は73才(41-98)であった。糖尿病は95例(62.1%)に合併しており、人工透析は44例(28.5%)で導入されており、切断術後早期に2例が新たに透析となっていた。奈良県では人口10万あたりにすると年間約11例の下肢切断症例が発生している。
重症下肢虚血や糖尿病性壊疽による下肢切断の予後は悪く、高齢者では義足による歩行は困難であると言われている。東京と鹿児島における特定2施設(杏林大学病院形成外科、南風病院整形外科)で、切断後の予後と歩行についての現状を調査した。仮に血行再建が行われ、下肢の温存が出来れば生存率がどの位であるかについて比較すると、Aulivola Bらの報告では、1年生存率は、69.7%で、2施設の生存率は1年54.6%、5年23.8%と、かなり低いことが示された。一方でOlive Registryによると血行再建を行った場合の1年後の下肢切断無し生存率は、74%であった。このことから、血行再建と創傷治療が成功すれば、切断を回避でき生存する割合が上昇することがわかる。大切断術後の歩行率は、9.0%と3.3%で、外傷における大切断術の報告と大きな乖離があった。糖尿病・重症下肢虚血における大切断術は、たとえ義足をつけたとしても歩行できず予後も悪いので積極的に行うべき治療法ではない。義足なしで歩行する治療をめざす必要がある。
結論
下肢血流不全・足病変は様々な原因があり、循環器病疾患、糖尿病、透析、動脈硬化や血管石灰化によって悪化し急速に重症化することがある。一旦重症化すると足が壊疽になり治癒させるのは大変である。下肢切断の場合は大切断となることが多く切断後は寝たきりになり死に至る割合が高いとされる。
今後は、透析患者が四肢切断のハイリスク症例であることを念頭に置き、糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患などの合併症を持つ患者には、足病変の観察や下肢の血流評価などに注意して診療にあたることが重要と考えられる。また、四肢切断のリスク因子である高リン血症に対する介入が、四肢切断のリスクを軽減できるなど、透析管理との関係を検討すると共に末梢動脈疾患による下肢虚血を早期発見して、血行再建などの早期介入を行うことで四肢切断のリスク軽減を検討していく必要がある。
今後は、透析患者が四肢切断のハイリスク症例であることを念頭に置き、糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患などの合併症を持つ患者には、足病変の観察や下肢の血流評価などに注意して診療にあたることが重要と考えられる。また、四肢切断のリスク因子である高リン血症に対する介入が、四肢切断のリスクを軽減できるなど、透析管理との関係を検討すると共に末梢動脈疾患による下肢虚血を早期発見して、血行再建などの早期介入を行うことで四肢切断のリスク軽減を検討していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2016-06-29
更新日
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