我が国における施設内感染等のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800490A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における施設内感染等のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 国元(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川慶介(北里大学医学部)
  • 島崎修次(杏林大学医学部)
  • 稲松孝思(東京都老人医療センター)
  • 児玉和夫(心身障害児総合医療療育センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗菌薬への依存性が高い我が国の医療においては、MRSA等の薬剤耐性菌が深刻な院内感染問題を引き起こしてきた。その感染拡大防止のために、MRSAに関しては対策が立てられているが、ペニシリン耐性肺炎球菌やバンコマイシン耐性腸球菌等については具体的な対策が示されていない状況である。また、耐性菌出現の原因となる抗菌薬の使用実態を全体的に把握するシステムがないことや消毒薬耐性菌の出現も問題となっている。さらに、隔離撲滅という考えから共存しながら実害をコントロールする方向へ施設内感染防止対策を切り換えていくことが求められている。それゆえ、こうした状況を踏まえた新しい対策の構築が急務となっている。
そこで平成10年度の研究事業では、平成9年度の調査・研究を踏まえて、薬剤耐性菌対策推進のため、各種医療施設における抗菌薬使用の現状および科別の感染症の現状とその対策について調査・研究するとともに、低濃度で高い殺菌力を持ち、人や環境に対する安全性が高いことが示された機能水(強酸性電解水)に関して、有効利用のための更なる基礎研究や使用対象別の使用方法の構築、使用実態のアンケート調査、各施設における実効性の検証を実施する。これらをもとに施設内耐性菌感染対策の構築にとって重要なポイントや問題点などを的確に把握することを目指す。
研究方法
1.抗菌薬使用の現状調査及び医療機関内の科別の感染の現状とその対策に関して、1)抗菌薬の使用現状: 品目別の売上高、一日常用量と薬価から総使用量と対象患者数を推定、2)耐性菌の現状: 黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、腸球菌などを中心に、科別および宿主別(総合内科、呼吸器科、外科、救命センター、癌、高齢者、小児)の感染症の現状調査とその対策、について調査・検討した。 2.医療施設等における強酸性電解水による薬剤耐性菌対策推進のために、1)強酸性電解水の殺菌力の検証と殺菌要因の解明、2)常用消毒薬との比較における強酸性電解水の特徴の調査・研究、3)基本性状や使用経験などに基づく対象別(環境清拭、内視鏡や人工透析機の洗浄消毒)の使用方法の調査・研究、4)全国の医療施設などにおける使用実態のアンケート調査、5)各種医療施設における除菌効果の実効性について試験した。
結果と考察
1.抗菌薬使用の現状調査及び医療機関内の科別の感染の現状とその対策:
1)抗微生物薬の使用状況: 我が国では諸外国に比べて抗菌薬の使用は多く、特にセフェム、ニューキノロンが多い。マクロライドでは Clarithromycin、アミノグリコシドでは Isepamicinが多い。Vancomycin(VCM)は米国に比べ少ない。
2)科別の耐性菌分離状況: 各科別の検討では、何れの科においてもMRSAの分離が依然として高いが、VCM耐性菌やArbekacin耐性菌は増えていない。抗菌薬耐性のP. aeruginosa、S. pneumoniae(PRSP)、H. influenzae、Serratiaが問題となっている。また、科によってはインフルエンザの流行、結核、疥癬にも注意を払う必要がある。
免疫機能低下症例が増加しつつある現在、海外からの侵入を含めあらゆる感染症の可能性があることを医療関係者は十分に認識する必要があるとの結論が得られた。
2.強酸性電解水の殺菌力、殺菌要因、使用実態と評価、対象別使用方法、実際使用成績:
1)耐性菌に対する殺菌力: 平成10年に臨床分離されたのMRSAと腸球菌に著効を示した。
2)殺菌要因: 次亜塩素酸(前年度解明)に加えてOHラジカルの生成を認めた。
3)常用消毒薬と比較したときの特徴: 製造濃度が使用濃度(低濃度)なので稀釈せずに使用でき、突発事故や環境危害は起きにくく、ランニングコストが安いこともあって大量に使用(洗浄)しながら消毒するということなどが特徴付けられた。
4)使用実態と評価: 全国から無作為抽出した500名の医療従事者を対象としてアンケート調査により、①回答者(245名)の55%が使用経験をもち、②用途は多様で、厚生省認可の手指や内視鏡の洗浄消毒の他に褥創や創部の洗浄除菌に有効に使用されており、③殺菌力よりも、手荒れが少ない、人にも環境にも安全性が高い、ランニングコストが安いことが評価点として、金属が錆びる、長期保存できない、有機物に弱いことが不満点として指摘され、④全体として使用対象と使用方法が的確であれば有効、ということが浮かび上がった。
5)使用対象別の使用方法: これまでの研究と使用経験により、環境清掃(床など)、内視鏡および人工透析機の洗浄消毒(除菌)法を提示した。
6)実際使用成績: ①新生児室(国立病院東京医療センター): MRSAが検出されていた床、浴室入口の粘着マット、空調排気口を約40日間強酸性電解水で清掃することにより何れの個所でもMRSAが検出されなくなった。②重症障害児施設: 床付着菌に対して他の消毒剤と同様の成績を示した。③高齢者施設: MRSAを保菌しやすい寝たきり患者の口腔ケアにおいて、含嗽できる患者では15/17例、含嗽できない患者では5/14例でMRSAを検出せず、両者に差を認めた。④高度救命救急センター: ガス壊疽(フルニエ症候群)の術後の創部の洗浄・デブリドマンに使用し、肉芽形成など順調な回復経過を観察した。
強酸性電解水は低濃度高活性次亜塩素酸水溶液ということができ、このことを基盤にした使用対象や使用法を考えていくことが現場での実効性を上げていく上で重要である。そうすれば、効果的で使いやすく、安全性で人にも環境にもやさしいという特徴があるので、今後さらに使用拡大が期待できる。
結論
1.抗菌薬の使用は、β-ラクタム薬(特にセフェム)とニューキノロンが多く、マクロライドのClarithomycinなどの多さが目立つ。多様な耐性菌の報告がある現在、さらに抗菌薬の使用量(適正使用)に注意を払う必要がある。
2.科別の分離菌は、いずれの科でもMRSAの分離が依然多いが、保菌状態が多く、バンコマイシンやアルベカシンに対する耐性化は進んでいない。一方、多剤耐性の緑膿菌、肺炎球菌(PRSP)、インフルエンザ菌、セラチアなどの薬剤耐性化に注意すべきである。
3.医療における抗菌薬への依存性が高いこと、免疫機能低下した宿主や海外からの移入が増加すると考えられることからも耐性菌対策は今後も重要であり、抗生物質使用量の的確な把握システムの構築、早期診断の確立や抗菌薬適正使用が望まれる。
4.強酸性電解水は、多剤耐性のMRSA、緑膿菌、腸球菌を含む広範な細菌等に強力な殺菌力を示し、殺菌機構は好中球の場合と同様に、次亜塩素酸、OHラジカルなどで構成されてる。
3.環境清掃、内視鏡及び人工透析機の洗浄消毒のため強酸性電解水有効使用法を作成した。
5.強酸性電解水は、全国の医療施設においてすでに広く利用されており、殺菌力よりも手荒れしない、人や環境に安全性が高い、ランニングコストが安いことが評価されている。
6.各種施設における強酸性電解水の実効性を高めるためには、欠点も含めて強酸性電解水の正しい知識と使用対象に応じた有効使用法を普及することが急務である。

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