文献情報
文献番号
201508013A
報告書区分
総括
研究課題名
2500人の糖尿病患者集団の10年予後からみた治療戦略に対する検討
課題番号
H27-循環器等-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久雄(熊本大学 大学院生命科学研究部 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
- 斎藤 能彦(奈良県立医科大学 第一内科学)
- 森本 剛(兵庫医科大学 臨床疫学)
- 副島 弘文(熊本大学 保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
第1に、世界最大規模の本コホートから得られる糖尿病患者の1次予防に関する調査報告は以前にはないため大変貴重なデータとなる。アスピリンの効果をより長期の観点から確認できれば非常に費用対効果の高い治療法が確定できる。
第2に、併発合併症として脳・心・血管疾患だけでなく癌の発症を調べることにより糖尿病患者の主要な疾患発症を解析することができ、糖尿病患者の併発合併症の実態把握ができる。
第3に、非薬物療法患者・内服治療患者・インスリン療法患者ではそれぞれ至適ヘモグロビンA1c値が異なる可能性がある。ヘモグロビンA1cと糖尿病併発疾患との関連性が明らかとなることでこれまでの動脈硬化性疾患予防の観点から設定されたヘモグロビンA1cとは異なる基準が提案できる。
第2に、併発合併症として脳・心・血管疾患だけでなく癌の発症を調べることにより糖尿病患者の主要な疾患発症を解析することができ、糖尿病患者の併発合併症の実態把握ができる。
第3に、非薬物療法患者・内服治療患者・インスリン療法患者ではそれぞれ至適ヘモグロビンA1c値が異なる可能性がある。ヘモグロビンA1cと糖尿病併発疾患との関連性が明らかとなることでこれまでの動脈硬化性疾患予防の観点から設定されたヘモグロビンA1cとは異なる基準が提案できる。
研究方法
JPAD研究は、2002年から2005年にかけて全国163の医療機関で2536人の脳・心・血管合併症のない2型糖尿病患者を登録したもので、低用量アスピリン群と非アスピリン群に割りつけてprospective, randomized, open-label, blinded,end-point (PROBE)法で低用量アスピリンの動脈硬化性合併症の発症(脳・心・血管イベント)をプライマリーエンドポイントにして実施されたもので、2008年4月まで経過観察され、観察期間の中央値は4.37年であった。特筆すべきことの一つとして、脱落例が少なく、長期経過した現在でも1825人が経過観察可能な状態にある。この1825人から、脳・心・腎・血管イベントの予後調査の同意を得て、JPAD2コホートを構築して現在フォローしている。本研究ではJPAD2の追跡調査を行いながらあらたにJPAD3コホートを形成した。現在アスピリンの内服は非アスピリン群でも可能となっているが、Intention-to-treatに基づき効果を検討する。また、糖尿病患者に多く発症する癌疾患を検討し、一般集団と比較することで糖尿病患者特有の癌疾患があるかを検討する。熊本大学を中心とした全国施設の調査を小川久雄、副島弘文がとり行い、奈良県立医科大を中心とした施設の調査を斉藤能彦、研究協力者の岡田定規がとり行う。JPADの統計解析は独立して兵庫医科大学の森本剛の解析チームがずっと行ってきており、本研究でも行う。
結果と考察
JPAD3コホートでは糖尿病患者における動脈硬化性合併症の危険因子に着目して解析を行っている。血糖コントロールの指標であるHbA1c(中央値)については、登録時7.2%、2009年7.0%、2013年6.9%であり、半数が糖尿病合併症予防の目標値(HbA1c <7%)を達成している。JPAD3コホートでは、2015年時点で324人にイベント発症を確認しており、追跡10年時点におけるイベント発症率は15.3%であることが明らかとなった。登録時のHbA1cの中央値(7.2%)で二群にわけて解析を行うとHbA1c<7.2%群において有意にイベント発症率の減少を認めた(P<0.0001)。また、各患者における登録時から2011年までの平均HbA1c(中央値7.2%)を用いた同様の解析においても、平均HbA1c<7.2%群において有意にイベント発症率の減少を認めた(P=0.047)。また、血圧については、高血圧群(収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHg)と正常血圧群(収縮期血圧<140mmHgかつ拡張期血圧<90mmHg)に群わけして解析を実施したところ、登録時の血圧を用いた解析では、正常血圧群において有意にイベント発症率の減少を認めた(P=0.0002;図5)。各患者における登録時から2011年までの平均の血圧を用いた解析においても、正常血圧群において有意にイベント発症率の減少を認めた(P=0.024)。これらの解析結果は、今後、他の因子を加えた多変量解析を用いて検証を行う予定である。
結論
2002年から2005年のJPAD研究登録時に、身長、体重、血圧、血糖、HbA1c、脂質、腎機能、尿蛋白、喫煙の有無等を調査している。また、使用薬剤として低用量アスピリンはもとより、降圧薬、インスリン、経口血糖降下薬、スタチンの使用状況を登録しているため、これらの因子や薬剤と糖尿病患者の合併症発症との関連を検討することができる。2009年、2015年の調査でも降圧薬や糖尿病薬について調査しており、非薬物療法・経口血糖降下薬療法・インスリン療法の患者に分けて、脳・心・腎・血管イベントの少ない至適なHbA1c値を検討する。
さらに、糖尿病患者に多い悪性新生物発症を解析し、糖尿病患者特有の悪性新生物発症傾向があるかを検討する。JPAD3コホートにおいても悪性新生物発症を追跡し、解析を行う。
さらに、糖尿病患者に多い悪性新生物発症を解析し、糖尿病患者特有の悪性新生物発症傾向があるかを検討する。JPAD3コホートにおいても悪性新生物発症を追跡し、解析を行う。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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