1型糖尿病の疫学と生活実態に関する調査研究

文献情報

文献番号
201508012A
報告書区分
総括
研究課題名
1型糖尿病の疫学と生活実態に関する調査研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
田嶼 尚子(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 雨宮 伸(埼玉医科大学 小児科)
  • 浦上 達彦(日本大学病院 小児科)
  • 川村 智行(大阪市立大学大学院 医学研究科)
  • 横谷 進(国立成育医療研究センター病院)
  • 杉原 茂孝(東京女子医科大学東医療センター小児科)
  • 菊池 信行(横浜市みなと赤十字病院 小児科)
  • 菊池 透(埼玉医科大学 小児科)
  • 西村 理明(東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科)
  • 中島 直樹(九州大学病院 メディカルインフォメーションセンター)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院生涯健康研究部)
  • 門脇 孝(東京大学大学院 医学系研究科糖尿病・代謝内科)
  • 緒方  勤(浜松医科大学 小児科)
  • 岡田 美保子(川崎医療福祉大学・医療福祉マネジメント学部医療情報学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
16,120,000円
研究者交替、所属機関変更
研究者の交替はない。

研究報告書(概要版)

研究目的
1型糖尿病(以下T1D)は国内の有病者数や有病率・発症率、血糖管理・合併症の状況、生活実態に関する統一見解がない。本研究で、暫定的診断基準を用いて疫学的知見を集積すると共に、患者の生活実態アンケートをまとめ、医療や福祉サービスの改善点を明らかにする。
研究方法
1)疫学的診断基準分科:成人T1Dは、世界的に見ても殆ど調査されていない。前年度に作成したT1Dの疫学的診断基準(暫定案)を作成・修正し、当該症例の抽出アルゴリズムを作成。
 九州大学病院の診療データベース化された約30万人のデータから抽出された866名を対象にカルテレビューを実施。また都心の大学病院の電子カルテを利用して、レセプトや関連データから確かなT1Dの占める割合を検討した。
 小児慢性特定疾患治療研究事業に2005~12年度に登録された糖尿病患児データを用い、小児期発症T1D(15歳未満)の有病者数、有病率、発症率を算出した。T1Dの定義は、主治医によるT1Dの診断to
インスリン加療中and/or GAD抗体陽性とした。T1D発症後3年以内に登録した人数を調査し、2010年の発症率を算出。性別、発症時年齢別、居住地域別、月・季節別に検討し、95%信頼区間は正規分布に近似して算出。
2)治療・管理と生活実態分科会:アンケート(前年度作成)を用い、治療と管理・教育・就労状況、医療費と年収、婚姻・出産、治療状況などについて調査した。小児インスリン治療研究会が保有する資料から、当該症例を診察している全国の医療機関名を抽出し、そこに所属する医師に対して研究への参加を要請した。患者の経済的負担及び就学・就労への影響等を調査し、医療や福祉サービスの向上に資する解析を行う。
結果と考察
1)疫学的診断基準分科会:T1Dの疫学的診断に用いる基準項目は、a.保険病名としてのT1D・インスリン依存型糖尿病、b.空腹時血中C-peptide 0.6 ng/mL未満、c.ケトアシドーシスの既往、d.インスリン治療あり、e.自己抗体陽性、とした。精緻化した最終抽出ロジックがT1D症例を抽出し得るか検証したところ、陽性的中率(PPV)は80.9%。確実なT1Dと専門医が判断し、かつ、九大病院に受診歴がある46症例を用いて検証したところ、感度は87.0%。レセプト項目のみに限定したロジックを用いると、PPVは79.9%、感度が84.8%であった。成人T1Dの疫学の実態は不明で、2型糖尿病との鑑別や重症度診断は今後の重要な課題である。糖尿病専門医療機関の外来通院者6,000人以上のレセプト病名等から検討したところ、T1Dは全糖尿病患者のうち6.8%を占めた。この抽出ロジックはT1Dの検出に有用であることは間違いない。今後、全国の医療施設での調査を実施するなどにより、成人発症のT1D患者数を推定できるようになろう。
小児慢性特定疾患治療研究事業(小慢事業)に登録されたT1D(15歳未満)のデータ(2005~12年)を解析した。発症率(/10万人年)は2.25 (男児: 1.91、女児: 2.52)、発症のピークは従来と同様に思春期、有病者数は2,326名で女児が56.0%を占めた。有病率は13.53 (/10万人)であった。年間発症率の増加、国内の地域差、季節変動など詳細な検討は今後の課題である。
2)治療・管理と生活実態分科会:昨年度に作成したアンケートを、33医療施設へ517冊を配布し、332名の自記式質問調査票を回収。選択基準を満たした254名について解析した。症例の抽出率は79.9%、アンケートの回収率は58.7%。平均年齢及び罹病期間は、男性で29.7歳及び20.3年、女性で31.7歳及び22.8年。全体の33.8%がHbA1c7%未満であった。T1Dをもつことは、就学・就業、結婚において一般の同世代の人と大きな違いはなかった。しかし医療費を大いに負担に感じる患者が46.9%を占めた。
 得られた成績は、18年前の調査と比較して、就学・就職・結婚・挙児について改善が認められたが、大半の患者が医療費負担が大きいと答えた。回収率が高くない場合は、回答者が全体の集団を代表している否かの検定が必要である。大阪市立大で行った小慢事業対象患者の実態調査では、小児医療制度使用患者は32%、生保とひとり親の医療支援は5%であった。小慢事業では、治療費の一部自己負担や申請書発行に要する費用の負担等、患者の把握率低下に強く影響する因子が内在し今後もその傾向は増強すると予想される。
結論
研究成果が行政の具体的な疾病対策の構築、医療体制の改善、費用対効果等に活用されることを期待する。T1D治療ガイド策定に反映させたい。今後も研究分担者間で連携し、日本糖尿病学会、日本小児内分泌学会、日本医療情報学会の支援の下に本研究を遂行する。

公開日・更新日

公開日
2016-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

文献情報

文献番号
201508012B
報告書区分
総合
研究課題名
1型糖尿病の疫学と生活実態に関する調査研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
田嶼 尚子(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 雨宮 伸(埼玉医科大学 小児科)
  • 浦上 達彦(日本大学病院 小児科)
  • 川村 智行(大阪市立大学大学院 医学研究科)
  • 横谷 進(国立成育医療研究センター病院 生体防御系小児科)
  • 杉原 茂孝(東京女子医科大学東医療センター 小児科)
  • 菊池 信行(横浜市立みなと赤十字病院 小児科)
  • 菊池 透(埼玉医科大学 小児科)
  • 西村 理明(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 中島 直樹(九州大学病院 メディカルインフォメーションセンター)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 門脇 孝(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 緒方  勤(浜松医科大学 小児科)
  • 岡田 美保子(川崎医療福祉大学 医療福シマネジメント学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1型糖尿病(以下T1D)はインスリン必須の稀な疾患で生活上の困難さもあるが、国内の有病者数や発症率、血糖管理・合併症の状況、生活実態に関する統一した見解はない。特に、成人発症T1Dに関する疫学調査は乏しい。その実態を調査し医療や福祉サービスの向上に資することが研究目的である。
研究方法
疫学的診断基準分科会:平成26年度は、T1Dの特徴と臨床的診断基準を考慮し、データベースからT1Dの推定症例を抽出するロジックを作成。平成27年度は、九州大学病院データベースから抽出された症例を対象にカルテレビューを行い最終抽出ロジックがT1D症例を抽出し得るか検証。更に、九大病院に受診歴がある症例リストを用いてその感度を検証した。小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小慢事業)に登録されたT1D(15歳未満)のデータを用い、有病者数、有病率、年間発症率を解析した。T1Dの定義は、主治医による診断、インスリン加療中and/or GAD抗体陽性。年間発症率(2010年)はT1D発症後3年以内に登録した人数(補正)から算出。性別、発症時年齢別、居住地域別、月・季節別に検討し、95%信頼区間は正規分布に近似させた。大阪府下では小慢によるT1D症例把握率をC-R法を用いて検討した。治療・管理と生活実態分科会:平成26年度は、患者の基礎データ、診断時の症状、血糖等の管理状態、合併症の有無と病期、経済的負担、就学・就労への影響等を明らかにし得るアンケート調査票を作成。予備調査として、14施設宛てに調査票を送付。平成27年度は、調査票を33医療施設へ517冊配布した。ヘルシンキ宣言の趣旨及び疫学研究に関する倫理指針(平成25年7月施行)則り研究を遂行した。
結果と考察
疫学的診断基準分科会:T1Dの疫学的診断に用いる基準項目は、保険病名としてのT1Dインスリン依存型糖尿病、空腹時血中C-peptide<0.6 ng/mL、DKAの既往、インスリン治療あり、自己抗体陽性とした。精緻化した最終抽出ロジックがT1D症例を抽出し得るかを、九大病院の診療業務用データベースに登録された約30万人から866名を選択して検証したところ陽性的中率80.9%・感度87.0%、レセプト項目のみに限定し精緻化を修正した最終抽出ロジックを用いると陽性的中率79.9%・感度84.8%。糖尿病専門医療機関の外来通院者6,000人以上のレセプト病名等から検討したところ、T1Dが全糖尿病患者に占める割合は6.8%。最終抽出ロジックはT1Dの検出に有用であった。成人T1Dの疫学の実態は不明で、2型糖尿病との鑑別や重症度診断は今後の課題である。小児期発症T1Dの発症率(/10万人年、2005~2012年)は2.25 (男児1.91、女児2.52)、発症のピークは思春期。有病率13.53 /10万人、有病者数2,326名のうち女児が56.0%を占めた。大阪市内の小児期発症T1D有病者数は、学校調査から35名、小慢事業データから43名、大阪市立医大から32名が同定された。C-R法を用いて検討したところ、有病率は16.7/10万人、小満事業データを用いた症例の捕捉率は75%。年間発症率の増加、国内の地域差、季節変動など詳細な検討は今後の課題である。治療・管理と生活実態分科会:322名から自記式質問調査票を回収し、選択基準を満たす254名について解析。平均年齢及び羅病期間は、男性29.7歳及び20.3年、女性31.7歳及び22.8年。全体の33.8%がHbA1c7%未満。T1Dをもつことは、就学・就業・結婚において一般人口の同世代と大差はなかった。しかし医療費を大いに負担に感じる患者が46.9%を占めた。症例の抽出率79.9%、アンケート調査票回収率58.7%。大阪市立大調査では、小児医療制度使用患者32%、生保とひとり親の医療支援5%であった。小慢事業では、治療費の一部自己負担や申請書発行に要する費用の負担等、患者の把握率低下に強く影響する因子が内在し今後もその傾向は強まると予想された。
結論
本研究の結果は、日本のT1Dの疫学に関する新知見を提供すると共に、T1D患者の就学・就労支援を含めた社会参加の促進の為の施策に反映することができる。今後とも、関連学会である日本糖尿病学会、日本小児内分泌学会、日本医療情報学会の強力な支援の下に遂行したい。

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201508012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
疫学的診断基準に基づきデータベースから成人1型糖尿病症例を抽出するロジックを作成した。陽性中率(80.9%)と感度(87.0%)は良好であった。小慢事業に登録された1型糖尿病(15歳未満)のデータを解析した。発症率(/10万人年)は2.25 [男児: 1.91、女児: 2.52]で発症のピークは従来と同様に思春期、有病者数は2,326名、有病率は13.53 (/10万人)であった。国内における年間発症率の増加、地域差、季節変動など、詳細な検討は今後の課題である。
臨床的観点からの成果
成人に達した小児期発症1型糖尿病の生活実態を明らかにするために、患者の基礎データ、診断時の症状、血糖等の管理状態、合併症の有無とその病期、診療や通院の費用等の経済的負担及び就学・就労への影響等を明らかにし得るアンケート調査票を作成した。選択基準を満たす254名の33.8%がHbA1c<7%で、1型糖尿病をもつことは、就学、就業、結婚において一般人口の同世代の人と大差はなかったが、約半数が医療費が負担だと答えた(症例の抽出率79.9%、調査票の回収率は58.7%)。これらは新所見である。
ガイドライン等の開発
本研究は、日本糖尿病学会、日本小児内分泌疾患、日本医療情報学会の支援を得て遂行した。従って、研究成果は各学会の関連委員会における検討を経て、「糖尿病診療ガイドライン2016」及び「児・思春期糖尿病コンセンサスガイドライン」をはじめとするガイドラインやホームページ上に新しいエビデンスとして提示されるものと期待している。
その他行政的観点からの成果
稀有でしかも慢性の経過を取り、完治しない疾患を持つ人々の生活実態を把握し、その福祉対策を講ずることは行政にとって極めて重要である。インスリンが枯渇した確実な1型糖尿病もこの範疇に含まれる疾患である。本研究の成果は、そのような疾患の判定に資することができる。
その他のインパクト
わが国の小児期発症1型糖尿病の発症率は欧米諸国と比べて著しく低く、過去15年間横ばいで、発症年齢の低年齢化も認めなかった。これは、本疾患の成因解明に大きな示唆を与えるものである。また、成人Ⅰ型糖尿病の疫学的データは世界的に見てもほとんど報告されていない。世界に先駆けて1型糖尿病の疫学的診断基準を明確に定め、その実態を明らかにすることの意義は大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201508012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,120,000円
(2)補助金確定額
16,120,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,437,853円
人件費・謝金 4,534,634円
旅費 1,104,427円
その他 8,043,086円
間接経費 0円
合計 16,120,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-10-11
更新日
-