文献情報
文献番号
201508010A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
- 清原 裕(九州大学医学研究院 環境医学)
- 大久保 孝義(帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学)
- 磯 博康(大阪大学大学院 社会環境医学講座公衆衛生学)
- 玉腰 暁子(北海道大学大学院 社会医学講座公衆衛生学分野)
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
- 三浦 克之(滋賀医科大学医学部 社会医学講座公衆衛生学部門)
- 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部 基礎臨床医学講座)
- 辻 一郎(東北大学大学院 社会医学講座公衆衛生学分野)
- 中川 秀昭(金沢医科大学 総合医学研究所)
- 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
- 坂田 清美(岩手医科大学医学部 衛生学公衆衛生学)
- 岡山 明((同)生活習慣病予防研究センター)
- 村上 義孝(東邦大学医学部 社会医学講座医療統計学分野)
- 木山 昌彦((公財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
- 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
- 石川 鎮清(自治医科大学医学部 医学教育センター)
- 八谷 寛(藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
26,667,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働省の健康日本21(第二次)では「健康格差」の縮小を目標にしているが、貧困など社会的要因の改善を通じて格差の是正を行うのは容易ではない。わが国の循環器疾患の疫学は脳卒中死亡率の東高西低の解明から始まり、この格差の上流に塩分摂取量や血圧値の差があることを明らかにしてきた。現在でも循環器疾患の健康格差を解決する上で危険因子(高血圧、糖尿病等)の違いは無視できない課題であり、その格差是正は即効性をもった対策となり得る。本研究は14コホート280万人年のデータを解析してコホートごとの危険因子レベルやその管理状況の違い、それらが循環器疾患の発症・死亡の格差に与えている影響を明らかにする。さらに研究期間中に農山漁村や公務員、被災地のコホートを解析対象に加えて多様性に富む拡大データベースを構築し、わが国の地域別・集団別の危険因子の格差への影響とその是正による均てん化効果を検証する。
研究方法
本研究は、健康日本21(第二次)の循環器疾患分野の目標設定にも用いられた先行研究等(厚生労働科学研究:H23-循環器等(生習)-一般-005)で構築したデータベースを拡充し、危険因子の格差に焦点をあてた解析を行った。昨年度拡充した17コホート計 203,980人の平均14.4年追跡データ(EPOCH-JAPAN拡大データベース; 256万人年、17コホート)から、循環器疾患イベントの情報がある14コホート(105,945人)を用いて、ポワソン回帰で男女別の年齢調整循環器疾患死亡率、多変量調整死亡率(収縮期血圧、総コレステロール値、喫煙、BMIを調整)を算出した。
結果と考察
主たる研究目的として、本邦における循環器疾患発症率・死亡率の集団間格差の原因を危険因子のレベルや管理の側面から検証し、是正のために必要な介入手法を提示して行く。今年度は17コホートのうち循環器疾患イベントについての情報がある14コホート(105,945人)で、集団全体の年齢調整循環器疾患死亡率は、男性で577、女性で286(10万人年あたり)であり、最も死亡率が高いコホートでそれぞれ1432と874、最も低いコホートで114と40であった。そして危険因子調整(年齢に加えて収縮期血圧、総コレステロール、喫煙、BMI)により、最も死亡率が高いコホートと低いコホートの循環器疾患死亡率の差は男女とも約20%縮小した。また年齢調整モデルでも多変量調整モデルでも、順位変動はあるものの死亡率の高い上位5コホートは男女で共通であり、また死亡率の低い2コホートも共通であった。死亡率が極端に低い2コホートはいずれも勤務者集団であり、次いで死亡率の低い3つのコホートではベースライン調査の年が他の地域コホートと比べて10~15年ほど新しかった。これらの結果は脳卒中と冠動脈疾患を分けて分析してもほぼ同様であり、危険因子以外に「時代効果」の影響が大きいことが示唆された。一方、相対リスクに着目した統合データを用いた研究、個別コホート研究で計52本の原著論文を公表した。
結論
コホート間で高血圧などの危険因子が循環器疾患の発症や死亡に与える寄与の大きさを比較することにより、集団間の格差の要因と解決法を危険因子管理という実行面から検証できる。また複数のコホート集団を統合して大規模なデータを解析することで、危険因子の変化が集団全体の循環器疾患リスクの変化にどの程度影響を与えるかを予測するツールを作成できる。これにより健康格差の縮小に対して、危険因子管理という具体的な切り口から即効的なアクションプランを作成する。さらにこのような大規模統合コホートを維持・発展させることにより、健診制度の見直しや診療ガイドラインなど様々な厚生労働行政や臨床医学上の課題に迅速に科学的根拠を提供できる。本研究は健康格差是正を目指した厚生労働行政の大きな目標の推進に貢献すると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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