文献情報
文献番号
201508005A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21(第2次)に即した睡眠指針への改訂に資するための疫学研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
兼板 佳孝(国立大学法人大分大学 医学部 公衆衛生・疫学講座)
研究分担者(所属機関)
- 内山 真(日本大学 医学部)
- 渡辺 範雄(京都大学大学院 医学研究科)
- 巽 あさみ(浜松医科大学)
- 金城 やす子(名桜大学 人間健康学部)
- 田中 克俊(北里大学大学院)
- 北畠 義典(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)
- 谷川 武(順天堂大学 医学部)
- 井谷 修(国立大学法人大分大学 医学部 公衆衛生・疫学講座)
- 池田 真紀(日本大学 医学部)
- 尾崎 章子(東北大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,924,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 渡辺範雄
国立精神神経医療研究センター( 平成27年4月1日~28年1月31日)→ 京都大学大学院医学研究科(平成28年2月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
平成15年に公表された睡眠指針は、国民全体に共通する項目を網羅するように策定されたため、母子保健、産業保健、学校保健などの個々の集団が有する特有の睡眠問題までは対応しきれていない。また、近年の保健指導では、集団指導のみならず個人の状況に応じた個別指導も必要とされているが、前述の睡眠指針は、そのような観点から作成されていない。そのような現状を鑑み、本研究課題では、第1に介入研究を含めた新たな疫学研究知見に基づいて睡眠指針を検証すること、第2に個々のライフステージに応じ、また、個人の状況に対応できる実効性のある指針への改訂を提言すること、第3に睡眠指針の普及や睡眠習慣に関する啓発に寄与することを目的とする。
研究方法
本研究課題では以下に示す研究を実施した。1.睡眠習慣に関する介入研究として、①母子保健領域の介入研究、②運動に着目した介入研究、③不眠のための認知行動療法による介入研究、④職域における介入研究、⑤高校生に対する睡眠指針の普及と衛生教育を行った。加えて、2.睡眠呼吸障害のスクリーニングに関する研究、3.全国調査による不眠症状の重複に関する疫学研究、4.睡眠時間、夜勤とその他の生活習慣病リスクとの相乗効果に関する研究、5.睡眠指針の普及と啓発に関する研究、6.睡眠習慣の啓発に関する研究、7.睡眠に関する先行疫学研究のレビュー、8.日本人の睡眠障害に関する疫学研究について実施した。
結果と考察
母子保健領域の介入研究で幼稚園児と小学校1~2年生では、絵や劇という方法を取り入れることが、健康教育の効果につながっていた。運動に着目した介入研究では、対照群(知識提供)と介入群(知識提供+身体活動増加)の両方で睡眠が改善した。高ストレス状態の労働者で原発性不眠を有する者においては睡眠に関する認知行動療法を用いた集団睡眠衛生教育と個人睡眠保健指導が有益であることが判明した。睡眠呼吸障害のスクリーニングに関する研究では115名の参加者に対する簡易PSGを用いたスクリーニングを行い、睡眠呼吸障害の存在が疑われるものが21名(18.3%)認められた。全国調査による不眠症状の重複に関する疫学研究では、2,614人の成人データから不眠症状の有訴者率を算出したところ、「入眠障害が9.8%、夜間覚醒が7.1%、早朝覚醒が6.7%、「入眠障害+夜間覚醒」が4.6%、「入眠障害+早朝覚醒」が4.0%、「夜間覚醒+早朝覚醒」が5.0%、「入眠障害+夜間覚醒+早朝覚醒」が3.6 %であった。睡眠時間、夜勤とその他の生活習慣病リスクとの相乗効果に関する研究では、メタアナリシスで有意にリスクが上昇したことが報告されている疾患は乳癌、糖尿病、早産、流産、低出生体重児、子宮内発育遅延、月経不順、不妊症、虚血性心疾患、虚血性脳卒中があった。有意なリスク上昇の研究報告のある疾患として睡眠障害、乳癌、前立腺癌、体重変化、メタボリックシンドローム、多産、消化管疾患があった。睡眠指針の普及と啓発に関する研究では、「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠指針12箇条~」の普及・啓発をめざし、保健指導の現場で利用できる手引きとリーフレットを作成し、58名の保健指導従事者に評価させた。その結果、9割以上の者が役立つツールであると回答した。睡眠習慣の啓発に関する研究では、簡単な媒体であっても啓発活動を行うことで、その認知度や知識の向上につながることが示された。睡眠に関する先行疫学研究のレビューでは、短時間睡眠と通常時間睡眠について、その後の生活習慣病・死亡等のアウトカムの関連を検討するため、系統的レビューとメタアナリシスを行った。その結果、短時間睡眠は通常時間睡眠よりも、長期的に死亡、高血圧、心血管疾患、肥満等の増加と相関することが示された。特に短時間睡眠の時間定義がより短くなると死亡との相関がより強くなり、これは6時間未満の睡眠時間では統計学的に有意であった。日本人の睡眠障害に関する疫学研究では、成人2,532人(男性1,151人、女性1,381人)の全国規模の疫学データを分析したところ、「充分な睡眠」、「栄養バランス」、「朝食を食べる」という生活習慣はうつ病と有意な負の関連を示した。
結論
今年度はこれまでに実施してきた介入研究をまとめるとともに、睡眠指針の啓発に資するためのツール(保健指導の現場で利用できる手引きとリーフレット)を作成した。介入研究からは、睡眠に関する認知行動療法を用いた集団睡眠衛生教育と個人睡眠保健指導が有益であることが判明した。本研究課題で得られたこれらの疫学知見は、今後の指針の改定に寄与するものである。また、作成した啓発ツールは、保健指導の現場で利用されることによって健康日本21(第2次)の推進に寄与することが可能となる。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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