文献情報
文献番号
201508002A
報告書区分
総括
研究課題名
人口構成、社会経済状況、生活習慣の変化を考慮した疾病構造と経済的負担の将来予測
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
井上 真奈美(東京大学 大学院医学系研究科 健康と人間の安全保障(AXA)寄附講座)
研究分担者(所属機関)
- 大久保 一郎(筑波大学 医学医療系 医療保健政策学)
- 斉藤 功(愛媛大学 大学院医学系研究科 看護学専攻)
- 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
- 西 信雄(医薬基盤・健康・栄養研究所 国際産学連携センター)
- 山岸 良匡(筑波大学 医学医療系)
- 野田 愛(池田 愛)(順天堂大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、わが国において今後予想される人口構成、社会経済状況及び生活習慣の変化を同時に考慮し、2050年頃までの疾病構造の動向を予測することである。特に、死因構成と主要生活習慣病である循環器疾患・がんの罹患に焦点を当て、健康日本21(第二次)に関連する危険因子の変容による疾病構造の変化とその経済的負担を複数のシナリオを用いて示すことにより、今後わが国に求められる健康増進施策のあり方に資すると同時に自治体の健康増進施策への活用をめざす。
研究方法
本年度は、昨年度までに収集した地域データをベースを用いて、日本人における脳卒中及び心筋梗塞の年齢調整発症率を推計した。また、昨年度までに収集・推計した予測に必要な基礎資料を基に、回帰モデルとシステム・ダイナミックスモデルを用いて、危険因子の状況を考慮した疾病構造の将来予測を行った。回帰モデルを用いた予測では、生命表の「特定死因を除去した場合の平均余命の延び」の計算原理を応用して、リスク因子等の改善、およびそれによって期待される循環器疾患・悪性新生物等の年齢調整死亡率の低下の結果として、長期的に生じる死因別死亡の状況の変化、平均寿命の延伸、循環器疾患発症率、人口構成の変化について、将来推計を行う方法を検討し、都道府県レベルで検討できる計算ツールを開発した。また、システム・ダイナミックス手法を用いて、循環器疾患罹患のリスクを5段階に分けたモデルを作成して30年間のシミュレーションを行った。社会経済状況の変化としては、日本人における今後20年間の婚姻状況に関連する余剰死亡者数を推計した。さらに、将来にわたる性・年齢階級別、部位別のがん有病者数を予測し、疾病負荷の第一位を構成するがんについて経済負担を予測した。
結果と考察
日本人の脳卒中及び心筋梗塞の年齢調整発症率を4地域データから推計した。これまでに収集・推計した予測に必要な基礎資料を基に実施した回帰モデルによる予測では、生命表の「特定死因を除去した場合の平均余命の延び」の計算原理を応用して、リスク因子等の改善、およびそれによって期待される循環器疾患・悪性新生物等の年齢調整死亡率の低下の結果として、長期的に生じる死因別死亡の状況の変化、平均寿命の延伸、循環器疾患発症率、人口構成の変化について、将来推計を行う方法を検討し、都道府県レベルで検討できる計算ツールを開発できた。また、システム・ダイナミックス手法による予測では、循環器疾患罹患のリスクを5段階に分けたモデルを作成して30年間のシミュレーションを行い、ハイリスク戦略では現状維持とほとんど差がみられないが、ポピュレーション戦略では罹患総数が3分の2程度まで減少することが明らかとなり、循環器疾患の罹患数は高齢化による増加は避けられないものの、ポピュレーション戦略が成功すれば大幅な減少が見込めることが示唆された。社会経済状況の変化としては、日本人における今後20年間の婚姻状況に関連する余剰死亡者数を推計し、死亡リスクの低い既婚者の割合は大きく減る一方、死亡リスクの高い独身者の割合が大きく増加することで、独身関連死の数が増大すると予測された。がんの推計有病者数から疾病負荷の第一位を構成するがんについて医療費負担を予測した結果、前立腺がんを主傷病とする直接医療費総額が増加する一方、結腸・直腸がんを主傷病とする医療費は減少、女性全がん、特に乳がん、肺がんで増加すると予測された。
結論
わが国において今後予想される人口構成、社会経済状況及び生活習慣の変化を同時に考慮し、2050年頃までの疾病構造の動向を予測した。特に、健康日本21(第二次)に関連する危険因子の変容を考慮し、回帰モデル及びシステム・ダイナミックス手法をもちいて疾病構造の変化を予測、社会状況の変化として婚姻状況に関連する死亡数への寄与度を予測した。さらにがんについて、有病者数と医療費から経済負担を予測した。本研究の結果は、今後わが国に求められる健康増進施策のあり方に資すると同時に自治体の健康増進施策への活用が期待される。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
-