文献情報
文献番号
201507020A
報告書区分
総括
研究課題名
希少がんの定義と集約化に向けたデータ収集と試行のための研究
課題番号
H26-がん政策-一般-021
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
東 尚弘(国立がん研究センター がん対策情報センターがん臨床情報部)
研究分担者(所属機関)
- 川井 章(国立がん研究センター希少がんセンター)
- 成田 善孝(国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科)
- 佐々木 毅(東京大学医学部附属病院・病理部・診断科)
- 関本 義秀(東京大学生産技術研究所)
- 中村 文明(国立循環器病研究センター循環器病統合情報センターデータ統合室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,624,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
H27年厚生労働省「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」で初めて希少がん対策のあり方が検討された。本研究は希少がんの実態を表すデータ提供を目的とし、初年度はそれぞれの希少がんの頻度や医師の意見調査等のデータ提供により、上記検討会にて希少がんの定義を人口10万人あたり年間罹患率6例未満との基準が示された。「希少がん対策ワーキンググループ」でがん種毎の検討が定められ、H28年3月より「四肢軟部肉腫」分科会で検討が始まっている。今後は他のがん種でも検討が行われる予定であり、検討の元となるデータを順次提供していく。
研究方法
1.一般人向けインターネット調査で希少がんの集約化・ネットワーク化の意識調査を行った。質問内容は、集約化の必要性、許容可能な通院距離、コストと、ネットワーク化が進んだ時の治療希望場所(専門施設か最寄りの施設)等である。2.日本病理学会における全国の専門施設を対象に、バーチャルスライドの導入、病理コンサルテーションの経験等に関する質問紙調査を行った。3.希少がんとメジャーがんで患者の通院距離の違いと、軟部肉腫を例に通院時間による専門施設数と人口カバー率について、院内がん登録2013年症例数とGISシステムを活用して検討した。4.2014年版外保連試案を用いて、骨軟部腫瘍外科領域の手術の診療報酬充足率を、他の整形外科及び他分野の悪性腫瘍手術と比較し検討した。5.研究協力施設で治療を行った原発性悪性脳腫瘍患者の遺族にインタビュー調査を行った。初回連絡時に患者死亡後6ヶ月以上3年未満の家族を対象とした。6.白血病は希少がんの一つであるが、本邦での記述疫学が十分とは言い難いため、地域がん登録から全体的な傾向を検討し、院内がん登録を使って病型別の解析を行い、年次推移的考察を行った。
結果と考察
1.集約化の必要性では、すべき58%、すべきでない7%、どちらでもない35%で、問題のイメージの困難さを表している。都道府県の間で対応すべき治療内容に格差があると思うかは、ある48%で格差に関する懸念は無視できない。しかし、専門施設への通院かけられる時間では、1時間以上は40%で、アクセスへの要求水準は高い。2.バーチャルスライドのシステムは回答施設の半数以上が保有している。保有しない施設からは維持費が捻出できない等の課題が挙げられ、配備したとしても「活用されない」や「その他」の意見が60%を占めた。コンサルテーションでは、少数のコンサルタントに数多くの症例が集中する傾向が示された。3.希少がんとメジャーがんで、地域毎に通院距離に大きな変化はないことから集約化がほとんどないことがわかる。次に四肢軟部肉腫を対象に、集約化で診療施設数を絞った状況下で、通院距離1時間以内での人口カバー率、3時間以内での人口カバー率の変化を検討すると、10施設で1時間以内は30%程度、3時間以内は70%超をカバーできるが、100施設以上になっても80%まではカバーできないが、通院3時間以内だと20施設で80%超をカバーすることがわかった。4.骨原発悪性腫瘍、軟部悪性腫瘍の手術は診療報酬の設定が実際の費用の30%前後で、骨・軟部の良性腫瘍の手術や他の部位の悪性腫瘍の手術報酬に比べても低いことがわかった。これを集約化の動きと連動させてどう考えていくかは今後検討の余地がある。5.脳腫瘍という、希少がん且つ脳の機能障害が現れる特徴を反映した意見が数多く見られ、早期からの社会資源に関する情報提供、介護疲れの一時休止的な支援体制・グリーフケアの必要性等、脳血管障害に関する介護に共通の事柄も多かった。6.白血病の頻度は粗罹患率は漸増、年齢調整罹患率はほぼ変化がないことから、人口の高齢化による増加が主要因と考えられる。病型別の罹患率を欧州27カ国と比較すると、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病は欧州とほぼ同様の罹患率だが、慢性リンパ性白血病は明らかに少なかった。
希少がんを総合的に評価することは難しいが、本研究では共通部分と特徴的な部分を検討しつつ対策を進める支援をすることが重要と考えられる。現在の四肢軟部肉腫分科会で希少がん対策のプロトタイプを作りながら、他のがん種への応用も検討していく必要がある。その中で、疫学情報は検討対象となるがん種を考える材料になり、対象がん種でも診療報酬の充足度、患者人口のカバー率、患者支援のあり方などはそれぞれ考えるべき問題であり、検討の元となるデータが必要になると思われる。
希少がんを総合的に評価することは難しいが、本研究では共通部分と特徴的な部分を検討しつつ対策を進める支援をすることが重要と考えられる。現在の四肢軟部肉腫分科会で希少がん対策のプロトタイプを作りながら、他のがん種への応用も検討していく必要がある。その中で、疫学情報は検討対象となるがん種を考える材料になり、対象がん種でも診療報酬の充足度、患者人口のカバー率、患者支援のあり方などはそれぞれ考えるべき問題であり、検討の元となるデータが必要になると思われる。
結論
希少がん対策を正しい方向へデータに基づいて検討できるよう、様々なデータを提供してきた。今後も検討の進行に合わせて、様々なデータ源を活用してエビデンスを生み出す事を旨としていく。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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