わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究

文献情報

文献番号
201507011A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
新井 正美(公益財団法人 がん研究会 有明病院 遺伝子診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 清吾(昭和大学医学部乳腺外科)
  • 福嶋 義光(信州大学医学部遺伝医学・予防医学教室)
  • 三木 義男(東京医科歯科大学 遺伝医学)
  • 青木 大輔(慶應義塾大学医学部 産婦人科学)
  • 櫻井 晃洋(札幌医科大学医学部 遺伝医学・内分泌学)
  • 高田 史男(北里大学大学院医療系研究科 臨床遺伝医学講座)
  • 戸崎 光宏(相良病院付属ブレストセンター 画像診断学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,864,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 戸崎光宏 亀田京橋クリニック(~平成27年8月31日)→相良病院付属ブレストセンター(平成27年9月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)の臨床的な特徴を明らかにするために以下の5課題を検討する。
【1】わが国のHBOCデータベース作成のためのHBOCの全国登録事業
【2】HBOCのサーベイランスにおけるMRI検査の有用性に関する前向き臨床研究
【3】リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)に関する臨床研究
【4】BRCA1/2以外の遺伝性乳癌関連遺伝子の変異に関する研究
【5】HBOC総合診療制度の構築に関する研究

研究方法
【1】NPO法人日本HBOCコンソーシアム(JHC)の事業の一環として登録事業を計画した。本登録委事業の研究計画は平成26年12月にJHCの倫理委員会で承認を得た。平成27年度は登録委員の4施設で試験登録を実施した。
【2】対象はBRCA変異陽性で乳癌未発症者。年1回のMRI検査をサーベイランスとして実施する。MRI検査、マンモグラフィー及び乳房超音波検査は亀田京橋クリニックで実施し、画像所見の比較検討を行う。
【3】RRSO実施に関する多施設共同研究をNPO婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)において実施する。また各医療機関でのRRSO症例の臨床病理学的な検討を行う。
【4】乳癌の家族歴のある乳癌あるいは卵巣癌の罹患者であり、かつBRCA遺伝子検査で病的変異を認めなかった症例を対象として、RAD51C, PALB2, BRIP1の3遺伝子について、PCR-direct sequenceおよびMLPA法により変異解析を行う。
【5】日本医学会分科会である日本人類遺伝学会、日本乳癌学会および日本産科婦人科学会の3学会に働きかけて施設認定制度の有用性について議論を行い、さらにHBOCの総合診療制度を創設することを検討した。
結果と考察
【1】平成27年度は試験登録を実施した。対象は過去3年間に各医療機関でBRCA遺伝子検査を受検者である。その結果、BRCA遺伝子検査の受検者986名、BRCA1変異陽性者135名、BRCA2変異陽性者119名を登録した。BRCA遺伝子検査の20%で病的変異が認められた。また、意義の不明な変異(VUS)は全検査の6.6%で認められた。
平成28年3月より一般医療機関のエントリーを行い、本格的な全国登録を開始した。
【2】2015年3月現在で15例をエントリーして17回のMRI検査を実施した。その結果、1例で他の画像診断では認識できないがMRI検査のみで認識できる病変を認め、生検で乳癌の診断を得た。最終年度も継続して症例数を増やして検討する予定である。
【3】JGOGにおいてBRCA変異陽性者を対象として予後調査、外科的閉経に伴うQOL調査などを行い、RRSOの有用性に関するコホート研究を立案してJGOG理事会で承認を得た。がん研有明病院ではRRSO前後の心理社会的研究を実施した。RRSOを受けた16名を対象として聞き取り調査を実施し、中間解析を行った、その結果。卵巣癌発症への不安の軽減や遺伝子検査で変異陽性の心的衝撃の改善が認められた。
【4】本研究計画が倫理審査委員会の承認を得た後に、対象症例の解析を行った。平成27年度末で47例において対象3遺伝子の解析を終了した。現時点では欧米の結果と同様に変異頻度は低いと考えられる結果を得ている。
【5】上記3学会が連携して日本医学会の下で遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度を創設し、HBOC診療体制の整備拡充を推進することについて合意を得た。今年度は、登録事業、教育事業の規則、細則の原案を作成した。
結論
【1】BRCA受検者を対象としたHBOCデータベースの基盤を整備した。平成28年度は本格的な全国登録事業を開始する。
【2】乳癌未発症のBRCA変異陽性者を対象としてサーベイランスとして年1回のMRI検査を実施する臨床試験を実施している。17回の検査で1例MRI検査のみで乳癌を診断した。
【3】今後JGOGの中でRRSOのコホート研究を実施する予定である。がん研有明病院で実施した心理社会的研究では、RRSOにより卵巣癌発症の不安軽減や遺伝子変異陽性への心的衝撃が軽減している効果を認めている。
【4】海外では複数報告のあるRAD51C, PALB2, BRIP1の3遺伝子について、わが国における変異頻度や特徴を明らかにするためにBRCAに病的変異を認めなかった遺伝性乳癌症例を対象に変異解析を行った。現時点では変異頻度は欧米同様に低いことが予想される。
【5】HBOCの総合診療制度を3学会が中心となって設立して、日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の助言を得て活動することになった。また、HBOC診療を行う医療機関を総合診療施設等として認定し、連携・協力を促す制度を構築した。

公開日・更新日

公開日
2016-06-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201507011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,623,000円
(2)補助金確定額
7,623,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,011,616円
人件費・謝金 1,136,956円
旅費 924,584円
その他 790,844円
間接経費 1,759,000円
合計 7,623,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-10-11
更新日
-