文献情報
文献番号
201507009A
報告書区分
総括
研究課題名
手術療法の標準化に向けた消化器外科専門医育成に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 後藤 満一(福島県立医科大学 医学部)
- 森 正樹(大阪大学大学院 医学部)
- 宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部)
- 太田 哲生(金沢大学 医学部)
- 若林 剛(上尾中央総合病院)
- 國土 典宏(東京大学大学院 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
消化器外科医は本邦における固形がん治療において主要な役割を担っており、わが国は長年に渡り整備されてきた専門医制度を有している。専門医取得は多くの医育機関における消化器外科卒後教育の目標となっているが、消化器外科専門医制度が実際どのように診療の質や治療成績向上に寄与しているかは十分に検証されていない。本研究の目的は、National Clinical Database (NCD)に登録された情報を基に、本邦における消化器外科手術の治療成績を評価し、消化器外科専門医のパフォーマンスを把握することによって、より質の高い専門医育成のシステムを構築することである。NCDデータの解析によって明らかとなる専門医の質の客観的評価、専門医制度の妥当性、問題点は、新たな専門医制度における専門医育成プログラムへfeed back可能であり、プロフェッショナルオートノミーを基盤とした新しい専門医制度の構築、ひいては専門医の質の一層の向上と医療提供体制の改善に大きく寄与するものと期待される。
研究方法
本研究はデータの収集・分析にNCDのネットワークを活用し、(1) 後ろ向きにデータを解析し、消化器外科専門医制度の妥当性の検証と改善すべき点を明確にする、(2) NCD医療水準術式に新たな項目を追加実装し、前向きに専門医関与による治療成績を明らかにする、(3) これらの結果を基に新たな専門医制度における研修プログラムの具体的な要件に関して提言を行う、の3段階の計画で進行している。
平成27年度は、平成23、24年に登録されたNCDデータの後ろ向き解析結果から治療成績に関与する因子を抽出し、外科治療成績、専門医制度における問題点を検討することとした。さらに、それらを検証するために、NCDシステムを利用したWebアンケート調査を実施した。
平成27年度は、平成23、24年に登録されたNCDデータの後ろ向き解析結果から治療成績に関与する因子を抽出し、外科治療成績、専門医制度における問題点を検討することとした。さらに、それらを検証するために、NCDシステムを利用したWebアンケート調査を実施した。
結果と考察
消化器外科医療水準評価対象8術式は、それぞれおよそ80%以上の手術が、消化器外科専門医が2人以上在籍する施設で実施されていた。在籍する消化器外科専門医数でカテゴリー分類(専門医なし、専門医1名、専門医2~3名、専門医4名以上)した施設群の死亡率を検討すると、専門医数が4名以上の施設群では全ての術式でO/E比が1を下回り、volume effectで調整したリスクモデルによる施設ごとの専門医数による治療成績の検討では、低位前方切除以外の7術式において、専門医が2名以上(胃全摘、膵頭十二指腸切除)、3名以上(胃切除、右半結腸切除)、4名以上(食道切除、肝切除、急性汎発性腹膜炎手術)在籍することが独立した予後予測因子であることが示された。このことから、複数の消化器外科専門医、専門分野の異なる消化器外科専門医が所属することで、互いに個々の症例、治療方針、術後管理を相互評価し、最も妥当な治療戦略を構築できる可能性が示唆された。さらには、施設の診療体制、医療サポート体制の構築など、施設としての機能・質も大きく影響すると考えられ、在籍する専門医の数、専門医によってカバーされる細分専門領域、術前、術後カンファレンスの実施状況、Cancer Board設置の有無、インフォームドコンセントの実施状況などを内容としたWebアンケートをNCDシステムに実装して実施した。本アンケート結果とNCDデータを合わせた解析により、消化器外科専門医制度の改善すべき点が明らかとなる。さらに、より正確な専門医評価のための新規評価項目を抽出し、これらをNCDシステムに実装することで前向きに専門医の「力量・実力」を再評価することが可能となる。継続的に専門医制度の専門医育成プログラムへフィードバックしていくことで再現性のある検証システムの構築が可能となり、専門医の質の一層の向上と医療提供体制の改善に大きく寄与するものと期待される。
結論
わが国の消化器外科医療においては、医療水準評価8術式のそれぞれおよそ80%以上の手術は消化器外科専門医が2人以上在籍する施設で実施されており、低位前方切除術を除く7術式においては、専門医が2名以上(胃全摘、膵頭十二指腸切除)、3名以上(胃切除、右半結腸切除)、4名以上(食道切除、肝切除、急性汎発性腹膜炎手術)在籍する施設で行われた手術成績が有意に良好であることが示された。これは、現行の専門医制度の妥当性を示すものとも言えるが、国民によりよい消化器外科医療を提供するためには、新たな専門医制度における改善点を明確にし、反映することが重要である。Web施設アンケートから抽出された問題点を基にNCDシステムに専門医制度の前向きな評価システムを実装することで、問題点の抽出、前向き評価、改善計画の策定、プログラムへの反映の流れを継続的に実行可能なフィードバックシステムの構築が期待される。
公開日・更新日
公開日
2016-06-24
更新日
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