接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究

文献情報

文献番号
199800485A
報告書区分
総括
研究課題名
接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
  • 田代真人(国立感染症研究所)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 岡田義治(国立感染症研究所)
  • 水澤左衛子(国立感染症研究所)
  • 岩崎琢也(国立感染症研究所)
  • 阿部賢治(国立感染症研究所)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センタ-)
  • 佐藤博行(福岡赤十字血液センタ-)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
粘膜接触感染症および輸血後感染症の防御対策に役立てることを目的に、現在問題とされている、又は治療法の進歩に伴い新たに問題となり得るウイルス、細菌に対する高感度診断法(特に核酸増幅法)の開発、改良、診断に必要な標準品の整備、評価、管理交付体制の確立、現在ウイルス不活化処理の行われていない血液成分製剤のウイルス不活化法の開発を行う。
研究方法
粘膜接触感染症、輸血後感染症として重要な肝炎ウイルス(HCV,HGV,TTV)、ヘルペスウイルス群(CMV,HHV6~8)、パルボウイルス(B19)、エルシニア菌を主にとりあげ、高感度検出法の開発、改良を行い、検出法に必要なプライマ-の評価と標準化、管理、交付体制を作る。核酸増幅法等の高感度検出法をすりぬけたウイルスに対する血液成分製剤のウイルス不活化法の研究も併せて実施する。
結果と考察
各々のウイルス、細菌に対する検討結果を以下列挙する。
1.日本人由来G型肝炎ウイルス全長遺伝子のクロ-ニングと変異速度の解析
G型肝炎ウイルス(HGV)の全長ウイルスをクロ-ニングし、その分子ウイルス学的特徴を明らかにし、HGV感染の意義及び検出法につき検討した。日本人肝疾患患者血清由来HGV(HGV-IM71)を分離した。HGV-IM71は2873個のアミノ酸をコ-ドするpolyproteinと、458ntと310ntより成る'5-UTRと'3-UTRを有していた。既知のGBV-C/HGV株と比較すると、塩基レベルで西アフリカ株と81.1%、米国株とは85.1%、日本人株とは86.5%相同性を有していた。同一患者血清から12年前に分離されたHGV遺伝子の比較から、その変異速度は0.8x10-3/site/yearと推定された。分子系統樹解析を含むHGV検出法として本方法は有用な手段として応用可能である。
2.TTウイルス(TTV)ORF1/ORF2蛋白質の同定と機能解析
1997年、日本の非A~G型肝炎患者より分離されたTTVのゲノム上に存在する2種類の読みとり枠(ORF1/ORF2)がコ-ドする蛋白を同定し、ウイルスの生活環における役割、機能の検討を行った。ORF1遺伝子をバキュロウイルスベクタ-を用いて発現させ、免疫沈降法及びウエスタンブロット法によりORF1全長に相当する95kDa蛋白とプロセスされたORF1蛋白を検出した。ORF2についても同様に発現、解析し22kDda蛋白を同定した。TTVの遺伝子組成、細胞内局在、構造蛋白との相互作用を解析し、TTV遺伝子発現の調節作用、細胞障害性、血中の検出法等の検討を行う予定である。
3.血漿分画製剤中のTTV混入状況の検討
TTVの肝に与える影響についての詳細は十分に解析されていないが、その影響を考慮して、血漿分画製剤中にどの程度TTVが混入しているかをnested PCR法を用いて検討した。菌注用グロブリン製剤14ロットと第Ⅸ因子製剤11ロットからはTTVゲノムは検出できなかったが、第Ⅷ因子製剤では67%(4/6)、フィブリノ-ゲン製剤では3/3が陽性を示した。陽性の製剤からは1~10 PCR detectable unit/mlのTTVゲノムが検出された。陽性を示す分画製剤はいずれも加熱処理が行われており、ウイルス不活化は行われていると推定されるが、今後、ウイルス不活化の行われていない血液成分製剤の検討を行う予定である。
4.CMV,HHVに関する研究
ヘルペス群ウイルスは初感染後、体内に潜伏性に残存することを特徴とし、各々潜伏する細胞が異なっている。血液系細胞に潜伏するCMV、HHV6,HHV7,HHV8につき、血液細胞および血漿中のウイルスゲノム検出法を確立し、血液を介した感染における意義、防止法等の検討を行った。CMV,HHV6,HHV7は血液系細胞の潜伏感染が示唆された。HHV6では10コピ-のウイルスゲノムを検出できるPCR法を開発し、臨床検体検出法として有用であることを確認し、サブタイプ検出も可能なことが明らかとなった。PCR条件の検討とともに、HHV7,HHV8,CMVについても同様の方法の開発を行い、その有用性の確認を行う予定である。
5.パルボウイルスに関する研究
single PCR法、nested PCR法による血中パルボウイルス検出法はほぼ確立したのでベクタ-の標準化等に取り組んでいる。PCR法によるウイルス検出は、必ずしも感染性を意味しないので、パルボウイルスの感染性を測定し得る方法の開発を行った。ヒト骨髄細胞の替わりに、末梢血より分離した幹細胞(CFU-E)は、IL-3、エリスロポイエチン存在下で4日間培養すると、骨髄細胞と同等の感染性を示し、in vitroの感染性の指標として使用し得ることを確認した。更に培養した末消血単核細胞は凍結保存しても十分使用が可能であることが分かった。
6.血液製剤からのエルシニア菌の検出
Y.enterocoliticaを特異的に検出できるPCR法の開発に成功した。このマルチプレックス-プライマ-を用いたPCR法の実用化にむけた検討を行った。少数検体の場合は、本法が使用し得るが、多数検体のスクリ-ニングに使用するには、コスト、操作面からの改良が必要である。この方向での検討とともに、疑いのある検体の検出法に応用可能なベクタ-の評価と標準化作業を進めている。
7.血液成分のウイルス、細菌不活化法の開発
新鮮凍結血漿中に混入したウイルスを不活化する方法として、メチレンブル-と光照射を併用したウイルス光不活化法の有効性につき検討した。血漿にHIV又はHIV産生細胞(Molt-ⅢB)を添加し、メチレンブル-をあらかじめ入れてある細胞除去フィルタ-を有する血液バックに、フィルタ-を介して移し、光照射した。添加したHIVは20J/cm2の照射により検出限界以下まで不活化され、6.7log10の不活化率が得られた。血漿中の凝固第Ⅷ因子活性は、わずかの低下を示したが、-80℃保存、1年後でも約76%は維持されていた。本法は、血液製剤の凝固活性を損なうことなく、細胞内外HIVの感染性除去に有効であることを確認した。血小板、赤血球への応用も考慮し、検討を進める。
8.考察
粘膜接触感染症(STD)と輸血後感染症には、レトロウイルス、肝炎ウイルス等共通したウイルスが関係している。HIV,HTLV,HBV,HCVについては抗原、抗体検査による輸血血液のスクリ-ニングが行われ、多くの成果をあげているが、ヘルペスウイルス群、パルボウイルスには現在でも満足できる検査方法はとられておらず、さらにHGV,TTV等の新しい肝炎ウイルスも登場している。HIV,HBV,HCVにつき、輸血前スクリ-ニング検査が導入されてはいるが、ウインド-期の問題、高度医療の採用に基づく患者の感染に対する抵抗力の減退等の問題があり、さらなる安全性向上のためには、感染原の高感度検出法の導入、やむを得ず輸血をする場合はこれら危険因子をできっるだけ除去することが必要になってくる。本研究は、これら2つの問題に対処することを目的に新興、再興感染症として考えるべき、HCV,HGV,TTV,HHV6~8、パルボウイルス、エルシニア菌を対象としてとりあげ行われた。1999年7月を目標に、日本に於いてもHCVに対する核酸増幅法の輸血用血液スクリ-ニングへの導入義務化が予定されていると聞く。一方、新鮮凍結血漿のウイルス不活化法の導入も、日本赤十字社により検討されている。高感度検出法の開発、改良、標準化を行い、全国レベルで共通の評価のできる方法の検討を行いたい。
結論
肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス群、パルボウイルス、エルシニア菌に対する高感度検出法としての核酸増幅法の開発、改良を行った。一部は標準化作業に入ったが、改良点につき引き続き検討を加えたい。血液成分製剤のウイルス不活化法は、新鮮凍結血漿には応用可能と確認されたが、血小板、赤血球への応用の研究を継続したい。

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