Whole Slide Imaging (WSI) による病理診断の多施設検証研究

文献情報

文献番号
201504031A
報告書区分
総括
研究課題名
Whole Slide Imaging (WSI) による病理診断の多施設検証研究
課題番号
H27-特別-指定-033
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
福岡 順也(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 智雄(神戸大学医学部附属病院 病理部・病理診断科)
  • 白石 泰三(三重大学医学部 病態解明学講座 腫瘍病理学)
  • 佐々木 毅(東京大学医学部附属病院 人体病理学・病理診断学、地域連携推進・遠隔病理診断センター)
  • 森 一郎(国際医療福祉大学三田病院 病理部(病理診断センター))
  • 三上 芳喜(熊本大学医学部附属病院 病理部・病理診断科)
  • 吉見 直己(琉球大学大学院 医学研究科 腫瘍病理学講座)
  • 原田 大(亀田総合病院 病理診断科)
  • 梅田 みか (渡辺 みか)(東北大学病院 病理部 (がんセンター・テレパソロジーセンター))
  • 田畑 和宏(長崎大学病院 病理診断科・病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,869,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病理ガラス標本をデジタル化したWhole Slide Imaging(以下 WSIとする)による病理一次診断が可能であるかを証明する研究は国外において複数認められている。すでにヨーロッパではWSIによる病理一次診断が実施されている。米国でも、WSI技術に対して米国臨床病理医協会(College of American Pathologists: CAP)からガイドラインが発表されていると同時に、2016年内にその使用をアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認する可能性が高いといわれている。日本からはWSIによる病理一次診断の有用性を示す根拠となる報告がなく、デジタルパソロジーに関して日本は世界に大きく遅れをとっている。
また、日本における病理医の現状を鑑みた場合、診断病理医の育成は急務であるが、緊急に解決することの困難なテーマと言える。病理後継者は持続的に減少しており、病理医の高齢化が進む一方である現状は、全国的に大きく問題視されている。長崎県を例に挙げると、日本病理学会では26名の病理専門医として認定されているが、現役では16名しか実務についていない。単純に病理専門医の数でその充足度を予測できないのが病理医の現状である。デジタル病理技術による技術革新が、本邦の病理診断レベルの向上と病理医育成に必須と考える。
本研究では、WSIによる病理一次診断が、診断精度の観点から、光学顕微鏡によるガラスでの一次診断に劣らず有用であるかを検討することを目的とした。
研究方法
本研究は後ろ向きコホート研究として行った。研究参加者は病理診断業務に10年以上従事し、病理専門医資格を保する医師とし、研究参加前に、CAPガイドラインに基づくWSI診断のためのトレーニングセット60症例(全20臓器 3症例ずつ)を行い、全問正解することを要件とした。参加施設において偏りの無い生検検体および5ブロック以下の手術検体連続100症例を集積し、HE染色標本のWSIにて病理一次診断を行った。WSI化は各施設にすでに設置された機器を用い、対物レンズ倍率20倍または40倍でスキャンを行った。診断ツールとして解像度3840×2160ピクセル以上の4Kモニタを用いた。2週間のウォッシュアウト期間を空けた後、HE染色ガラス標本の光学顕微鏡による病理診断を行った。
評価項目は、診断時項目として、病理組織診断、確診度(90%以上、50-90%、<50%の3段階評価)、診断難易度(平易、やや困難、困難の3段階評価)、確定診断或いは記載診断、フォーカスの問題点、ガラスによる病理組織診断とした。さらに、WSI及びガラス診断の診断者間一致度(Concordance, Minor discrepancy, Major discrepancyの3段階評価)、診断の妥当性(診断者が不一致と判断した症例についてはコンセンサスによりWSI診断或いはガラス診断のどちらが妥当かを判定した)について評価した。
統計解析は、診断者間におけるWSI診断とガラス診断の診断一致度、一致度別の症例特性(臓器、採取方法、WSI診断時評価項目)について行った。
結果と考察
9施設、12病理専門医が参加し、全900症例1070検体が集積された研究であった。症例の分布は男女比1.1、年齢は41~80歳であった。検体は消化管・婦人科、泌尿器、皮膚科など多岐にわたっており、症例の分布としては一般的な医療機関での症例の分布と類似した。材料は生検検体(66.9%)が最も多く、外科検体は54検体(5.0%)であった。一致率についてはConcordance:1023検体(95.6%)、Minor discrepancy:37検体(3.5%)、Major discrepancy:9検体(0.9%)であった。合議によって、Major discrepancy 9検体のうち8症例が光学顕微鏡によるガラス標本診断が妥当と判断された。臓器別、検体採取方法、診断の相違点などに特記すべき傾向は認めなかった。また、施設別の不一致率検討結果では、Minor discrepancyが0.0-8.8%、Major discrepancyが0.0-3.0%であり、施設毎の一致率はほぼ同等であった。
結論
本研究は日本で初めて行われたWSIの有用性を検討する多施設共同研究であり、海外からの報告も含めて最大規模の研究の一つである。結果、治療方針や生命予後を左右するようなMajor discrepancyは少なく、診断者内不一致の範疇で説明可能なレベルであった。WSIによる診断は光学顕微鏡による診断とも遜色のない診断ツールとなることが期待できる。今後は臓器別あるいは難解症例の検討など詳細な検討を行うことが望ましいと考える。

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201504031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
WSIに於ける診断が、スライドガラスによる診断と遜色ない質を期待できることが分かった。このデジタルパソロジー技術の蓄積・発展により、診断の質や制度の向上を期待できる結果であった。
臨床的観点からの成果
デジタルパソロジー技術の日常診断業務への導入に向けて、広範な病理標本を用いて、多くの病理専門医の間での一致率を検討した。デジタルパソロジーシステムと、技術などの整備の普及が前進する基盤に必要な事項が確認できた。
ガイドライン等の開発
日本病理学会デジタルパソロジー検討委員会により診断ガイドライン、技術基準書の制定が開始された。平成27年8月31日、「病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準」が公開されており、ガイドラインの制定が進められている。
その他行政的観点からの成果
デジタルパソロジーの病理診断への導入について検討を多施設間で行い、医療機関におけるデジタルパソロジーのあり方について、遠隔診断への応用、不足した病理医や大学教育への適応への発展のための知見が得られ、今後関連する学会委員会などでガイドライン等の作成、公表が行われる。
その他のインパクト
平成27年10月2日版日本経済新聞、讀賣新聞、長崎新聞において、デジタルパソロジーの教育・臨床・研究利用に関して報道された。また平成28年4月13日、WSIを用いた、高校生向けの病理セミナーを開催し、テレビ長崎にて報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
13件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-06
更新日
2019-06-21

収支報告書

文献番号
201504031Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,355,000円
(2)補助金確定額
5,205,744円
差引額 [(1)-(2)]
149,256円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,905,797円
人件費・謝金 638,149円
旅費 909,150円
その他 283,527円
間接経費 486,000円
合計 5,222,623円

備考

備考
16,879円を自己資金で補填したため。

公開日・更新日

公開日
2016-06-06
更新日
-