文献情報
文献番号
201504026A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞等を用いた臨床研究を実施する際の移植細胞の安全性評価の在り方に係る研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-特別-指定-026
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(聖路加国際大学 聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
- 赤澤 智宏(東京医科歯科大学)
- 油谷 浩幸(東京大学先端科学技術研究センター)
- 牛島 俊和(国立がん研究センター研究所)
- 梅澤 明弘(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所)
- 岡野 栄之(慶應義塾大学 医学部)
- 小川 誠司(京都大学大学院 医学研究科 腫瘍生物学講座)
- 掛江 直子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター生命倫理研究室)
- 後藤 弘子(千葉大学大学院 専門法務研究科)
- 佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所再生・細胞医療製品部)
- 澤 芳樹(大阪大学大学院 医学系研究科)
- 永井 良三(自治医科大学)
- 早川 堯夫(近畿大学薬学総合研究所)
- 松山 晃文(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所創薬資源部)
- 森尾 友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野)
- 山口 照英(日本薬科大学)
- 山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,730,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働省 厚生科学審議会 再生医療等評価部会及び文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会 幹細胞・再生医学戦略作業部会における提言を受け、多能性幹細胞等由来細胞を用いる再生医療の安全性を確保するために、安全性に関連する課題(risk issues)を整理し、再生医療等安全性確保法に基づく特定認定再生医療等委員会における審議・評価に係る基本的考え方をとりまとめることが本研究班の目的である。
研究方法
研究班会議を4回、意見交換会を2回開催し、多能性幹細胞等由来細胞を用いる再生医療の安全性を確保するために、「造腫瘍性」を中心に科学的見地から議論を重ねた。具体的には、造腫瘍性に関して現時点で実行可能な科学的試験・評価方法とそれらの検出力、限界について議論し、実施可能性をも考慮した提言を行った。
(倫理面への配慮)
本研究は個人情報を扱うものではないが、必要に応じ関連法令、通知、指針を遵守し研究を実施した。
(倫理面への配慮)
本研究は個人情報を扱うものではないが、必要に応じ関連法令、通知、指針を遵守し研究を実施した。
結果と考察
多能性幹細胞由来特定細胞加工物にかかる提供計画について特定認定再生医療等委員会で審議する場合の基本的な考え方を、「臨床研究において多能性幹細胞由来特定細胞加工物を移植する際の考え方について」で提示した。その中でも、安全性および妥当性を議論するに当たり中核的課題である造腫瘍性評価について、「特定認定再生医療等委員会におけるヒト多能性幹細胞を用いる再生医療等提供計画の造腫瘍性評価の審査のポイント」として取りまとめた。この基本的考え方に拠って審議する際の留意事項について、「ヒト多能性幹細胞由来特定細胞加工物提供計画における加工物の造腫瘍性評価に関する留意事項」並びに「特定認定再生医療等委員会におけるヒト多能性幹細胞を用いる再生医療等提供計画の造腫瘍性評価の審査のポイント」として詳述した。
なお、OMICSの活用に関してはよりいっそうの議論が必要である。最後に、「多能性幹細胞由来特定細胞加工物の造腫瘍性評価に関する将来への提言」を取りまとめて、今後の規制科学研究の方向性を示した。
多能性幹細胞は、奇形腫形成という造腫瘍能を有しており、ヒト体細胞・体性幹細胞とは大きく異なる。したがって多能性幹細胞に由来する細胞組織加工製品においては、未分化の多能性幹細胞の混在により異所性組織や腫瘍が形成されるおそれがあるため、安全性評価の中でも特に造腫瘍性の評価と適切な管理は重要な課題である。
多能性幹細胞を用いる再生医療に際しては、その投与・移植形状、投与・移植細胞数、適用の経路、適用部位、免疫抑制剤の使用の有無、患者の病状の緊急性(人道的臨床利用含む)、既存治療法などの他選択肢の有無等、様々な検討軸が存在するため、科学的背景を有しない者にとっても理解しやすい考え方の提示が望まれる。本研究成果により提示された考え方が、多能性幹細胞を用いる再生医療が幅広く社会に受けいれられる一助となることが期待される。
現行の薬事関連通知において、造腫瘍性試験は適切に設計された動物モデルでの実施が求められているのみであるが、造腫瘍性評価をはじめとする安全性評価に最新の科学的知見を合理的に反映させた規制体系構築への期待は大きい。これら規制体系の構築にあたり、近年大幅に発達したゲノム解析技術は、細胞加工物およびその原料・中間加工物となる細胞の特性解析の有力なツールとなりうる。つまり、ゲノム解析等の結果に基づいた細胞の遺伝的不安定性評価および細胞加工物の安全性評価は、重要かつ有用なアプローチとなると考えられる。このような背景のもと、PMDA科学委員会は提言「iPS細胞等をもとに製造される細胞組織加工製品の造腫瘍性に関する議論のまとめ」を取りまとめている。これは、多能性幹細胞由来製品の造腫瘍性評価にあたって、ゲノム解析の必要性に言及するなどOMICS技術を造腫瘍性試験に適用することを奨めた、世界で始めての提言である。しかしながら、その具体的方法を確立するためには、さらなるゲノム解析技術の性能向上と解析結果の解釈方法を確立することが必要である。今後のOMICSを活用した規制科学の推進が望まれる。
なお、OMICSの活用に関してはよりいっそうの議論が必要である。最後に、「多能性幹細胞由来特定細胞加工物の造腫瘍性評価に関する将来への提言」を取りまとめて、今後の規制科学研究の方向性を示した。
多能性幹細胞は、奇形腫形成という造腫瘍能を有しており、ヒト体細胞・体性幹細胞とは大きく異なる。したがって多能性幹細胞に由来する細胞組織加工製品においては、未分化の多能性幹細胞の混在により異所性組織や腫瘍が形成されるおそれがあるため、安全性評価の中でも特に造腫瘍性の評価と適切な管理は重要な課題である。
多能性幹細胞を用いる再生医療に際しては、その投与・移植形状、投与・移植細胞数、適用の経路、適用部位、免疫抑制剤の使用の有無、患者の病状の緊急性(人道的臨床利用含む)、既存治療法などの他選択肢の有無等、様々な検討軸が存在するため、科学的背景を有しない者にとっても理解しやすい考え方の提示が望まれる。本研究成果により提示された考え方が、多能性幹細胞を用いる再生医療が幅広く社会に受けいれられる一助となることが期待される。
現行の薬事関連通知において、造腫瘍性試験は適切に設計された動物モデルでの実施が求められているのみであるが、造腫瘍性評価をはじめとする安全性評価に最新の科学的知見を合理的に反映させた規制体系構築への期待は大きい。これら規制体系の構築にあたり、近年大幅に発達したゲノム解析技術は、細胞加工物およびその原料・中間加工物となる細胞の特性解析の有力なツールとなりうる。つまり、ゲノム解析等の結果に基づいた細胞の遺伝的不安定性評価および細胞加工物の安全性評価は、重要かつ有用なアプローチとなると考えられる。このような背景のもと、PMDA科学委員会は提言「iPS細胞等をもとに製造される細胞組織加工製品の造腫瘍性に関する議論のまとめ」を取りまとめている。これは、多能性幹細胞由来製品の造腫瘍性評価にあたって、ゲノム解析の必要性に言及するなどOMICS技術を造腫瘍性試験に適用することを奨めた、世界で始めての提言である。しかしながら、その具体的方法を確立するためには、さらなるゲノム解析技術の性能向上と解析結果の解釈方法を確立することが必要である。今後のOMICSを活用した規制科学の推進が望まれる。
結論
再生医療にかかる造腫瘍性評価の公的ガイドラインは世界的にみても皆無である。多能性幹細胞等を用いる再生医療の適切な社会展開にむけ、再生医療等安全性確保法に基づいて審議、実施される再生医療等技術に関し、造腫瘍性を中心とした安全性の評価に係る基本的考え方を世界に先駆けて示した。特定認定再生医療等委員会での適切かつ迅速な審議に資することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2016-10-04
更新日
-