後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201504009A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究
課題番号
H27-特別-指定-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 隆雄(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐室)
研究分担者(所属機関)
  • 辻  一郎(東北大学大学院医学系研究科 教授)
  • 磯  博康(大阪大学大学院医学系研究科 教授)
  • 清原 裕(九州大学大学院医学研究院環境医学分野 教授)
  • 葛谷 雅文(名古屋大学未来社会創造機構・老年医学 教授)
  • 島田 裕之(国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター 部長)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 特任准教授)
  • 杉山みち子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 教授)
  • 津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター センター長)
  • 石崎 達郎(東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長)
  • 近藤 克則(千葉大学予防医学センター環境健康学研究部門 教授)
  • 原田 敦(国立長寿医療研究センター病院 病院長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,904,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
後期高齢者の保健事業のあり方を検討するにあたり、いくつかの基本的な事項について概説しておく必要があると考えられ、総論として以下の事項等について(その主たる内容とともに)まとめた。
1)高齢者の健康状態の現状と課題;今後の後期高齢者の絶対的・相対的増加にともなう健康特性の 問題(特にフレイルや認知症の増加)。
2)フレイル、認知症、ロコモティブシンドローム(サルコペニア)、低栄養・口腔機能(オ-ラル フレイル);後期高齢者の主要な健康特性と歩行能力の重要性等。
3)医療保険者の視点から見た後期高齢者の状態像と課題;後期高齢者での有病状況と多病(併存症 )の実態を各種調査やレセプト分析から後期高齢者の医療の実情について説明等。
4)以上から、後期高齢者の保健事業としては、生活習慣病、加齢に伴う老年症候群など複合的な疾 患の重症化と心身機能低下の両面に関わる高齢期に特有のフレイル(虚弱)に着目した取組が重 要。その実施にあたっては、介護予防の取組との連携を図りながら、広域連合が保有する健診・ レセプト情報等を活用し医療保険の観点から、個人差が拡大する後期高齢者の特性に応じ、専門 職によるアウトリーチを主体とした介入支援に取り組むことが必要。
研究方法
1)後期高齢者の保健事業に関わる既存研究のレビュー(文献レビューも含む)を実施し、それらを
以下のようにまとめた。
 フレイルは「身体的」(低栄養、口腔機能低下、及びサルコペニアや運動機能障害等を含む)、「精神・心理的」(軽度認知障害、うつ、更に認知症初期状態を含む)そして「社会的」(閉じこもり、孤立、及び弧食等を含む)の3要素からなり、健常な状態よりは虚弱化が進行している。しかし、いわゆる「身体機能障害(disability)」とは異なり、適切な介入によってフレイルから健常状態に回復することが可能な状態であり、今後急増する後期高齢者に高頻度に出現する状態像であることを操作的定義と定めた。このような定義に基づき、疾病予防や自立支援(介護予防)のあり方についてこれまでの科学的根拠をもとにに検討した。

2)後期高齢者の保健事業に関して、先進的な市町村の取り組みについて該当する8つの市町村からのヒアリング調査を実施し、先進的事業についてまとめた。

















結果と考察
1)後期高齢者の保健事業は、生活習慣病の発症予防というよりは重症化予防や、加齢に伴う心身の機能の低下、すなわち「フレイル」の進行を予防することがより重要になる。
従って、後期高齢者に対しては、その健康特性に応じた(1)健康状態及び生活機能の適切なアセスメント、(2)科学的根拠に基づく適切な介入支援が必要となる。

2)医療保険者の視点では、医療費適正化も重要な課題であり、生活習慣改善による健康支援を充実させることが重要。保健事業としては「不安をあおる場」ではなく「加齢の影響を考慮しつつ安心を提供できる場」とすることが重要。

3)後期高齢者における保健指導においては、慢性疾患の有病率が高く、疾病の重症化予防や再入院の防止、多剤による有害事象の防止(服薬管理)が特に重要であるため、医療機関と連携して実施されることが必要。広域連合はレセプト情報や健診データを保有しており、こうした取組を実施するのに適した主体である。

4)効果的・効率的介入のあり方としては、いわゆるポピュレーションアプローチとともに、健康状態等の個人差が拡大する後期高齢者の特性を踏まえ、ハイリスクアプローチによる個別的な対応を適切に組み合わせることが必要。広域連合が保有する健診、歯科健診、レセプト情報、包括的アセスメント情報などを組み合わせ、支援を要する高齢者に対し、専門職種によるアウトリーチ(訪問指導)や、立ち寄り型相談などの機能も充実を図る必要がある。

5)以上のような点を踏まえ、後期高齢者医療広域連合が実施する「後期高齢者の保健事業ガイドライン(試案)」を提案。本試案を踏まえた事業実施を通じデータ収集及び検証を並行して行い、より多くの広域連合が積極的に保健事業を展開できるよう、今後内容を改善していくことが必要。
結論
フレイルは「身体的」、「精神・心理的」そして「社会的」要素からなり、健常な状態よりは虚弱化が進行しているが、いわゆる「身体機能障害(disability)」とは異なり、適切な介入によって健常状態に回復することが可能な状態ということができる。今後進行する高齢社会にあって、特に後期高齢者の健康増進と介護予防を推進するにあたり、フレイルの適切な対策が必要不可欠で有り、そのための科学的根拠の構築が必須であると結論した。

公開日・更新日

公開日
2016-05-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201504009C

収支報告書

文献番号
201504009Z