マラリアの病態疫学と対策に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199800479A
報告書区分
総括
研究課題名
マラリアの病態疫学と対策に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 守(群馬大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 片貝良一(群馬大学工学部)
  • 宮本 薫(群馬大学生体調節研究所)
  • 姫野國祐(徳島大学医学部)
  • 竹内 勤(慶應義塾大学医学部)
  • 相川正道(東海大学総合医学研究所)
  • 秦 順一(慶應義塾大学医学部)
  • 穂積信道(東京理科大学生命科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再興感染症であるマラリアに対する日本の貢献は、無償資金協力、技術協力などODA資金をもとに行われてきたが、日本で生まれた科学的成果を現地の対策に応用することが最も基本的な貢献であることはいうまでもない。本申請は現在のマラリア対策の基礎として強く望まれている流行地住民の病態疫学解明のための基礎的知見をそろえることを目的に立案された。生体高分子化学、タンパク化学、分子生物学などの先端的基礎研究と、流行地の疫学調査・研究とを整合性をもたせて一体化させて進める点に特徴があり、流行地住民の病態疫学的特性をとらえるためのマラリア原虫の抗原分子を特定し、その分子を合成すること目指している。この研究目的が達成できれば、現地において各流行の特性に応じた選択的な対策方針を計画することが可能となる。現在、薬剤耐性マラリアについての基礎研究は、現在あらゆるアプローチにより進めなければならないことはいうまでもないが、本研究においては、すでにかつて広く使用されたピペラジン誘導体を使って耐性を除去するユニークな試みが検討され、有望な結果がえられている。現在基礎的解析をすすめている新しい動物モデルは、完成すると本研究計画すべてにわたって応用可能なばかりでなく薬剤やワクチン開発研究にも奬用されるはずである。
研究方法
研究方法および結果 (1) 病態疫学解析に必要な抗原分子の合成 マラリアの病態を反映する熱帯熱マラリア原虫の抗原分子を特定するために、さまざまな病態にあるマラリア感染者の血清を用意しウエスタンブロット法により各病態において特異的に反応する抗原分子48.7kDポリペプチドを特定したのち、Bio Rad Model 491 Prep Cell を使って大量に用意し、さらに高速クロマトグラフ法により純化した。純化させたポリペプチドをLysine部分で切断し得られた材料につきアミノ酸分析器によりアミノ酸の配列をきめた。2カ所の異なる配列をきめ、コンピューター検索をおこなった結果、48.7kD分子は原虫のエノラーゼであることが判明した。すなわち感染をうけて臨床的に発症している患者は特異的にマラリア原虫の持つ解糖系酵素エノラーゼに結合する抗体を産生していることが解明されたわけである。エノラーゼ全体は合成が不可能であるので立体構造モデルを作製しそのモデルから推測される抗原活性部分を合成することにし3部分が合成された。その内の一つであるHelix 7と命名した16アミノ酸を順次結合させてえられた合成分子を用意し、流行地の重症患者、中等度患者、軽症患者および非感染コントロール群から得た血清との反応を試みた。その結果、重症群がHelix 7に対するもっとも高い抗体価が重症群においてみられ、中等度群、軽症群の順に抗体価は低下した。この結果は、Helix 7は流行地患者の中で熱帯熱マラリア感染に対して抵抗力の少ないグループを特定する上に有効な抗原であることを意味している。(2) 病態疫学解明の基礎的研究 マラリア原虫の毒性とヒトの免疫力が相俟ってマラリアの病態を作り出している。マラリア原虫の毒性に関してマウスのモデルにより、ヒポキサンチンアミノトランスフェラーゼの発現が抑制された原虫が、弱毒化原虫であることを示唆する知見がみいだされた。さらに、マラリア原虫のもつ熱ショック蛋白、HSP90の発現がマラリア原虫の毒性の強さをきめるらしいこと、毒性の高い原虫は、宿主のマクロファージのHPS65の発現をおさえることにより、宿主の攻撃をかわしていることなどを示す実験結果もえられた。ヒトの免疫に関してはタイで集めたマラリア患者の血液を使い、補体リセプター1の発現量を規定する多型性遺伝子型頻度と重症化との関係をしらべたところ、免疫複合体処理能力の低下が重症化につながることを示唆する知見がえられた。また抗体の反応がTh1型からTh2型にきりかえられることも重症化をもたらすことが考えられた。(3) ヒト・マラリアの新しい実験動物に関する研究 NOD
-SCIDマウスにはNK細胞がほとんど除去されていることがみいだされたので、ヒトの骨髄をNOD-SCIDマウスに移植し、ヒト造血系の再構築に成功した。ヒトの赤血球を選択的に分化させるために赤血球分化関与遺伝子をヒト骨髄細胞内へ遺伝子導入する研究をすすめ、レトロウイルスベクターにより遺伝子導入を試み、成功をみた。ヒトの骨髄同様にヒトの骨、造血細胞、血管がマウスの中で新生している所見もえられた。今後ヒト赤血球造血を特異的に高効率化させることを計画している。(4) 薬剤耐性熱帯熱マラリアの耐性除去に関する研究 今年度は13種類のピペラジン誘導体を合成し、耐性除去作用について検討した。その結果ジベンゾスベロイル-ピペラジン誘導体のなかに有望な化合物が見出された。現在特許申請中である。
結果と考察
考察 (1) 熱帯熱マラリア原虫エノラーゼの一部であるHelix-7を使えば、流行地において重症化する住民群を特定する調査を可能にする血清反応が実施できる可能性がでてきた。 Helix-7以外に合成した残りの2つのポリペプチドについて検討を加え、最も優れた特異性をもつ物質をえらび実用化を目指す一方、これらのポリペプチドの中に防御免疫を誘発する分子があるかどうかについてもin vitro の系で調べる予定である。平成9年度の成果を生かし、化学構造修飾をさらに分子量を小さくしても抗原性が保持されるか否かについても検討する。(2) 弱毒化したPlasmodium berghei XAT原虫は、ヒポキサンチンアミノトランスフェラーゼの発現が抑制されていることを示す結果が得られたので、この知見を放射線照射して弱毒化させた熱帯熱マラリア原虫においても確かめる予定である。弱毒化の判定は、原虫の増殖曲線とヨザルを感染させることによって行う。(3) タイのマラリア患者から得た血液により得られた知見については、動物実験を組んで、より詳細に検討する必要がある。少数のヨザルを感染させて経時的に血液をえて検討を加える予定である。(4) 新しい実験モデルであるNOD-SCIDマウスについてはヒト赤血球を高効率に産生するための遺伝子導入実験が成功したなら、ただちに現在までに凍結させてある患者からの分離株を使い熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫とも感染実験を試みる予定である。
結論
本研究班においては、特許申請中の結果が3件あることから示されるように、着実に実用化の方向に向かって成果がでている。研究実績の中には論文報告で終了するものと、なお続けて進行させるべき実績とがある。平成11年度の研究においては、少なくとも合成抗原に関しては具体的に実用化できる方向にさらに収斂させることが期待できる。

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