ポスト国連開発ミレニアム開発目標における熱帯アフリカマラリア根絶可能性に関する研究

文献情報

文献番号
201503001A
報告書区分
総括
研究課題名
ポスト国連開発ミレニアム開発目標における熱帯アフリカマラリア根絶可能性に関する研究
課題番号
H25-地球規模-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
金子 明(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川 昇(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 平山 謙二(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 脇村 孝平(大阪市立大学 大学院経済学研究科)
  • 五十棲 理恵(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球規模マラリア根絶は、今世紀人類が対峙するGlobal Health上の優先課題である。本研究はポストMDGsにおけるこの課題に対して日中瑞および流行国ケニアの研究者が共同で挑戦する研究ベンチャーである。熱帯アフリカ高度マラリア流行地域を対象とすることが本研究の最大の学術的挑戦である。島嶼は対策干渉研究に対して自然の実験系を提供する。研究代表者は南太平洋ヴァヌアツ島嶼において過去20年間、島嶼マラリア撲滅維持モデルを構築してきた[Kaneko et al. Lancet 2000]。それをビクトリア湖島嶼に応用することが第2の特徴である。また集団治療によるマラリア撲滅を試みることが第3の特徴である。研究島嶼においてマラリアを短期集約的に撲滅し維持しうることを示せば、熱帯アフリカ初の撲滅成功例となり国際的インパクトが期待される。熱帯アフリカにおけるマラリア撲滅戦略を国際社会へ提示し、地球規模マラリア根絶に向けたわが国のイニシアチブに対する基盤とする。
研究方法
平成27度は、KNH/UON-ERCに提出したMDA実施のための研究計画に対してprimaquineの安全性等多くのコメントが寄せられたが、改訂した研究計画を再提出し承認された。承認を受けて、ビクトリア湖Ngodhe島全住民(700人)を対象にアルテミシニンとプリマキンによる集団治療をおよび薬剤処理蚊帳配布によりマラリア撲滅が達成できるかをみるfeasibility studyを今年度中に開始した。さらにビクトリア湖島嶼地域における島嶼から湖岸内陸部へのMDA実施地域拡大戦略策定のための日中瑞ケニアの研究協力体制構築を目指した。
結果と考察
2016年1月25日からビクトリア湖Ngodhe島の全住民を対象に投薬計画による集団投薬(MDA)を開始した。Round 1に先立ち、HDSSから譲り受けたデータにより世帯および住人登録を行った。実際には登録漏れが散見され、MDA実施中にそれらを補完する形になった。Ngodhe島を4地域にわけ、臨床検査技師、看護士、village health workerそれに学生よりなるMDAチームをそれぞれの地域に配置した。投薬と並行し、Day 1 (初回投薬開始直前), Day 3(初回投薬後48時間), Day8で採血、ギムザ法、濾紙採血、Hb値測定に回した。村長、教会、Beach Management Unit、clan elderらの協力を得て、各チームが朝、昼、晩の家庭訪問により、可能な限り多くの住民への投薬を目指した。小学校では、空腹を避けるために投薬直前、全学童へのポーリッジ給食を実施した。また連日、副作用の有無について質問し、その結果を記載した。
 Ngodhe島において、Round 1は6日間かけて行われ、計149世帯、579人を登録した。うち84名はRound 1期間中、島外に滞在していた。それらを除いた495名中1名は所在が確認できなかった。また35名は数回の話し合いにもかかわらず服薬を拒否した。残りの459名がMDAに参加し、うち442名は2日間の投薬を完遂した(89.5%)。なおすべての投薬はDOT方式で行われた。副作用としては、dizziness (6), headache (5), abdominal symptoms (3), nausea (3), weakness (2)などが報告されたが、重篤なものはなかった。また以下の表に示すようにG6PDの状態とHbの変動の間に有意な相関は見られなかった。
結論
このマラリア撲滅パッケージ実施時の問題点として以下の課題が残されている。
―住民参加をいかに確実にし、MDAの十分なコンプライアンス(90%以上)を確保するか?
―投与薬剤の副作用をいかに監視し、さらに安全性を向上させるか?
―住民の移動による原虫再移入をいかに監視し、マラリア再燃を防ぐか?
―住民主導の持続的な媒介蚊対策をいかに確実にし、残存媒介蚊を抑止できるか?
―顕微鏡検出限界以下の感染をいかに末端地域保健医療施設で診断するか?
―原虫薬剤耐性をいかに監視し出現、拡散を防ぐか?
今後、これらの課題をクリアし、ケニアが新たに掲げる“Malaria free Kenya”という国家目標に対し具体的な戦略を提示していきたい。

公開日・更新日

公開日
2016-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201503001B
報告書区分
総合
研究課題名
ポスト国連開発ミレニアム開発目標における熱帯アフリカマラリア根絶可能性に関する研究
課題番号
H25-地球規模-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
金子 明(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川 昇(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 平山 謙二(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 脇村 孝平(大阪市立大学 大学院経済学研究科)
  • 五十棲 理恵(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球規模マラリア根絶は、今世紀人類が対峙するGlobal Health上の優先課題である。国連開発ミレニアム目標(MDGs)では患者および死者数を2015年までに75%減少させることが掲げられてきた。今般の対策法強化により感染者数の減少が流行地各地で報告されてきており、アジア・太平洋では究極の目標であるマラリア撲滅が見えてきた。しかし熱帯アフリカにおけるマラリア撲滅は困難かつ重要な踏み石と考えられ、そのロードマップは未だ見えていない。本研究はポストMDGsにおけるこの課題に対して日中瑞および流行国ケニアの研究者が共同で挑戦する研究ベンチャーである。ビクトリア湖高度マラリア流行島嶼をモデルとしてマラリア撲滅に挑戦するものである。島嶼は対策干渉研究に対して自然の実験系を提供する。研究代表者は南太平洋ヴァヌアツ島嶼において過去20年間、島嶼マラリア撲滅維持モデルを構築してきた[Kaneko et al. Lancet 2000]。それをビクトリア湖島嶼に応用することが第2の特徴である。また集団治療によるマラリア撲滅を試みることが第3の特徴である。研究島嶼においてマラリアを短期集約的に撲滅し維持しうることを示せば、熱帯アフリカ初の撲滅成功例となり国際的インパクトが期待される。熱帯アフリカにおけるマラリア撲滅戦略を国際社会へ提示し、地球規模マラリア根絶に向けたわが国のイニシアチブに対する基盤とする。
研究方法
KNH/UON-ERCに提出したMDA実施のための研究計画に対してprimaquineの安全性等多くのコメントが寄せられたが、改訂した研究計画を再提出し承認された。承認を受けて、Ngodhe島全住民(700人)を対象にアルテミシニンとプリマキンによる集団治療および薬剤処理蚊帳配布によりマラリア撲滅が達成できるかをみるfeasibility studyを今年度中に開始した。特に以下の課題について検討を行った。
マラリア感染率モニタリング
ミトコンドリアDNAを標的とする4種のヒトマラリア原虫のPCR鑑別
Acridine Orange染色法の改良によるマラリア原虫血症の高感度迅速診断法の開発
G6PD欠損症率モニタリング
G6PD欠損症遺伝子解析
熱帯熱マラリア原虫薬剤耐性に関連する縦断的・網羅的遺伝子学的解析
オコデ島におけるマラリア撲滅パッケージ導入
結果と考察
我々は、2012年以来、6回にわたって対象島嶼・地域においてcross sectionalマラリア調査を行ってきた。原虫陽性率は11-15歳で最高値を示し、高年齢群ほど低い傾向にある。また感染の90%は無症候性でかつ顕微鏡検出限界以下であった。これらの感染者は保健医療施設を受診することはなく、全年齢、全住民を対象としたMDAの必要性を裏付けるものである。総じて原虫陽性率は内陸部で最も高く、小島では低く、大きな島ではそれらの中間であった。上記の結果を背景に、2016年1月25日からビクトリア湖Ngodhe島の全住民を対象に集団投薬(MDA)を開始した。Ngodhe島において、Round 1は6日間かけて行われ、計149世帯、579人を登録した。うち84名はRound 1期間中、島外に滞在していた。それらを除いた495名中1名は所在が確認できなかった。また35名は数回の話し合いにもかかわらず服薬を拒否した。残りの459名がMDAに参加し、うち442名は2日間の投薬を完遂した(89.5%)。なおすべての投薬はDOT方式で行われた。副作用としては、重篤なものはなかった。またにG6PDの状態とHbの変動の間に有意な相関は見られなかった。ギムザ法によるマラリア原虫検査の結果ではMDA前の原虫陽性率3%がDay 8において0%になった。島外からの原虫持ち込みを阻止するため、上陸点となるビーactive surveillanceを構築すべくBMUと話し合いがもたれている。 Ngodhe島の対照として、Kibuogi島においてもマラリア調査が行われた。また両島において、ITNが各家屋に補てんされた。さらに全家屋に天井式蚊帳を取り付ける計画がある。
結論
ビクトリア湖地域において、小島におけるパイロット研究から段階的に、大きな島、さらに本土の一部へとマラリア撲滅パッケージを進める方法論が確立された。今後、対象地域を管轄するホマベイ郡の中核病院にラボ機能を備えたマラリア撲滅センター Center for Malaria Elimination(CME)を立ち上げ、撲滅戦略の有効性を検証し、導入に伴う様々な問題に対処しながら戦略の改良を行っていきたい。またCMEに駐在する若手日本人医師を確保し、人材育成の拠点ともしたい。これらの成果をケニアで開催される第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)などの場を通じてアピールしたい。

公開日・更新日

公開日
2016-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201503001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
熱帯アフリカにおけるマラリア撲滅戦略開発の道筋を提示した。集団投薬と媒介蚊対策を住民主導のもとに導入していくものである。成果はEmerg Infect Dis等の国際誌に掲載される。
臨床的観点からの成果
ビクトリア湖島嶼地域において、無症候性、顕微鏡閾値以下マラリア感染を定量的に示すとともに、これらのマラリア撲滅プログラムにおける重要性を明らかにした。この成果により集団投薬戦略の重要性が定まった。
ガイドライン等の開発
ビクトリア湖島嶼地域における成果は、今後ケニア全体でのマラリア撲滅戦略ガイドライン開発に結び付けていく予定である。
その他行政的観点からの成果
成果は、厚生労働行政特に国際保健分野での政策的方向性に影響を与えるものであり、予算要求策定の基礎資料としての活用などが考えられる。
その他のインパクト
ビクトリア湖島嶼マラリア撲滅プロジェクトは、共同通信社により配信され、北海道新聞、河北新報等、13紙に掲載された。またオコデ島におけるパイロット研究はスエーデンを代表するテレビ局SVTの科学番組で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe N, Kaneko A, Shearer NBC, et al.
A prescription for sustaining community engagement in malaria elimination on Aneityum Island, Vanuatu: an application of Health Empowerment Theory.
Malaria Journal , 14 , 291-  (2015)
10.1186/s12936-015-0779-z.
原著論文2
Isozumi R, Logedi J, Kaneko A, et al.
Novel mutations in K13 propeller gene of artemisinin-resistant Plasmodium falciparum.
Emerging Infectious Diseases , 21 (3) , 490-492  (2015)
10.3201/eid2103.140898.
原著論文3
Chan CW, Tanabe K, Kaneko A, et al.
Plasmodium vivax and Plasmodium falciparum at the Crossroads of Exchange among Islands in Vanuatu: Implications for Malaria Elimination Strategies.
PLos One , 10 (3) , e0119475-  (2015)
10.1371/journal.pone.0119475.
原著論文4
Isozumi R, Kaneko A, Chan CW, et al.
Improved detection of malaria cases in island settings of Vanuatu and Kenya by PCR that targets the Plasmodium mitochondrial cytochrome c oxidase III (cox3) gene.
Parasitology international , 64 (3) , 304-308  (2015)
10.1016/j.parint.2014.09.006.
原著論文5
Watanabe N, Kaneko A, Larson PS et al.
Determinants of the use of insecticide-treated bed nets on islands of pre- and post-malaria elimination: an application of the health belief model in Vanuatu.
Malaria Journal , 13 , 441-  (2014)
10.1186/1475-2875-13-441.
原著論文6
Kaneko A,Isozumi R, Drakeley C, et al.
Characteristic age distribution of Plasmodium vivax infections after malaria elimination on Aneityum Island, Vanuatu.
Infection and Immunity , 82 (1) , 243-252  (2014)
10.1128/IAI.00931-13.
原著論文7
Jovel IT, Kaneko A,Ursing J, et al.
Single nucleotide polymorphisms in Plasmodium falciparum V type H+ pyrophosphatase gene (pfvp2) and their associations with pfcrt and pfmdr1 polymorphisms.
Infection, Genetics and Evolution , 24 , 111-115  (2014)
10.1016/j.meegid.2014.03.004.
原著論文8
Honjo K, Kaneko A, Minakawa N et al.
When they don't bite, we smell money: understanding malaria bednet misuse.
Parasitology , 140 (5) , 580-586  (2013)
10.1017/S0031182012002077.
原著論文9
Cavaco I, Hombhanje FW, Kaneko A, et al.
Frequency of the functionally relevant aryl hydrocarbon receptor repressor (AhRR) Pro185Ala SNP in Papua New Guinea.
Drug Metab Pharmacokinet , 28 , 519-521  (2013)
原著論文10
Idris ZM, Chan CW, Mohammed M, Kalkoa M, Taleo G, Junker K, Arcà B, Drakeley C, Kaneko A.
Serological measures to access the efficacy of malaria control programme on Ambae Island, Vanuatu.
Parasit Vectors , 10 (1) , 204-215  (2017)
10.1186/s13071-017-2139-z.

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
2019-07-02

収支報告書

文献番号
201503001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,240,000円
(2)補助金確定額
6,240,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,415,445円
人件費・謝金 1,229,335円
旅費 141,060円
その他 14,160円
間接経費 1,440,000円
合計 6,240,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-05-24
更新日
-