文献情報
文献番号
201502011A
報告書区分
総括
研究課題名
健康格差対策に必要な公的統計のあり方に関する研究
課題番号
H27-統計-若手-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 ゆり(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課)
研究分担者(所属機関)
- 中谷 友樹(立命館大学文学部)
- 近藤 尚己(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国民皆保険の体制下にあるわが国においても、収入や職業などの社会経済状況により、各種疾患の死亡率や生存率をはじめとした健康指標において、格差が生じていることが報告されている。このように健康格差の問題が顕在化する中、第2次健康日本21の計画においては、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が目標に掲げられたが、我が国の公的統計は健康格差のモニタリング体制は十分に整っていない。
健康格差対策を行うためには公的統計を用いた定期的な健康格差指標のモニタリングが必要である。現状で利用可能なデータを用いた健康格差指標の分析を通して、現行の公的統計での限界や課題を抽出し、健康格差を測るために必要な公的統計のあり方について提言する。
以下の3つの課題について報告する。
1.空間疫学的手法を用いた全死亡における社会経済格差
2.主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
3.がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
健康格差対策を行うためには公的統計を用いた定期的な健康格差指標のモニタリングが必要である。現状で利用可能なデータを用いた健康格差指標の分析を通して、現行の公的統計での限界や課題を抽出し、健康格差を測るために必要な公的統計のあり方について提言する。
以下の3つの課題について報告する。
1.空間疫学的手法を用いた全死亡における社会経済格差
2.主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
3.がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
研究方法
1.市区町村別社会経済指標(Areal Deprivation Index: ADI)を用いた全死亡および死因別死亡率の格差の分析を行った。ADIを各地域の人口で重み付けし、5分位に分けた(第1分位が最も剥奪度が低く裕福な地域、第5分位が最も剥奪度が高い地域)。これを人口動態データに付与し、ADI分位群別の全死亡および主要死因別年齢調整死亡率(0-84歳)の分析を行った。また死亡率の社会経済指標による格差の指標としては絶対指標としてSlope Index of Inequality (SII)および相対指標としてRelative Index of Inequality (RII)を用いた。
2.主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差を検討する上で、人口動態特殊統計は死亡時の職業・産業である点が検討課題である。平成27年度は正確な職業・産業別死亡率の分析を行うために、諸外国で適用しているProbabilistic Record Linkageが我が国の国勢調査データと人口動態統計データのリンケージに適用可能かどうか調べた。
3.大阪府がん登録資料より、1993-2004年に診断された胃・大腸・肺・乳房・子宮頸・前立腺がんの患者データを用い、小地域(町字単位)ADIを人口重み付き5分位でグループ化し、がん進行度別罹患率の社会経済格差についての時系列分析を行った。
2.主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差を検討する上で、人口動態特殊統計は死亡時の職業・産業である点が検討課題である。平成27年度は正確な職業・産業別死亡率の分析を行うために、諸外国で適用しているProbabilistic Record Linkageが我が国の国勢調査データと人口動態統計データのリンケージに適用可能かどうか調べた。
3.大阪府がん登録資料より、1993-2004年に診断された胃・大腸・肺・乳房・子宮頸・前立腺がんの患者データを用い、小地域(町字単位)ADIを人口重み付き5分位でグループ化し、がん進行度別罹患率の社会経済格差についての時系列分析を行った。
結果と考察
1.1995-2014年の人口動態統計を用いて、市区町村別ADI5分位別に0-84歳の年齢調整全死亡率の推移を5年ごとに示した。男女ともADIが高いほど(社会経済指標が低いほど)死亡率が高かった。全死亡における年齢調整死亡率の絶対格差(SII)は男性では2000-04年で最大の人口10万対102.5であった。女性では、2010-14年におけるSIIが最大で30.2であり、男性よりも絶対格差は小さかった。相対的指標RIIでみると、男女ともやや拡大傾向にあった。絶対指標において、女性より男性の死亡率格差が大きいのは、男性の平均余命に比べ女性の平均余命が長いことが影響していると考えられるが、相対指標における違いについては、死因別の結果と合わせて検討する必要がある。女性の死亡率格差が拡大している点については、震災の影響を除去しても残るため、要因を調べる必要がある。
2.人口動態統計および国勢調査の二次利用データにおいて氏名や生年月日などの利用が困難であるため、Probabilistic Record Linkageによるリンケージデータの精度が低い可能性がある。将来的には、個人識別番号の整備により、各種公的統計のリンケージを公的機関が行い、個人識別可能な情報を削除した匿名化データを利用者に提供する仕組みなどを検討していく必要がある。
3.前立腺がん以外の全ての部位で、進行がんの罹患率はADIの高い地域ほど高かった。一方、早期がんの罹患率は、男性で前立腺、胃、大腸において、ADIの高い地域ほど罹患率が低かった。女性では子宮頸がんにおいて、ADIの高い地域の罹患率が高かった。進行度別がん罹患率の社会経済格差において、特に進行がんの罹患率の格差には、喫煙やハイリスクな性行動など、がん発症のリスクとなりうる行動の違いやがん検診の受診率の違いなどが影響していると考えられる。
2.人口動態統計および国勢調査の二次利用データにおいて氏名や生年月日などの利用が困難であるため、Probabilistic Record Linkageによるリンケージデータの精度が低い可能性がある。将来的には、個人識別番号の整備により、各種公的統計のリンケージを公的機関が行い、個人識別可能な情報を削除した匿名化データを利用者に提供する仕組みなどを検討していく必要がある。
3.前立腺がん以外の全ての部位で、進行がんの罹患率はADIの高い地域ほど高かった。一方、早期がんの罹患率は、男性で前立腺、胃、大腸において、ADIの高い地域ほど罹患率が低かった。女性では子宮頸がんにおいて、ADIの高い地域の罹患率が高かった。進行度別がん罹患率の社会経済格差において、特に進行がんの罹患率の格差には、喫煙やハイリスクな性行動など、がん発症のリスクとなりうる行動の違いやがん検診の受診率の違いなどが影響していると考えられる。
結論
人口動態統計および地域がん登録資料を用いて、現状で分析可能な全死亡・主要死因別死亡率およびがん進行度別罹患率における社会経済格差のモニタリングを行った。格差の生じる原因に関しては、死因ごとや年齢区分(若年・中年・高齢者など)に時系列の詳細分析を行うことで、全死亡における社会経済格差のトレンドを明らかにし、関連する要因を探索し、健康格差対策に役立てたい。
公開日・更新日
公開日
2016-06-15
更新日
-