文献情報
文献番号
201501017A
報告書区分
総括
研究課題名
地方公共団体が行う子ども虐待事例の効果的な検証に関する研究
課題番号
H27-政策-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
奥山 眞紀子(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部)
研究分担者(所属機関)
- 相澤 仁(国立武蔵野学院)
- 内ヶ崎 西作(日本大学医学部)
- 中板 育美(公益社団法人日本看護協会)
- 西澤 哲(山梨県立大学人間福祉学部臨床心理学)
- 溝口 史剛(前橋赤十字病院)
- 宮本 信也(筑波大学附属学校教育局)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,478,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
子どもの虐待の増加が止まらず、死亡という痛ましい転機を取ってしまう事例も日々報道されている。厚生労働省では平成16年より重大事例検証を行い、その重要性が認められ、平成19年に改正された児童虐待の防止等に関する法律において、国のみならず、地方公共団体も重大事例検証を行うことが規定された。しかし、その方法や質は自治体によってバラバラである。子どもの死を無駄にせず、検証により重要な施策や虐待対応の方法改善を行うために、より効果的な検証のあり方をガイドライン等で示すことが求められている。本研究においては自治体における検証の実態を明らかにし、必要で有効な手引きを作成すること、および現在の検証システムの限界を提示して、より効果的な検証システムについて提案することを目的とする。
研究方法
本年度は現状の把握を行った。検証の手引きに向けた研究としては以下のことを行った。①委員経験者とのグループ討議による問題点の抽出、②これまでの国の検証報告書の分析による問題点の抽出、③都道府県政令市69自治体への検証の実態に関する質問紙調査、④検証報告をもとにした、各専門家の立場からの検証に必要な情報の提示、⑤地方公共団体の検証報告書23件を保健情報の観点から分析、を行った。また、より効果的な検証に向けて、①962医療機関への質問紙調査にて虐待の可能性のある死亡事例について分析し、②89カ所の司法解剖機関の検証に関する意識調査を行い、③警察情報にアクセスできた地域の医師へのインタビューを行ってその効用について検討し、④分担研究者が行った裁判における加害者の心理鑑定を分析して、加害者から得るべき情報をまとめた。
結果と考察
手引き作りを目的とした現状把握としては、検証委員経験者のディスカッションを通して現状での検証における問題点として、①検証関係者の意識の問題、②検証する資料・情報の問題、③警察情報へのアクセスの問題、④心理的背景の把握の問題、⑤分析のあり方、⑥提言のまとめ方、に関する問題が抽出された。自治体への調査は回収率81.2%が得られ、一次分析では検証率は発生件数と関係があり、委員の求めに応じた情報収集がなされていることなどが明らかになったが詳細な分析は来年度に行われる予定である。地方公共団体の検証に関する国の検証結果を分析し、死亡を防ぐ観点と虐待を防ぐ観点に混乱があることが明らかとなった。死亡事例検証報告書23例の分析から、母子保健の課題と改善点リストを作成し、提供が不十分な母子保健情報を明らかにした。更に手引きを作成するに当たって、それぞれの専門分野で必要と考えられる情報リストを作成した。手引き作成に当たっての分類としては、年齢、無理心中か否か、DV関与の有無、通告の有無などによる分類が考えられ、それによるデータベース構築も必要と考えられた。
さらに効果的な検証への提言を行う基礎としての実態把握として、医療機関962施設への調査では、回収率38.6%で、5年間に虐待が疑われた事例は156例あり、半数以上が虐待の可能性が高いと考えられていた。しかし、その多くは虐待死亡事例として検証されておらず、現在の虐待死の検証の限界が示された。全ての子どもの死の検証(Child Death Review;CDR)が必要と考えられた。司法解剖施設89カ所への調査では、回収率44.9%で、虐待の検証にも虐待対応にも法医学的所見が活用されていない実態が明らかになった。検証会議への参加や資料提出への理解は高いものの、嘱託機関の許可が必要という壁が大きいことも明らかとなった。加害者面接の必要性に関し、裁判事例の検証から、面接によって得るべき情報として、①加害者及びその配偶者の成育歴、②加害者及び配偶者の幼少期から思春期にかけての虐待やネグレクトの既往歴と、依存・愛情欲求の充足の程度、③加害者とその配偶者による家族構成の経過、④被害を受けた子どもやその同胞の妊娠に至る経過、⑤妊娠期の母親及び父親の関係性と胎児に対する認知・感情、⑥妊婦健診の受診状況(可能であれば、母子健康手帳)、⑦妊娠の計画性の有無及び妊娠に対する認知及び感情、⑧子どもの誕生に対する認知・感情、⑨子どもに対する虐待・ネグレクトの発生から以降の経過、⑩子どもの死亡に対する認知・感情とその後の行動、を挙げることができた。
さらに効果的な検証への提言を行う基礎としての実態把握として、医療機関962施設への調査では、回収率38.6%で、5年間に虐待が疑われた事例は156例あり、半数以上が虐待の可能性が高いと考えられていた。しかし、その多くは虐待死亡事例として検証されておらず、現在の虐待死の検証の限界が示された。全ての子どもの死の検証(Child Death Review;CDR)が必要と考えられた。司法解剖施設89カ所への調査では、回収率44.9%で、虐待の検証にも虐待対応にも法医学的所見が活用されていない実態が明らかになった。検証会議への参加や資料提出への理解は高いものの、嘱託機関の許可が必要という壁が大きいことも明らかとなった。加害者面接の必要性に関し、裁判事例の検証から、面接によって得るべき情報として、①加害者及びその配偶者の成育歴、②加害者及び配偶者の幼少期から思春期にかけての虐待やネグレクトの既往歴と、依存・愛情欲求の充足の程度、③加害者とその配偶者による家族構成の経過、④被害を受けた子どもやその同胞の妊娠に至る経過、⑤妊娠期の母親及び父親の関係性と胎児に対する認知・感情、⑥妊婦健診の受診状況(可能であれば、母子健康手帳)、⑦妊娠の計画性の有無及び妊娠に対する認知及び感情、⑧子どもの誕生に対する認知・感情、⑨子どもに対する虐待・ネグレクトの発生から以降の経過、⑩子どもの死亡に対する認知・感情とその後の行動、を挙げることができた。
結論
研究計画通り、本年度は現状を把握する基礎的な研究が行えた。来年度は引き続き必要な分析を行うとともに、その結果を踏まえて、専門的な視点を加えて、ガイドラインの基礎を作成していくことができる。また、より良い検証システムに発展させるための基礎調査が行われ、現状の検証のあり方では検証に至らない虐待事例があること、警察情報が検証に有用であり、解剖情報も加えるべきであること、加害者への聞き取りも有用であることが明らかとなった。
公開日・更新日
公開日
2016-11-11
更新日
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