性的虐待事案に係る児童とその保護者への支援のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201501010A
報告書区分
総括
研究課題名
性的虐待事案に係る児童とその保護者への支援のあり方に関する研究
課題番号
H26-政策-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 正子(大阪教育大学 教育学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 恒雄(愛育研究所)
  • 八木 修司(関西福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 研究最終年度である平成27年度は、3つの研究分担班において、より実践的な対応と継続した治療的な支援の在り方に関するガイドラインやガイドブックを作成することを目的とする。
研究方法
分担研究1では、平成26年度の実態調査の更なる分析と、複数の一時保護所スタッフや関連機関との協議や検討を行い、ガイドラインを作成する。
分担研究2では、平成26年度調査から抽出した児童相談所や情緒障害児短期治療施設への聞き取り調査を実施する。ついで2年間の調査の分析や討議、欧米の文献研究を行い、ガイドブックを作成する。
分担研究3では、更に詳細な実態を把握するために、再度、全国の情緒障害児短期治療施設への質問紙調査と情緒障害児短期治療施設設への聞き取り調査を行う。ついでこれらの調査の分析や討議を行い、ガイドラインを作成する。。、
結果と考察
分担研究1では、一時保護直後からの被害児へのケアとしての対応開始が重要であること、ことに職権保護による本人の同意がない事例、或いは被害事実への直面化による動揺が激しい被害児童への支援は、一貫して意識される必要があり、それはチームとしての専門性が必要であることが確認された。
分担研究2では、6か所の児童相談所の聞き取り調査から、ア)初期対応時点から非加害保護者を支援対象として支援している状況がより明らかになった。しかしイ)全体的な傾向として非加害保護者支援は担当者の経験則で行われている状況もあり、事例数が少ない自治体ではスキルの伝承が困難な実態も示された。さらにウ)性的虐待の背景にDV事案がある事の認識はあるが、DV事案における非加害保護者支援に関する児童相談所職員の理解や経験は乏しく、またDV相談機関との実効性のある連携に関しても課題が多いことも明らかになった。
分担研究3では、42施設中、38施設(回収率90.5%)から回答を得た。その内、被性的虐待児および家庭内性的暴力被害児の該当のない施設が5施設、回答辞退が1施設あり、事例回答は32施設であった。回答事例は162事例で被性的虐待児および家庭内性的暴力被害児に該当しない事例が9事例であった。したがって、有効事例153事例について検討を加えた。その結果、家庭内性暴力被害を受けて入所している児童は、性暴力被害のみならず複合的な虐待経験のある児童が多いことが明らかになった。子どもへの支援内容はトラウマ治療のみならず、アタッチメントや生活全般を視野に入れた支援が多く取り組まれており、また精神科医療の必要性のある児童も少なくなく、それら総合的なケアにより一定回復している状況が把握された。
結論
一時保護所における入所児童の処遇には性暴力被害児に限らず、初動の段階から高度の治療的配慮を要しており、その専門性の維持・向上が必須である。しかし全国各地の一時保護の体制・実績、個別ケアの体制には相当のバラつきが認められ、全体としての統一的な課題整理が困難な実態がある。故に都市部で性暴力被害児の処遇経験数が多い児童相談所の対応手順をモデルとして提示し、経験数がまだ少ない各地での実務における活用、さらには各地の実状に適した今後の作り込みに資する基本的な枠組を提供することにより、全国児童相談所の一時保護における対応の専門性の拡張・充実に貢献することが重要と考えられた。
非加害保護者支援に関しては、その必要性は多くの児童相談所で認識しているが、「非加害保護者」の概念や支援に関する認識の統一はまだ十分ではないと考えられた。また現実的な取り組み状況に関する現状は多様で、機関連携の在り方にも課題が多いことが明らかになった。これらの現状から、非加害保護者・家族支援に関しては、現時点ではガイドブックの有用性が高いと考えられた。
情短施設には、治療施設としての歴史と研究がある。しかしその中でも、家庭内性暴力被害児童への治療的支援の実際に関する調査や指針は非常に少ない状況があり、今回の調査でその実態を把握できたことは意味深いと考える。それらを踏まえて生活支援・心理ケア・ソーシャルワークの観点から作成したガイドラインは、全国で550か所を超える児童養護施設などにも汎用されると考える。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201501010B
報告書区分
総合
研究課題名
性的虐待事案に係る児童とその保護者への支援のあり方に関する研究
課題番号
H26-政策-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 正子(大阪教育大学 教育学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 恒雄(愛育研究所 )
  • 八木 修司(関西福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成20~22年度の厚生労働科学研究「子どもへの性的虐待の予防・対応・ケアに関する研究(研究代表者柳澤正義)」の研究成果及びその実践を経て、さらに明らかになった「性的虐待・家庭内性暴力被害を受けた子どもとその保護者への支援」の課題に焦点をあて、より実践的な対応と継続した治療的な支援の在り方を開発することを目的とした。

研究方法
研究は3つの分担研究班を構成し2年計画で実施した。初年度は全国の児童相談所一時保護所・児童相談所・情緒障害児短期治療施設への質問紙調査を行い、各現場における実態把握と課題整理を行った。研究2年目は、1年目の調査結果を踏まえて、複数の児童相談所への聞き取り調査や、全国の情緒障害児短期治療施設への詳細な質問紙調査を実施した。また調査結果の総合的分析や文献研究をもとにガイドラインやガイドブックを作成した。
結果と考察
1.平成26年度に実施した全国児童相談所質問紙調査で得られた児童相談所一時保護所の実態及び主たる課題についてさらに検討を進めた結果、一時保護直後の初期段階からの被害児へのケアとしての対応開始が重要であることが明らかになった。またそれらの作業はひとりの担当者の専門性によるものではあり得ず、組織、チームとしての専門性が問われていた。これらの検討を通じて、「児童相談所一時保護所における性暴力被害児についての初期対応ガイドライン2015年(試行版)」を作成した。
2.平成26年度の非加害保護者支援に関する全国児童相談所質問紙調査の結果から、性的虐待事案における非加害保護者支援ガイドラインを作成している児童相談所は少ないが、大部分の児童相談所がその必要性を認識していた。また非加害保護者をキーパーソンとして位置付けて支援している状況が明らかになったが、全体的な傾向として非加害保護者支援は担当者の経験則で行われている状況があることや、事例数が少ない自治体においてはスキルの伝承が困難という実態も示された。加えて児童相談所においては、非加害保護者の「子どもの安全を守りケアする」親機能をエンパワーする取り組みを行っているが取り扱いが難しいテーマや、DVが背景にある事案への対応などの課題も把握された。平成26・27年度には6か所の児童相談所への聞き取り調査を行い、支援の現状と課題、工夫等を把握した。それらを踏まえて「性的虐待を受けた子どもを支える非加害保護者への支援(提案型ガイドブック2015年)」を作成した。
3.平成26年度に実施した全国情緒障害児短期治療施設への質問紙調査からは、全入所児童1,080名の内、被虐待児童は730名で、そのうち児童福祉法の定義に沿う被性的虐待は43名、それ以外の兄やその他の家族などが加害者である児童は28名と、家庭内性暴力被害児は合計71名(全入所児童の6.6%)であった。また平成27年度の調査からは家庭内性暴力被害で入所している児童は、性暴力被害のみならず複合的な虐待体験のある児童が多いことが明らかになった。したがって子どもへの支援内容はトラウマ治療のみならず、アタッチメントや生活全般を視野に入れた支援が多く取り組まれており、また精神科医療の必要性のある児童も少なくなく、それら総合的なケアにより一定回復している状況が把握された。それらを踏まえて「情緒障害児短期治療施設版 性的虐待・家庭内性暴力被害児の生活支援、心理ケア、医療ケアのガイドライン(試行)」を作成した。
結論
1.一時保護所における処遇は性暴力被害児に限らず、初動の段階から高度の治療的配慮を要しており、その専門性の維持・向上が必須である。しかし全国各地の一時保護の体制・実績、個別ケアの体制にはバラつきが認められ、全体としての統一的な課題整理が困難な実態がある。故に都市部で性暴力被害児の処遇経験数が多い児童相談所の対応手順をモデルとして基本的な枠組をガイドラインとして提供することにより、全国児童相談所の一時保護における対応の専門性の拡張・充実に貢献することが重要と考えられた。2.大部分の児童相談所が非加害保護者支援の必要性を認識しているが、「非加害保護者」の概念や支援に関する認識の統一はまだ十分ではない。また件数が少ない児童相談所においてはスキルの伝承が困難な状況があり、非加害保護者支援に関しては現時点ではガイドブックの有用性が高いと考えられた。3.情短施設には治療施設としての歴史と研究があるが、家庭内性暴力被害児童への治療的支援の実際に関する調査や指針は少ない状況があり、今回の調査でその実態を把握できたことは意味深い。それらを踏まえて生活支援・心理/医療ケア・ソーシャルワークの観点から作成したガイドラインは、児童養護施設などにも汎用されると考える。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201501010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、平成20~22年度厚生労働科学研究「子どもへの性的虐待の予防・対応・ケアに関する研究(研究代表者柳澤正義)」の研究成果の実践を経て、さらに明らかになった課題に焦点をあてた継続研究の性格を有している。第1に児童相談所一時保護所における性暴力被害児への対応の現状分析と対応手順の整理、第2に性暴力被害児の回復に重要な非加害保護者支援に関する概念の整理と支援の在り方の開発、第3に情緒障害児短期治療施設に入所した家庭内性暴力被害児童の実態と支援の現状を分析し、治療的支援の在り方を提案した
臨床的観点からの成果
一時保護所における入所児童の処遇は初動の段階から高度の治療的配慮を要し多様な職種のチーム連携による対応が基本であるが、処遇の難しさを指摘されてきた性暴力被害児への対応は全国的に多様である。その現状を踏まえて基本的な課題と手順を提示したことは意義がある。また児童相談所における非加害保護者支援の取り組みは始まったところであり、その概念の整理と支援の在り方を提示したことは意義深い。さらに情緒障害児短期治療施設における性暴力被害児童の実態を解明し、治療的支援や自立支援の在り方を提示したことは意義がある。
ガイドライン等の開発
次に示すガイドライン及びガイドブックを開発した。
1.「性的虐待・家庭内性暴力被害及びその疑い、あるいはその他の性暴力被害とその疑いのある児童の緊急保護(調査保護含む)における一時保護の対応ガイドライン試行版2016年版」
2.「性的虐待を受けた子どもを支える非加害保護者への支援(提案型ガイドブック2015年)」
3.「性的虐待・家庭内性暴力被害児の生活支援、心理ケア、医療ケアのガイドライン(試行)」
その他行政的観点からの成果
1.複数の児童相談所職員等を対象とした「性的虐待対応における初期調査面接および児童相談所における被害確認面接の研修」や性的虐待対応ガイドラインの継続研修の実施。
2.児童相談所・児童福祉施設・市町村児童福祉関連部局・教員等を対象とした「性的虐待を受けた子どもと家族への支援」をテーマとする複数回の研修の実施。
3.総合研究報告書を全国児童相談所、女性相談所、情緒障害児短期治療施設、自治体教育委員会生徒指導グループ等へ送付し、成果の公表及び啓発を行った。
その他のインパクト
日本子ども虐待防止学会新潟大会・おおさか大会におけるシンポジウムの開催や演題発表、日本トラウマテイックストレス学会シンポジウムでの発表,第57回日本児童青年精神医学会での発表、日本心理臨床学会第35回大会におけるWSの開催を行った。また、平成29年度は第38回宮城母性衛生学会学術集会で招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
18件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
28年度:第22回子ども虐待防止学会発表(応募シンポ2、一般演題3)29年度:第23回日本子ども虐待防止学会(一般演題1)。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
31件
平成29年度;明石書店から「性的虐待を受けた子どもの施設ケア」を出版。東北子どもの村主催人材育成研修会講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-08-03
更新日
2020-06-08

収支報告書

文献番号
201501010Z