養育支援を必要とする家庭に対する保健医療福祉の連携に関する実践的研究

文献情報

文献番号
201501004A
報告書区分
総括
研究課題名
養育支援を必要とする家庭に対する保健医療福祉の連携に関する実践的研究
課題番号
H25-政策-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中村 安秀(国立大学法人 大阪大学 大学院人間科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 渕向 透(県立大船渡病院)
  • 佐藤 拓代(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 浅川 恭行(浅川産婦人科)
  • 北野 尚美(和歌山県立医科大学医学部)
  • 山本真実(東洋英和女学院大学人間科学部)
  • 中板 育美(日本看護協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、児童虐待の発生予防の観点から、妊娠期・出産後早期から養育支援を必要とする家庭に対する支援に関して、特に妊娠期・出産後早期からの保健・医療・福祉の連携・協働の実態を明らかにすることにより、継続ケアの視点からライフステージ(妊娠・出産・育児)に沿った保健・医療・福祉の連携・協働の実践的な方法論を提示することにある。ワークショップという手法を駆使し、情報収集とともに新たな気づきを共有することが期待される。
研究方法
市町村レベルの報告書等の文献考察を踏まえ、厚生労働省虐待防止対策室などの協力を得て、医療機関・母子保健・児童福祉の相互の連携協働による支援体制の構築に関する好事例と教訓を共有するために、先駆的な活動を行っている9か所の自治体参加によるワークショップを2回開催した(東京都、岩手県陸前高田市)。併せて、産科医療機関および医療機関などを中心として行政機関(母子保健・児童福祉部門)との連携について調査し分析を行った。
結果と考察
(1)「妊娠期から始まるだれひとり取り残さない保健医療福祉サービスをめざして」冊子の作成
東京と陸前高田で開催したワークショップの議論に基づき、「妊娠期から始まるだれひとり取り残さない保健医療福祉サービスをめざして」と題する研修用教材を作成した。本研修用教材は、先駆的な事例報告に加える形で、連携協働する保健医療福祉サービスの基本的な姿勢をまとめた。いわゆる教材というよりも、問題に気づき、自分の地域の持つ強みと資源を活用した連携協働を行うきっかけになるものである。
(2)保健医療福祉の連携協働あり方:大阪府の病院における児童虐待の取り組みに関する調査報告(第2報)
大阪府内の二次・三次医療機関に、児童虐待の取り組みに関する調査を行い58.4%の回答があった。健やか親子21(2次)の指標である、児童虐待に対応する体制を整えている医療機関は、大阪府では31カ所(19.9%)であった。取り組みは小児科、産婦人科のある医療機関ですすんでいたが、研修を行っているところは少なく、通告を促すためにもさらに児童虐待に関する委員会の設置やマニュアル策定を促進させ、虐待の判断や機関の役割等に関する啓発・研修が必要と考えられた。
(3)周産期メンタルヘルスケア推進に関するアンケート調査
日本産婦人科医会は平成26年度より、「妊産婦のメンタルヘルスケア体制の構築をめざして」として会員各位の産科医療提供施設におけるメンタルヘルスケア向上を推進し児童虐待予備軍の減少と虐待の問題点の社会的周知を図る活動をしている。公益社団法人日本産婦人科医会の協力のもとに、産科医療施設における周産期メンタルヘルスケア推進に関するアンケート調査を行った。要支援妊婦が有の産科医療機関(病院+診療所)は、全国で56.8%であり、北海道から九州までの7ブロック間でもほぼ同様の傾向であった。要対協へ参加している病院と診療所では、それぞれ93.8%(76/81)、68.6%(70/102)が要支援妊婦を見いだし、診療所で有意に低かった。この結果より、産科医療機関でのメンタルヘルスケアに関しての認知及び実効性が低く、今後の産科医療機関が重要な取り組みになっていくと考えられた。
(4)岩手県気仙地域でのアクション・リサーチ
 東日本大震災の被災地である岩手県気仙地域(大船渡市、陸前高田市、住田町)においてアクション・リサーチを行った。震災から5年が経過した現在も被災地では多くの仮設住宅が残り、復旧していない。平成27年10月より、大船渡保健所が主催し、気仙地域母子保健関係者等連絡会が開始された。この連絡会は、医療機関、市町村、保健所の母子保健関係者、NPO法人スタッフ等で構成され、互いに連携・協働することで、気仙地域が健全かつ安心して子育てができる地域となることを目指している。これまで、周産期情報連携、妊産婦メンタルヘルス、周産期に関する地域総合チーム医療、健やか親子21、気仙地域の子育て状況等さまざまな問題について、情報共有および意見交換が行われている。

結論
3年間の研究成果を携えてオランダを訪問し、児童虐待およびだれ一人取り残さない母子保健福祉サービスに関する情報収集、現地調査および意見交換を行った。オランダでは、新生児全員に対して医学モデルだけではなく社会モデルにそった支援を行いつつ、高いリスクをもつ集団には濃厚なサービスを行っていた。いずれも施設でのサービス提供ではなく、アウトリーチ活動であることが大きな特徴である。また専門家によるサービスや従来から存在する母子手帳だけでなく、ホームページやアプリを駆使してだれひとり取り残さない保健医療福祉サービスの提供を行っていた。国や地域により特徴あるサービスを発展させてきた欧州に学ぶ点は少なくないことを痛感した。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201501004B
報告書区分
総合
研究課題名
養育支援を必要とする家庭に対する保健医療福祉の連携に関する実践的研究
課題番号
H25-政策-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中村 安秀(国立大学法人 大阪大学 大学院人間科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 渕向 透(県立大船渡病院)
  • 佐藤 拓代(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 浅川 恭行(浅川産婦人科)
  • 北野 尚美(和歌山県立医科大学医学部)
  • 山本真実(東洋英和女学院大学人間科学部)
  • 中板 育美(日本看護協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、児童虐待の発生予防の観点から、妊娠期・出産後早期から養育支援を必要とする家庭に対する支援に関して、特に妊娠期・出産後早期からの保健・医療・福祉の連携・協働の実態を明らかにすることにより、継続ケアの視点からライフステージ(妊娠・出産・育児)に沿った保健・医療・福祉の連携・協働の実践的な方法論を提示することにある。
研究方法
ワークショップ手法を駆使し、情報収集とともに新たな気づきを共有することができ、そワークショップ手法を駆使し、情報収集とともに新たな気づきを共有することができ、その成果を、実際的な研修教材の作成と東日本大震災被災地におけるアクション・リサーチという形で実践につなげ、1年目・2年目に、市町村レベルの報告書等の文献考察を踏まえ、厚生労働省虐待防止対策室などの協力を得て、医療機関・母子保健・児童福祉の相互の連携協働による支援体制の構築に関する好事例と教訓を共有するために、先駆的な活動を行っている9か所の自治体参加によるワークショップを2回開催した(東京都、岩手県陸前高田市)。併せて、産科医療機関および医療機関などを中心として行政機関(母子保健・児童福祉部門)との連携について調査し分析を行った。
結果と考察
2回のワークショップでは、医療機関・母子保健・児童福祉の相互の連携協働による支援体制の構築に関する好事例と教訓を共有し次のような知見が得られた。
①医療機関(産科・小児科)、保健、福祉の連携が必須(顔の見える関係づくり)、②既存の母子保健サービスの最大限の活性化(母子健康手帳の配布時の面接、保健師の地区担当など)、③要保護児童対策地域協議会(要対協)の認知度の向上(とくに、病産院へのより一層の浸透が必要)、④全数把握の重要性(地域に出向くアウトリーチ・アプローチ)、⑤NPO活動との協働の必要性(妊娠SOSの必要性:公的サービスに乗りにくい親)、⑥スマートフォンなどを使った情報提供の必要性。
また、保健医療福祉の連携協働あり方:大阪府の病院における児童虐待の取り組みに関する調査報告、周産期メンタルヘルスケア推進に関するアンケート調査、岩手県気仙地域でのアクション・リサーチなどの成果も得られた。
ここでは、それらの成果を集約する形で作成された「妊娠期から始まるだれひとり取り残さない保健医療福祉サービスをめざして」の冊子を中心に考察する。
支援を必要とする母・子・家庭を中心に据えた取組みが必要である。すなわち、妊娠期・出産後早期から養育支援を必要とする家庭に対する保健・医療・福祉が連携・協働して支援する体制を構築することは重要であるが、連携協働の体制を作ることが最終目的ではない。支援を必要としている家庭、母、子どもを中心に据えた取組み(クライアント・センタード・アプローチ)求められている。
続いて、切れ目のない支援(継続ケア)を保障するシステムつくりは必須事項である。妊娠、出産、子育てという時期は、空間的にも時間的にも広がりをもち、母と子どもが分断されやすいという特徴をもつ。その特性を知ったうえで、個人的ながんばりで乗り切るのではなく、切れ目のない支援(継続ケア)を保障するシステムを地域ごとに作っていく必要がある。
虐待や貧困が可視化されにくい社会においては、従来以上に、家庭に出向くアウトリーチが重要である。だれひとり取り残さない連携協働のためには、地域や家庭に出かけていきニーズを掘り起こす積極性が求められている。その際には、対象となる人びと全員に働きかけるポピュレーション・アプローチと、濃厚な支援を必要とする少数を対象としたハイリスク・アプローチの組み合わせが重要となる。
最後に、ITCを駆使した情報提供の今後について言及したい。ITC(Information Technology and Communication)を積極的に活用することに異論はない。しかし、ITCだけですべてが解決するわけではない。専門家による相談、書籍や冊子などの紙媒体、ウェブサイトやアプリなどの電子媒体という複数のチャンネルを組み合すことにより、効果的な連携や複合的なサービスの提供が可能となる。
結論
ワークショップと実態調査の成果をもとに、3年目に妊娠期・出産後早期から学齢前に至るまでの時期の、ライフステージに沿った継続ケアとしての養育支援体制のあり方を検討し、自分の地域の持つ強みと資源を活用した連携協働を行うきっかけとなる冊子を作成した。また、2年目・3年目に、東日本大震災被災地(岩手県気仙地域)において、医療機関、母子保健、児童福祉の相互の連携協働による支援体制の構築をアクション・リサーチとして実施した。保健福祉の人材不足に悩む他の被災地にとっても有用なモデルとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201501004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、児童虐待の発生予防の観点から、妊娠期・出産後早期から養育支援を必要とする家庭に対する支援に関して、特に妊娠期・出産後早期からの保健・医療・福祉の連携・協働の実態を明らかにすることにより、継続ケアの視点からライフステージ(妊娠・出産・育児)に沿った保健・医療・福祉の連携・協働の実践的な方法論を提示することができた。
臨床的観点からの成果
ワークショップと実態調査の成果をもとに、3年目に妊娠期・出産後早期から学齢前に至るまでの時期の、ライフステージに沿った継続ケアとしての養育支援体制のあり方を検討し、自分の地域の持つ強みと資源を活用した連携協働を行うきっかけとなる冊子を作成した。また、2年目・3年目に、東日本大震災被災地(岩手県気仙地域)において、医療機関、母子保健、児童福祉の相互の連携協働による支援体制の構築をアクション・リサーチとして実施した。
ガイドライン等の開発
 とくになし。
その他行政的観点からの成果
 とくになし。
その他のインパクト
 先駆的な活動を行っている9か所の自治体参加によるワークショップを、東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市で開催した。東海新報において、2015年1月に「虐待防止へ情報共有 セミナー・ワークショップ開催」という記事が掲載され、被災地における虐待防止活動の重要性を訴えるワークショップ内容が本研究班の成果として紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
34件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
西原三佳,大西真由美,中村安秀
岩手県陸前高田市未来図会議が果たしてきた役割~災害対応計画へのモデルとして~
 日本公衆衛生雑誌 , 63 (2) , 55-67  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-08-03
更新日
2020-06-16

収支報告書

文献番号
201501004Z