遺伝子組換え技術応用医薬品の利用における生物多様性の確保に係る規制のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201451021A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子組換え技術応用医薬品の利用における生物多様性の確保に係る規制のあり方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
内田 恵理子(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【委託費】 医薬品等規制調和・評価研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルスベクター等の遺伝子組換え生物等を用いた遺伝子治療の臨床試験を実施する場合、日本ではカルタヘナ法に基づき第一種使用規程の申請及び生物多様性影響評価が求められているが、規制緩和の要望がアカデミアや産業界から出されている。本研究はカルタヘナ法に基づく第一種使用申請について、その運用をより合理的に行うことが可能かを明らかにすることを目的とする。今年度は、海外での遺伝子組換え生物等の使用の規制の現状を調査するとともに、現在のカルタヘナ法に基づく規制の課題をまとめる。
研究方法
1)欧米の規制に関する調査
遺伝子治療等で遺伝子組換え生物等を臨床で使用する際の米国における規制については、FDAのHPに掲載されている規制関連情報を中心に検討した。また、米国で治験を実施した日本企業からの聞き取り調査も行った。欧州の規制については、EMAのHPに掲載されている規制関連情報や、PMDAの協力を得て収集した各国のガイダンス関連の文書を中心に検討した。
2)第一種使用規程に関する調査
遺伝子治療臨床研究に係る第一種使用規程は厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会資料より、遺伝子治療製品の治験に係る第一種使用規程は生物由来技術部会資料及び環境省の日本版バイオセーフティークリアリングハウスHPに掲載されているLMO関連情報より入手した。
結果と考察
1)米国の規制の調査
米国ではカルタヘナ議定書を批准していないが、遺伝子治療製品等の環境影響評価に関するガイダンス案及びウイルスやベクターの排出の試験法に関するガイダンス案を2014年に公表し、環境影響や第三者への伝播について、排出の厳密なモニタリングと日本の生物多様性影響評価よりも広範で詳細な環境評価を行うことにより管理しようとしていることが明らかとなった。一方で排出データや環境評価は承認申請時には必要だが、多くの場合、治験段階では環境評価は必要なく、増殖性のない製品では排出試験も臨床初期では必要とされないこと、増殖性の製品では臨床初期のデータを参考に排出試験を変更するなど、臨床開発段階に応じた対応が取られていることが判明した。また、米国では患者の個室隔離等は必ずしも行われてはいないことも明らかになった。
2)欧州の規制の調査
カルタヘナ議定書を批准している欧州では遺伝子治療の治験は日本のように第一種使用に限らず、contained use(CU;拡散防止措置を執って行う使用)とdeliberate release(DR;開放系での使用)の2トラックがあり、国により対応が異なること、英国では開発初期はCU、開発後期は施設や例数が増えることからDRが想定されるなど開発段階に応じた対応が取られていること、欧州各国でも米国と同様、ウイルス等の排出の評価に基づき、生物多様性に限定せず広く環境への影響の厳密・詳細な評価が求められることが明らかになった。 
3)国内での第一種使用規程に関する調査
国内で実施されている遺伝子治療用ウイルスの種類別に第一種使用規程をまとめた。臨床研究では欧州に当てはめるとCUに該当する厳密な拡散防止措置が執られている例が多いこと、治験は数例のみだが、臨床研究よりは規程が緩められていることが確認された。
4)カルタヘナ法による規制の問題点と対応策
欧米は遺伝子組換え生物等の利用に際してウイルスの排出の評価と環境影響評価で規制しているが、日本は環境影響評価に関する規制がなく、カルタヘナ法に基づく生物多様性影響として環境影響を評価しており、また法律に基づいた規制であるために第一種使用に関する規制を撤廃することは難しい。しかし、製品の開発段階や製品のリスクに応じたより柔軟な第一種使用規程や拡散防止措置に変更していくことは可能と考えられる。特に、一度定めた規程の変更が容易ではないことから、予め途中で使用規程を変更できるような柔軟な規程とする変更案を提示した。3月に遺伝子治療の専門家5名及びPMDAの専門家4名の出席を得て「カルタヘナ法に基づく運用のあり方に関する検討会」第1回会議を開催し、上記調査結果と変更案を基に、カルタヘナ法に基づく第一種使用の運用の課題と今後の方針を議論した。
結論
欧米における遺伝子組換え生物等の臨床での使用の規制の現状及び我が国における遺伝子治療の第一種使用規程による遺伝子組換え生物等の拡散防止措置について調査するとともに、カルタヘナ法に基づく第一種使用規程の運用のあり方に関する検討会を開催し、現状の第一種使用の運用の課題をまとめた。来年度はウイルスベクターの特性や投与法、投与経路に応じたリスク評価を行うと共に、検討会による議論を重ね、遺伝子治療製品(遺伝子組換え生物等)の製品群毎のリスクに応じた新たな運用のあり方を提言する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201451021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝子組換え生物等の臨床使用における欧米の規制の現状、海外での排出リスクの管理のあり方と我が国の規制との違いを明らかにした。また、遺伝子治療臨床試験のデータを基に、ウイルスベクターの製品群毎、投与部位毎の生体内分布や体外排出のリスクを明らかにした。
臨床的観点からの成果
ウイルスベクターの製品群毎、投与部位毎の体外排出リスクのデータは、遺伝子治療臨床試験を行う際、排出データを取るべき部位や期間を検討する上で参考情報としての活用が期待される。
ガイドライン等の開発
アカデミアとPMDAの遺伝子治療の専門家からなるカルタヘナ法に基づく運用のあり方に関する検討会を開催し、カルタヘナ第一種使用の運用について提言をまとめた。今後の第一種使用規程の運用に活かされることが期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究成果の行政への反映として、2016年より第一種使用規程の個室管理の記載が排出の実態に基づき試験の途中で変更できるような柔軟な記載が可能となるように改められた。また、第一種使用の承認手続きにおいて、これまでは部会承認が必要であったため承認まで6ヶ月は必要だったところ、今後は部会には報告のみとすることで、承認までの期間の短縮化が図られることになった。
その他のインパクト
本研究が契機となり、遺伝子治療に関するICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」、「腫瘍溶解性ウイルス」、「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的な考え方」が平成27年6月23日厚生労働省医薬食品局審査管理課・厚生労働省医薬食品局医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡事務連絡として正式に発出された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201451021Z