文献情報
文献番号
199800472A
報告書区分
総括
研究課題名
水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
- 眞柄泰基(北海道大学)
- 荒木国興(国立公衆衛生院)
- 西尾治(国立公衆衛生院)
- 山崎省二(国立公衆衛生院)
- 金子光美(摂南大学)
- 平田強(麻布大学)
- 井関基弘(大阪市立大学)
- 黒木俊郎(神奈川県衛生研究所)
- 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
- 笹井和美(大阪府立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書（概要版）
研究目的
クリプトスポリジウム等の原虫による水系汚染が世界的な問題となっている中で、原虫の迅速で的確な検査法が確立されていないため、水道システムにおける検査や制御に困難を来している現状にある。本研究においては、現在用いられている膜ろ過-アセトン法に替わるオーシストの迅速で高い回収率をもった分離・濃縮法の開発、蛍光抗体法に替わる検査法の開発等、クリプトスポリジウム等の原虫検査法の開発・改良を行う。また、水系及び人を含む宿主動物における汚染状況を調査して実態を正確に把握するとともに、水道水の常時管理を可能とするために、クリプトスポリジウム等の代替指標を開発し、モニタリングシステムの構築を目指す。
研究方法
検査法の開発に関して、1)実験動物モデルへのクリプトスポリジウムの感染とその増殖部位を調べた。2)クリプトスポリジウム感染者の便の保存方法につき検討した。3)免疫磁気ビーズ法を用いた際のビーズとジアルジアシストの結合力、ジアルジアシストとクリプトスポリジウムオーシストの分離能力につき評価した。4)中空糸膜モジュールを用いた原虫濃縮方法を開発し、最適濃縮条件につき検討した。5)直接蛍光抗体法における蛍光強度の増大及び非特異反応の低減化方法につき検討した。6)DAPI染色法を有効に用いるための試料前処理方法につき検討した。7)PCR法によるクリプトスポリジウムの検出感度向上方法につき検討するとともに、その18SリボソームRNAの遺伝子配列を解析した。8)鳥類に寄生するクリプトスポリジウムの鑑別方法につき検討した。汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関して、1)野生動物及び家畜のクリプトスポリジウム感染状況につき調査した。2)相模川水系における水質調査を継続して行い、ウェルシュ菌等の代替指標の有効性につき回帰分析により検討した。3)浄水過程におけるクリプトスポリジウム除去の代替指標として特定の藻類を用いることの有効性につき、現場での藻類実測データに基づき検討した。
結果と考察
検査法の開発に関して、1)実験動物モデルとして開発した無菌ヌードマウスにおけるクリプトスポリジウムの好適感染増殖部位は大腸(盲腸・結腸)であることを確認した。2)アルカリペプトン液による糞便試料の保存が原虫の検出に当たって影響を及ぼさないこと、糞便塗抹標本が染色時の陽性対照として約10ヶ月使用できることを確認した。3)新たに開発されたジアルジア/クリプトスポリジウム免疫磁気分離用混合ビーズの実用性が明らかになった。4)中空糸膜モジュールを用いる原虫濃縮方法について検討し、簡易な操作で、従来法(メンブレンフィルター-アセトン溶解法)と同等か、それ以上の回収率が得られることを明らかした。5)蛍光強度強化と非特異反応低減を目的に、昨年度開発した直接蛍光抗体法用試薬を改良中である。また、C.parvumのオーシストから特異性の高い単クローンを作製し、実用性を評価した。6)DAPI染色による染色率を向上させる前処理として、エタノールとアセトンによる処理に効果が認められた。また、染色効果の判定にフローサイトメーターが極めて有効であることが確認できた。7)PCR法による検出に関して改良を加えた結果、検出感度を高めることができた。また、ウシ、ヒト、ブタ及びマウス由来クリプトスポリジウムの18S ribosomal RNAをコードしている遺伝子配列を明らかにした。8)鳥類のクリプトスポリジウム鑑別用単クローン抗体を作製するための基礎的準備が終了した。汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関しては、1)クマネズミ、ドブネズミ、ウシ、イヌ、ネコからクリプトスポリジウムが検出された。ブタと鳥類からは、今回クリプトスポリジウムの検出はなかった。ヒトでは、一部からジアルジアが検出されたが、クリプトスポリジウムは検出できなかった。2)相模川水系では、ほとんどの調査地点でクリプトスポリジウム及びジアルジアが検出されたが、それらの原虫類の代替指標としてはウェルシュ菌芽胞が最も有効であることが強く示唆された。3)凝集沈殿実験や既存のデータの解析によって、浄水処理過程におけるクリプトスポリジウム除去指標とし
て、水道原水に含まれる藻類の除去率の適用可能性が明らかになった。
て、水道原水に含まれる藻類の除去率の適用可能性が明らかになった。
結論
クリプトスポリジウム等の検査法の開発・改良を行うとともに、汚染状況の調査を実施した。検査法の開発では、実験動物モデルにおける好適感染増殖部位、糞便試料の保存方法、免疫磁気分離用混合ビーズの実用性、中空糸膜モジュールを用いた濃縮方法、直接蛍光抗体法の実用性、DAPI染色における前処理法、PCR法による検出法の適用性,遺伝子配列の解析、鳥類のクリプトスポリジウム鑑別法等について検討し、いずれもほぼ満足な成果を得ることができた。これらの成果は、最終年度である次年度に、本研究の総合的な成果として新しい試験方法を取りまとめるための貴重な資料となるものである。一方、汚染状況の調査では、各種動物の感染状況の調査、相模川水系における汚染実態調査を継続して行い昨年度のデータを補強したほか、浄水処理過程におけるクリプトスポリジウム除去指標として、原水中に含まれる藻類が有用であることを新たに明らかにした。
公開日・更新日
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