鍼灸における慢性痛感者の治療指針ならびに医師との連携に関するガイドライン 

文献情報

文献番号
201450006A
報告書区分
総括
研究課題名
鍼灸における慢性痛感者の治療指針ならびに医師との連携に関するガイドライン 
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和憲(明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 臨床鍼灸学?室)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川 陽一(帝京平成大学)
  • 浅井 福太郎(九州看護福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【委託費】 「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 線維筋痛症の患者は人口の2%程度と言われているが、近年増加している。しかしながら、明確な治療法がなく、治療に難渋しているのが現状である。一方、線維筋痛症に対する鍼灸治療の報告は国内外で多数あり、コクランの解析では鍼灸治療は鍼通電を行った際に効果があることが報告されている。そのため、鍼灸治療が有効な治療手段となる可能性がある。実際、過去の報告から鍼通電治療が有効なことが報告されている。しかしながら、本邦における鍼灸治療はガイドラインがないために、その治療方法は治療家によりバラバラであり、鍼灸治療と一言で表現しても、その方法は多種多様である。
 そこで、本研究課題では慢性痛の鍼灸治療を効率的に行うためのガイドラインを作成するために、まず情報収集として①患者のニーズ、②文献調査、またその効果を検証する目的③臨床試験、さらにその結果を公表する市民還元の3つのステップを今年度も目標に掲げて研究を行ってきた。その概要を以下にまとめる。
研究方法
アンケートに関しては線維筋痛症友の会の会員1200名に配布し、郵送法にて回収を行った。アンケートの内容は、患者の基本情報と線維筋痛症の状態、鍼灸治療受診状況、医師との連携等であった。
 文献検索に関しては、キーワードを「鍼灸治療/acupunctureと線維筋痛症/fibromyalgia」とし、医中誌、PubMedとTHE COCHRAN LIBRARYを利用して検索した。結果、158編の文献が抽出され、今回はメタ解析・システマティックレビュー7編とRCT・症例報告を含む28編を解析した。
 臨床試験に関しては、線維筋痛症友の会関西支部に在籍している患者の中で、インフォームドコンセントの得られた患者27名を対象とした。なお、患者は無作為にコンピューターで、鍼通電を行う群、置鍼群、対照群(無処置対照)の3群に無作為に群分けした。また、鍼通電群は、足三里-陽陵泉、合谷-手三里を基本穴とし、4Hz15分間の通電を行った。また、置鍼群は同部位に鍼を行い、通電は行わなかった。なお、いずれの群も上記の治療に加えて10本以内で、痛みや症状に応じた治療を追加した。一方、評価は鍼通電群と置鍼群のみ、治療前後の評価として、主観的な痛みの強さの状態を100mm幅のVASで、痛みの客観的な強さをペインビジョンの痛み度をそれぞれ評価した。
結果と考察
慢性痛患者を対象としたアンケート調査では、鍼灸治療に対して症状の改善を求める意見が多く、その関心度も受診率は高いが、その継続率はそれほど高くはなかった。継続できない理由に関しては、効果がないが多く、治療方法は治療院ごとにばらつきが大きく、また治療費も高いなどの問題点がいくつか挙げられた。一方、文献調査に関しては、海外を共に多くの臨床試験が行われており、そのエビデンスは高いこと、また治療方法によっても効果に差があり、置鍼よりは鍼通電の方が効果的であるとの解析結果であった。そのため、臨床試験で置鍼と鍼通電の効果を検討したが、治療直後の効果では、両群に大きな差は認められなかったが、治療1ヶ月後の効果では鍼通電を行った方が痛みに改善が認められた。しかしながら、客観的な評価である自律神経や痛み度に関しては大きな差は認められなかった。
結論
慢性痛患者は鍼灸治療に対する期待は大きいものの、治療法や内容はばらばらであり、その継続率が悪いという結果であった。そして、継続しない理由としては、「効果がない」をあげるものが一番多かった。しかしながら、臨床試験の結果では、エビデンスがあると言われている鍼通電を行うことで痛みに改善が認められたことから、過去の文献などを参考に治療方法を組み立てれば、効果がある可能性が高く、また効果がない症例でもセルフケアを鍼灸治療と共に指導することで改善する可能性が報告された。このことから、エビデンスに基づく治療を行い、セルフケアなどの指導を行えば、鍼灸治療の効果はさらに高くなる可能性があり、治療法や患者の管理方法などをまとめた、慢性痛患者に対する鍼灸治療のガイドラインの作成が必要不可欠であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201450006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
線維筋痛症は難治性疼痛の代表的疾患であるが、その治療法は確立されていない。そのため、様々な治療法が検討されているが、鍼灸治療は線維筋痛症のガイドラインにおいても推奨度は高く、効果的な治療法と考えられるが、鍼灸治療の実態を調査した報告はなく、現状を分析した本研究は有意義な成果と言える。
臨床的観点からの成果
線維筋痛症に関する無作為化比較試験は本邦では行われたことはなく、鍼灸治療に関して今回行われたことは非常に有意義であるとともに、コクランで推奨されている鍼通電と効果がないと報告されている置鍼治療で差がなかったことは、本邦の患者特性として重要であると思われる。
ガイドライン等の開発
本研究の成果により論文の解析や患者のニースが明らかとなった。以上のことからこれらのデータを元に今後はガイドラインの作成を進める必要がある。
その他行政的観点からの成果
線維筋痛症に関するシンポジウムに鍼灸治療が取り上げられる機会が増え、鍼灸治療の役割が見直される結果となった。
その他のインパクト
新聞や雑誌などで、痛みに対する鍼灸治療が取り上げられることがあった。また、今回の研究成果を元に鍼灸師や患者向けの公開講座を開催し、30名前後の参加者があった。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201450006Z