文献情報
文献番号
201449010A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスcccDNAを標的とした宿主因子の解析
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
喜多村 晃一(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HBV cccDNAはウイルスDNA存在様式の一つで、肝細胞感染後に核内で形成されウイルス複製の鋳型となる。現行の治療法では除去困難で肝炎再燃や薬剤耐性株出現の原因となりうる。しかしcccDNAに作用する宿主因子についての研究はこれまでほとんど報告がなかった。そこで本研究では宿主細胞の持つ複数のDNA修復因子について、cccDNAの量と変異頻度及びウイルス複製活性への寄与を明らかし、HBV完全排除のための新たな標的分子を提示することを目的とした。これまでの研究を踏まえて本研究では、HBV産生細胞、HBV感染細胞を用いたin vitro実験で、変異導入因子APOBEC3Gと修復因子UNGのHBV cccDNAへの関与を検討した。またその作用機序からcccDNA形成過程に関与すると推測されるDNA修復因子FEN1についても併せて解析を行い、cccDNA形成・維持に関わる分子メカニズムの解明を目指した。
研究方法
(1) HBVを安定的に産生する培養細胞HepG2.2.15.7細胞を使用した。先行研究より内在性APOBEC3Gを発現誘導すると考えられるインターフェロンγで4日間細胞を刺激すると同時に、UNG活性を阻害するUGIタンパク質を導入することでcccDNAへの変異率に変化が生じるか検討した。インターフェロンγ刺激によるAPOBEC3ファミリーの発現プロファイルを定量RT-PCRにより評価した。予想通りAPOBEC3Gが最もよく発現上昇したので、これを抑えるためにsiRNAによりAPOBEC3Gノックダウンを試みた。また、cccDNA特異的な解析を行うために閉環状DNAを特異的に増幅するRCA法)を用いた。この増幅産物をクローニングし配列決定を行った。
(2) 近年明らかにされたHBV感染受容体であるNTCPを安定発現するHepG2-hNTCP-C4 細胞を用いてHBV感染実験を行なった。インターフェロンγ刺戟とUNG阻害によってHBVの複製活性がどのように影響するか検討した。HBV産生量の解析では培養上清中及び細胞質ウイルス粒子のHBV DNAコピー数を定量PCRによって検出した。
(3) FEN1の解析。上記のHepG2.2.15.7細胞及びHBV感染系において、FEN1阻害剤を培養液中に添加してその効果を検討した。shRNAによるFEN1ノックダウン細胞を樹立し、cccDNA形成能をRCA法及びTaqman probeによるcccDNA qPCRで解析した。
(2) 近年明らかにされたHBV感染受容体であるNTCPを安定発現するHepG2-hNTCP-C4 細胞を用いてHBV感染実験を行なった。インターフェロンγ刺戟とUNG阻害によってHBVの複製活性がどのように影響するか検討した。HBV産生量の解析では培養上清中及び細胞質ウイルス粒子のHBV DNAコピー数を定量PCRによって検出した。
(3) FEN1の解析。上記のHepG2.2.15.7細胞及びHBV感染系において、FEN1阻害剤を培養液中に添加してその効果を検討した。shRNAによるFEN1ノックダウン細胞を樹立し、cccDNA形成能をRCA法及びTaqman probeによるcccDNA qPCRで解析した。
結果と考察
(1) 肝細胞においてインターフェロンγによって導入されるcccDNA突然変異の頻度がAPOBEC3Gに対するshRNAノックダウンで低下することが明らかになった。さらにUGIでDNA修復因子UNGを阻害することでcccDNA高頻度突然変異の頻度が上昇した。cccDNA変異頻度は同じ細胞サンプルから回収したウイルス粒子内DNAの変異頻度よりも高いという結果が得られ、ウイルス粒子DNA変異の持ち込みではなく新たにcccDNAに対して変異が導入されていることが示唆された。
(2) HBV in vitro感染実験において、UNGの阻害によるcccDNAへの変異の蓄積と相関してウイルス産生量が減少することが、細胞質ウイルス粒子DNA及び培養上清中HBV DNAの定量によって観察された。
(3) cccDNA形成に関与すると想定されるDNA修復因子FEN1の阻害剤添加あるいはshRNAノックダウンによって、cccDNA量の低下及びウイルス産生量の低下が見られた。
以上のように、変異導入因子APOBEC3G及びDNA修復因子UNGの、HBV cccDNAに対する作用を培養細胞の系を用いて解析した。その結果、インターフェロンγによって発現誘導されるAPOBEC3GがcccDNAに変異を導入し、その変異をUNGが修復していることが示唆された。また、別のDNA修復因子FEN1の阻害によりcccDNA量が減少した。FEN1はDNAのフラップ構造を除去する因子として知られており、cccDNAの前駆体であるrcDNAからフラップ様の構造を除去するステップに関与するcccDNA形成因子と考えられる。
(2) HBV in vitro感染実験において、UNGの阻害によるcccDNAへの変異の蓄積と相関してウイルス産生量が減少することが、細胞質ウイルス粒子DNA及び培養上清中HBV DNAの定量によって観察された。
(3) cccDNA形成に関与すると想定されるDNA修復因子FEN1の阻害剤添加あるいはshRNAノックダウンによって、cccDNA量の低下及びウイルス産生量の低下が見られた。
以上のように、変異導入因子APOBEC3G及びDNA修復因子UNGの、HBV cccDNAに対する作用を培養細胞の系を用いて解析した。その結果、インターフェロンγによって発現誘導されるAPOBEC3GがcccDNAに変異を導入し、その変異をUNGが修復していることが示唆された。また、別のDNA修復因子FEN1の阻害によりcccDNA量が減少した。FEN1はDNAのフラップ構造を除去する因子として知られており、cccDNAの前駆体であるrcDNAからフラップ様の構造を除去するステップに関与するcccDNA形成因子と考えられる。
結論
本研究では、HBV cccDNAに作用してその変異頻度や形成に関わる宿主因子を明らかにした。
cccDNA形成維持に関わる因子群とその作用機序の理解が進めば、抗HBV薬開発に向けての標的となりうる。また、ウイルスの変異率増減に関わる宿主因子の作用がウイルス複製活性や病原性変化の原因となるという結果が得られれば、これらの因子はリスクマーカーとなりうるため、今後さらなる分子メカニズムの解明が期待される。
cccDNA形成維持に関わる因子群とその作用機序の理解が進めば、抗HBV薬開発に向けての標的となりうる。また、ウイルスの変異率増減に関わる宿主因子の作用がウイルス複製活性や病原性変化の原因となるという結果が得られれば、これらの因子はリスクマーカーとなりうるため、今後さらなる分子メカニズムの解明が期待される。
公開日・更新日
公開日
2017-01-20
更新日
-