ワクチン等による予防・治療に関する研究(インフルエンザワクチンの効果に関する研究)

文献情報

文献番号
199800469A
報告書区分
総括
研究課題名
ワクチン等による予防・治療に関する研究(インフルエンザワクチンの効果に関する研究)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 齊(国立療養所三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木幹三(名古屋市厚生院)
  • 鈴木宏(新潟大学医学部)
  • 田代眞人(国立感染症研究所ウイルス第一部)
  • 廣田良夫(九州大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者(65歳以上)はインフルエンザ感染に対しハイリスク群として注
目されているが、従来我国のインフルエンザワクチンは学童を中心に接種されたた
め、高齢者によるインフルエンザワクチンの安全性、有効性の評価は明確になって
ない点が多い。本研究は我国のインフルエンザワクチンの高齢者への有効性を評価
できるデザインで前方視的に調査研究し、今後のインフルエンザ対策に寄与するこ
とを目的としている。
研究方法
高齢者(65歳以上)にインフルエンザワクチンを1回法にて接種し、有効
性、安全性に関する評価を5人の班員とその研究協力者によって地域、施設を分けて
検討した。研究は基本的に班で統一したデザインによる方法とした。たとえば患者
調査票、抗体測定用の血清採血時期、ウイルス分離細胞等である。しかし各施設の
事情により細部においては申し合わせ通りの実施が不可能な点があった。結果につ
いては個々の研究者毎にまとめると共に、全体の傾向を考察した。
1)対象
新潟県、名古屋市、大阪府、福岡市、三重県の老人福祉施設・病院に入所(院)
している65歳以上の高齢者の中から、調査に協力を申し出ていただいた方を対象と
した。98/99年度も対象地域は同様であるが、施設数20施設、調査に協力を申しで
て頂いた方2,166名、そのうちワクチン接種群1,127名、非接種群(対象群)1,039名
につき検討した。
・対象者本人が判断出来ない場合には家族に説明を行い、ワクチン接種に同意が得
られた人に接種を行い(接種群)、検査のみ同意を得られた群は非接種群とした。
2)ワクチン接種の方法と時期
・ワクチンの製品の選択は各研究者に任せ、それぞれでロットは統一することにし
た。結果として阪大微研会(三重県、大阪府)、デンカ生研(新潟県、名古屋市)
、化血研(福岡市)の三社の製品が使用された。
・インフルエンザHAワクチンの接種は1回とし、0.5ml上腕皮下に注射した。
・接種には1mlディスポーザブル注射器を使用し、注射針は26G(廣田らは29G)を用
いた。
3)血清学的検査
・ワクチン接種群からの採血は接種前、接種後4~6週及び調査終了前(3月末頃)に
実施した。
・ワクチン非接種群からの採血は、接種群の前と調査終了前の2回、時期を一致させ
て実施した。
・インフルエンザ抗体測定はHI法にて実施した。過去のデータとの比較上、従来の
WHO法で血清を8倍希釈から2段階希釈で測定した施設と、CDC方式で10倍希釈か
ら2段階希釈法で、抗体希釈の最終希釈の逆数で表示する方法で測定した施設に別
れた。測定は原則としてそれぞれの地方衛生研究所に依頼し実施した。
・測定に用いたインフルエンザ抗原は感染研から分与された統一株を使用した。
4)ウイルス分離
・インフルエンザ様症状(発熱、呼吸器症状)を呈する患者を対象として分離を試
み、特に集団発生がみられた施設では、最低10検体を採取するよう努力した。
・検体の採取は患者の咽頭拭い液とし、採取が困難な場合はうがい液とした。
・ウイルス分離に使用する細胞はMDCK細胞を用いた。
・重症例、死亡例から分離されたインフルエンザウイルスは田代班員に送付し、感
染ウイルスの特性について検索することにした。
5)患者調査票
・患者調査票は接種の時期に関連して、ワクチン接種群は4様式、コントロール群は
2様式とした。
・臨床経過記録票は第1回採血日より担当者が記録し、当該施設のインフルエンザ流
行終息時まで継続して記入を依頼した。また記入担当者については同一施設では出
来るだけ同一人とするよう配慮をお願いした。また98/99年度の三重については、
専任の保健婦を各施設単位で依頼し記載内容のカルテとの照合、患者からの聞き取
り調査を実施した。
・副反応記録票はワクチン接種群のみを対象として、接種後48時間の時点で記入し
た。
結果と考察
高齢者に接種したインフルエンザワクチンの効果は、マンテルヘンツ
ェル法による相対危険で示した。インフルエンザの発病に関する相対危険は三重県
0.60、新潟県0.75、名古屋市0.74、福岡市0.74であった。インフルエンザが重症化
して死亡した症例についての解析では、福岡市0.54であった。したがって発病阻止
効果でみると地域差はあり、0.60~0.75、有効率40~25%相当の結果であった。死
亡者についてみても0.54有効率46%となり、個人の重症化予防には有効性がみられ
ることがわかった。
インフルエンザワクチン接種後の副反応についてはほとんど局所反応であった。
発熱は三重県1/331(0.3%)、新潟県2/266(0.8%)であった。局所の発赤は三重
県11/331(3.5%)、新潟県48/266(18.0%)、名古屋市22/227(9.7%)であった
。局所の腫脹は三重県4/331(1.2%)、新潟県20/266(7.5%)、名古屋市4/227(
1.8%)であった。局所の痛みは三重県9/331(2.7%)、新潟県4/266(1.5%)、名
古屋市5/227(2.2%)であった。
本年流行したA/シドニー株に対する平均抗体価(幾何平均)は、三重県では、接
種前29.9、1回接種1カ月後272.8、3カ月後206.0で1回接種により十分量の抗体上昇
が認められた。また同じグループについて4倍以上のHI抗体価保有率は接種前43.6%
、接種1カ月後90.5%であった。なお、大阪府では、65歳以上の高齢者56名に対し
2回接種を実施し、追加免疫の効果について検討したが2回目と3回目の間で血清抗体
価が4倍以上の上昇を認めたものは、ほとんどなく追加免疫効果はなかった。
以上より高齢者に対するインフルエザワクチンの有効性は発病効果からみた場合
は、25~40%であったが重症化(死亡)については46%の有効率であり、本ワクチ
ンは発病阻止効果は50%程度であるが重症化は十分阻止できることが示された。ま
た、副反応については高齢者であっても重篤な副反応はなく、局所反応がほとんど
であった。抗体の上昇については1回接種法で十分な抗体価が得られた。
結論
65歳以上の高齢者に対するインフルエンザワクチンの有効性と安全性につき
検討し、インフルエンザの個人防衛が可能と考えられた。接種回数は1回0.5ml で副
反応も重篤なものは認めなかった。

公開日・更新日

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