B型肝炎ウイルス感染を抑制可能な高機能型核酸医薬品の開発

文献情報

文献番号
201449008A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルス感染を抑制可能な高機能型核酸医薬品の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山本 剛史(大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 文教(大阪大学 大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を原因とするB型肝炎は、我が国に約150万人のHBV感染者が存在すること、その一部は肝硬変や肝癌に進行することから、大きな問題となっている。現在、B型肝炎治療薬としてはインターフェロン(IFN)や核酸アナログが使用されているが、種々の問題から画期的抗HBV薬の開発が期待される。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、10~20塩基長の化学合成オリゴヌクレオチドであり、相補的な配列を有する標的遺伝子mRNAに結合することで、その発現を高効率に阻害すること、肝臓に効率良く集積することなどから、肝疾患に対する医薬品として適しており、実際にC型肝炎、高コレステロール血症などに対する医薬品として承認・新規開発が進んでいる。
 他方で、HBVの生活環のさらなる解明や抗HBV薬の創成、およびB型肝炎発症機構に向けては、HBV感染モデルマウスの開発が必要不可欠である。これまでHBV感染モデルマウスとしては、ヒト肝臓キメラマウス、もしくはプラスミドやアデノウイルスベクターを用いてHBVゲノムを肝臓に導入したマウスが用いられてきた。しかし、ヒト肝臓キメラマウスは重度の免疫不全のためにHBV感染による免疫応答が評価できない。またHBVゲノムを肝臓に導入したマウスでは、HBVゲノムの発現が一過性であり、慢性感染状態を再現できない。
そこで、本研究ではこの2点に焦点化して研究開発を進めることとした。
(1) 高機能核酸誘導体を用いて、HBV感染を抑制可能な新規ASOを開発する。
(2) 研究分担者が開発した新規アデノウイルスベクターにHBVゲノムを搭載することで、簡便なHBV慢性感染モデルマウスを開発する。
 本研究により、HBV感染を抑制可能なASOならびに簡便なHBV慢性感染モデルが開発されれば、新規抗HBV薬の創成ならびにHBVの根絶に向けて、極めて有用と期待される。
研究方法
 HBV・HBx遺伝子に対し、ASOを設計し合成を行った。これらのASOをHBV粒子を恒常的に産生する細胞に対し作用させ、HBx mRNA量の変動を定量的RT-PCRにより定量した。さらに培養上清中のHBVゲノム量を定量的PCRにより検討した。また細胞毒性の評価を実施した。
 HBVゲノムを非増殖型Adベクターゲノムに挿入し、ヒト肝癌細胞株に作用させ、HBVの発現を確認した。本Adベクターを、生後2日のマウスに対し全身投与した。投与より2日後、上清のルシフェラーゼ活性を測定することで、遺伝子発現効率を評価した。また、経日的に血液を回収し、肝障害マーカーを測定することで、Adベクター投与による肝障害を評価した。

結果と考察
 独自アルゴリズムを用いてHBVゲノムに対するASO(ASO-HBx)を選択した。合成したASO-HBxを細胞に導入しHBV感染抑制能について検討した結果、2つのASOにおいてHBx mRNA量が60%以下に抑制された。さらに培養上清中のHBVゲノム量についても、50%以下に抑制された。以上の結果より、ASOを用いてHBVの感染を抑制可能であることが示された。また有意な細胞毒性は観察されなかった。
 一方、本研究で作成したAdベクターをヒト肝癌細胞株に作用させたところ、Adベクター量依存的に培養上清中にHBVゲノムが検出された。HBsおよびHBcr抗原も検出された。本結果より、作製したHBV搭載AdベクターはHBV粒子を産生することが示唆された。
 またAdベクターを生後2日の新生仔マウスに投与したところ、肝臓において最も高い発現が見られた。一方、成体マウスと比較するとその発現量は低く、投与28日目にはほとんどバックグラウンドレベルにまで減少した。この時、有意な肝毒性は観察されなかった。
結論
 本研究ではHBV感染を抑制することを目的に、HBx遺伝子に対するASOを設計し、その抑制効率を検討した。この中から高い活性を示すASOを見出すことに成功した。ここで標的としているHBx遺伝子は種々のメカニズムを介してHBVの感染ならびに症状の発症に関与しており、本遺伝子をノックダウンすることで高いHBV感染ならびに発症の抑制が期待できる。今後は更に有用な化学修飾法を開発し活性の高いASOを探索するとともに、in vivoにてHBx抑制効果を検討する。
 またHBV感染モデルマウスの作製に向けて、HBVゲノム搭載Adベクターを作製するとともに、新生仔マウスにおけるAdベクターの遺伝子導入特性を明らかにした。培養上清中にHBVゲノムならびにHBV抗原が検出されたことから、HBV粒子が産生させているものと思われる。今後は新生仔マウスに全身投与することでHBV慢性感染モデルマウスの開発を試みる。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201449008C

収支報告書

文献番号
201449008Z