O157感染症の菌学的特性に基づく動向調査に関する研究

文献情報

文献番号
199800468A
報告書区分
総括
研究課題名
O157感染症の菌学的特性に基づく動向調査に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 村山尚子(山形県衛生研究所)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
  • 庄田文夫(石川県保健環境センター)
  • 江部高宏(大阪府公衆衛生研究所)
  • 井上博雄(愛媛県立衛生研究所)
  • 牧野芳大(大分県衛生環境研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
O157感染症は,日本ばかりでなく特に先進国といわれる国々で近年問題となってきている。WHOはこの事態を注目し,1997年5月に専門家による緊急会議を開催し,いくつかの提言を行っている。1)世界規模での発生状況の実態調査と監視体制の強化,2)DNA解析等の分子疫学的手法を用いての菌の性状解析と疫学調査への応用,等の事項を挙げている。我が国における当該感染症の実態も1996年度と同様1997、1998年度もかなりの発生例がみられ,依然として発生動向に注意していかなければならない状況にある。感染症のグローバル化が叫ばれている現在,我が国の監視体制も科学的データに基づいた疫学調査を基盤にし,世界とのコミニュケーションを図っていく必要性がある。本研究は,分子疫学的手法を用いて患者及び食材から分離されるO157菌の特性を解析し,疫学調査に資するとともに,予防対策に結び付けるところにある。
研究方法
A) 感染研における研究
1。地研から送付される菌株の分子疫学的解析により、O157およびその他の血清型 の出血性大腸菌の地域的及び経時的動向の解析を行う。各地研に解析結果を迅速に還元し、地域を越えた集団発生および散発型集団発生の迅速なる把握をはかり、対策に結びつける。
2。CDC, WHO及び諸外国の機関との情報交換、および菌株の解析結果の検討を行い、各国を越えた世界的レベルでの腸管出血性大腸菌の移動、伝播を解析する。国を越えての移動を未然にあるいは最小限にくい止める方策を検討する。
3。 代表的菌株の病原因子(志賀毒素遺伝子、eae遺伝子等の塩基配列、発現等を検討し、病原性と患者発症状況との比較検討を行う)  
B) 各地研における研究
1。腸管出血性大腸菌の分離・収集
下痢患者からの分離を行い、血清型、毒素型、生物型等の菌学的特性を調べる。O157以外(O111, O26等)の血清型の出血性大腸菌の増加が見られるので、そこ に焦点を当てた検査を行い、実態を把握する。
健康保菌者がかなり存在することが予想される。その実態調査を継続して行う。健康保菌者から分離される菌と下痢患者から分離される菌との間に菌学的及び遺伝学的差が存在するのかどうかについて解析する。
治療に抗菌薬が使われているので、耐性菌の出現が予想される。経時的に耐性菌 の出現動向を調査する。KBディスク検査法で全国レベルの薬剤耐性調査を行う
2。腸管出血性大腸菌感染症の感染源調査
食品(食肉、生野菜等)、環境材料(河川水、下水等)、家畜および愛玩動物(牛、犬等)から腸管出血性大腸菌の分離を行い、人由来株との比較検討を行い、腸管出血性大腸菌感染症の感染源としての意義を調査研究する。
結果と考察
1。菌株の遺伝学的差異を検出する技術として、パルスフィールド電気泳動法(PFGE)およびファージ型タイピング法を確立した。その結果、我が国で患者およびヒト以外から分離される菌のPFGE及びファージ型は多種にわたることが明らかになった。このことは、我が国が腸管出血性大腸菌O157で汚染されてかなり時間的に経過していること、つまり汚染がかなり強いことを示していると考えられる。
2。上記の解析方法が、一件散発事例に見えるが実はお互いに関連性がある事例、いわゆる散在的集団発生(diffuse outbrak)を明らかにするのに有用であることを示した。1998年8月頃、富山、神奈川、埼玉、東京等を中心に発生した、イクラを汚染源とするdiffuse outbrakをいち早く発見するのに、当研究班のネットワークが功を奏した。各地の患者から分離された菌およびイクラから分離された菌のPFGE型が一致することより、汚染源の源となった北海道の商店を明らかにし、汚染イクラを回収させることによりそれ以上の犠牲者がでるのを未然に防御できた点は画期的なことであった。
3。全国での分離菌株と患者情報との解析結果より、以下のことを明らかにした。①10歳以下の年少者の排菌率が高い、②10歳以下の排菌者のうち80%以上が、下痢、腹痛、血便のうち何らかの症状を示す、③ところが、30-40歳代の成人においては、排菌していても無症状である人の割合が70%以上と高値を示す。これらの結果は、今までいわれているように年少者においてO157感染症者は強い症状をしめすが、一方成人においてもかなりの頻度で感染しており、それが排菌無症者として経過する傾向にあることを明らかにした。この結果は、無症者成人が子供への菌の伝播者となりえる可能性を示唆しており、公衆衛生学的に重要と考えられる。
4。O157の耐性菌の調査を行い、20-30%の菌に、ABPC, SM, TCの耐性をもつものがあることを明らかになった。ヒトに使われていない薬剤に対する耐性菌が見られてきていることから,動物に使用されている薬剤との関連性が疑われる。今後は,動物における耐性菌の調査と比較することが必要である。
5。同時のSalmonella Typhimuriumの耐性調査も行い、多剤耐性菌がかなりみられ、その中にDT104が存在することを明らかにした。
結論
日本全国の74の地方衛生研究所(6ブロックに分け、各ブロック毎に分担研究者をおいた)との共同研究において、各地で分離される菌株の遺伝学的特性および菌株と発症状況との関連性を研究してきている。全国的ネットワークを用いた菌学的解析により得られた上記の結果から以下のことが想起される。
①発生動向調査をベースとした菌のPFGE解析ネットワークを構築することにより、diffuse outbreakの迅速なる検出を行い、効果的対応を可能とする
②成人層に無症状排菌者が多いことが判明したが、それらが子供等への感染源になりえるのかの更なる調査が必要である。
③耐性菌の割合が増加しているが、人に使っていないABPC,TCなどへの耐性が多い。動物への投与との関係が疑われる。獣医学関係との連携が必要である。

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