H5N1沈降インフルエンザワクチンにおける交叉免疫性に関する研究

文献情報

文献番号
201447024A
報告書区分
総括
研究課題名
H5N1沈降インフルエンザワクチンにおける交叉免疫性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(独立行政法人国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
74,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沈降インフルエンザワクチンH5N1(以下、H5N1ワクチン)はベトナム株(Clade1)を用いて開発された。その後、世界各地のH5N1インフルエンザウイルスの流行状況に応じて、国家備蓄プレパンデミックワクチンとしてベトナム株に加えて、インドネシア株(Clade2.1)、アンフィ株(Clade2.3)、チンハイ株(Clade2.2)、エジプト株(Clade2.2)を用いて製造されてきた。2008年以降に実施した臨床研究から、①すべての株による基礎免疫誘導効果を確認。②初期2回接種後、半年以上間隔をあけて追加接種すると他の株に対する幅広い交叉免疫が発現する。③同種株の初期2回の接種間隔については、3週間よりも間隔を広げ6か月にした方が、幅広い交叉免疫性が出現する。④初期接種1回でもプライミング効果は認めるが、異種株の接種順によって免疫原性が異なる。⑤エジプト株の2回の接種間隔が90日以降では十分ではないが交叉免疫反応が認められる、ことを示してきた。
薬事法の承認用法・用量で接種した被験者に対して交叉免疫を誘導する免疫記憶の発現に必要な期間については明らかでない。今回、仮想パンデミック株に対する免疫記憶効果を発現する備蓄株を選定するための資料として、免疫記憶を醸成する最低期間と接種株についての関係を明らかにすることを目的として実施した。
研究方法
対象は、H5N1ワクチンの接種既往がない健康成人である。初期接種株としてインドネシア株を2-4週間隔で202名に2回接種し、2回接種60、90日後に初期接種株以外のベトナム株、チンハイ株を仮想パンデミック株として196名に追加接種し(各群50名を目標)、追加接種7日後、21日後に採血し、中和抗体価を測定することで、仮想パンデミック株に対する交叉免疫を惹起する最低期間を推定した。
結果と考察
仮想パンデミック株を想定したチンハイ株、ベトナム株接種後のGMT変化率は、チンハイ株接種間隔60日群の1週後では、チンハイ株2.87倍、ベトナム株2.00倍、インドネシア株6.83倍、アンフィ株4.69倍と交叉免疫反応を認め、3週後ではチンハイ株3.51倍、ベトナム株2.21倍、インドネシア株8.35倍、アンフィ株5.66倍に上昇していた。ベトナム株接種間隔60日群の1週後ではチンハイ株2.64倍、ベトナム株2.50倍、インドネシア株5.08倍、アンフィ株4.99倍と同様に交叉免疫反応を認め、3週後ではチンハイ株3.35倍、ベトナム株4.33倍、インドネシア株9.85倍、アンフィ株9.66倍と更に上昇していた。
チンハイ株接種間隔90日群においても、接種1週後から各株に対する抗体価は上昇し、接種3週後では、チンハイ株3.46倍、ベトナム株2.31倍、インドネシア株8.00倍、アンフィ株5.42倍であり、ベトナム株接種90日群でも、接種1週後から抗体価の上昇を認め、接種3週後では、チンハイ株5.34倍、ベトナム株4.49倍、インドネシア株11.48倍、アンフィ株9.11倍といずれも幅広い交叉反応を認めた。
以上の結果は、初回接種を2-4週間隔で2回接種すると、初回接種60日後から追加接種によるブースター効果が認められることを示唆しており、インドネシア株初回接種後60日を過ぎると、H5N1パンデミック時にクレードの異なる株が感染しても、感染後1週間以内に幅広い交叉免疫が働き、軽症化が期待されることが期待された。また、インドネシア株の初回接種により、接種60日後から幅広い交叉免疫が認められたことから、インドネシア株は初回接種の備蓄株として適切な株の一つと推察された。
安全性の評価では、接種部位反応及び全身反応については既存の試験結果と大きな違いはないと思われるが、1回目接種に比して2回目接種で接種部位反応および全身反応の頻度及び程度が少ない傾向が認められた。60日あるいは90日後の3回目接種後の副反応は2回目接種時とほぼ同じかやや少ない傾向にあった。本臨床試験中に2例の重篤な有害事象が発現した。1例(大腸がん)は因果関係が否定されたが、もう1例(顔面神経麻痺)は3回目接種2日後であり、因果関係は否定できず、厚生労働省に報告した。幸い後遺障害は残っていない。
結論
初回接種を2-4週間隔で2回接種すると、初回接種60日後から二次免疫応答が認められたことから、インドネシア株は初回接種の備蓄株として適切な株の一つであること、インドネシア株初回接種後60日を過ぎると、H5N1パンデミック時にクレードの異なる株が感染しても、感染1週間以内に幅広い交叉免疫が働き、軽症化が期待されることが推察された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201447024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ワクチン株と異なるクレードのH5N1ウイルスがパンデミックを起こしたとき、パンデミック株に対して備蓄しているプレパンデミックH5N1ワクチンの効果が、接種後いつ頃から出現するかを明らかにするために研究を行った。H5N1ワクチン(インドネシア株で製造)を2-4週間隔で2回接種60日後頃から幅広い交叉免疫が誘導されることから、H5N1ワクチン接種後60日を過ぎると、パンデミック株が感染しても軽症化することが推察された。
臨床的観点からの成果
ワクチン株と異なるクレードのH5N1ウイルスがパンデミックを起こしたとき、パンデミック株に対する備蓄しているプレパンデミックH5N1ワクチンの効果については十分に検討されていない。今回インドネシア株を用いて製造したH5N1ワクチンを2-4週間隔で2回接種し、接種60日後、90日後にチンハイ株およびベトナム株で追加接種し、接種60日後では交叉免疫が誘導されることを確認した。この結果から、プレパンデミックワクチン接種後60日を経過すれば、パンデミック株に対しても効果があることが推察された。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、平成27年6月11日に開催される厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会の中の第1回ワクチン作業班会議で検討され、今後の新型インフルエンザ対策に用いられる。
その他行政的観点からの成果
今回の検討から、プレパンデミックワクチンは少なくとも接種60日後頃から交叉免疫を誘導することができ、H5N1のパンデミック対策における有効なツールとなることが示され、行政上有意義な結果である。また、この結果は、本研究の成果は、平成27年6月11日に開催される厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会の中の第1回ワクチン作業班会議で検討され、今後の新型インフルエンザ対策に用いられる。
その他のインパクト
今回の成果は、マスコミに取り上げられていないが、厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会および、内閣官房の新型インフルエンザ等対策有識者会議での参考資料となる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
インフルエンザ等感染症に関する論文
原著論文(英文等)
5件
インフルエンザ等感染症に関する論文
その他論文(和文)
23件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する論文
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
79件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する学会発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2016-06-08

収支報告書

文献番号
201447024Z