HTLV-1感染疾患機序における自然免疫の役割解明と疾患リスク予知への応用

文献情報

文献番号
201447015A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染疾患機序における自然免疫の役割解明と疾患リスク予知への応用
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
神奈木 真理(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡 昇司(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 佐藤 知雄(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
  • 崔 日承(国立病院機構 九州がんセンター)
  • 前田 裕弘(国立病院機構 大阪南医療センター がん疾患センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
26,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染疾患における自然免疫の役割を解明し、疾患発症リスク指標を見いだすことである。HTLV-1は一部の感染者に成人T細胞白血病(ATL)を、別の一部にHTLV-1関連脊髄症 (HAM/TSP)をおこす。妊婦への感染告知が行われている現在、感染者に対する発症リスク予知や発症予防方法の開発は急務である。これまでに我々が開発した抗ATL治療ワクチン(Taxペプチド添加樹状細胞)については他方でその臨床試験が進んでいる。これをさらに次のステップであるATL発症予防ワクチンへと発展させるためには、無症候HTLV-1キャリアにおける両疾患の発症リスクを区別する手立てが必要である。ウイルス側には疾患差が無いことから宿主因子が重要と考えられている。なかでも今回特に自然免疫に着目した理由は、我々がこの数年間に行った一連の研究により、長年不明であったHTLV-1発現抑制機序やAZT/インターフェロン(IFN)α併用療法の抗ATL機序が解明されるとともに、HTLV-1感染症における自然免疫研究の重要性が示されたためである。
研究方法
臨床に根ざした基礎研究を進めるため、本研究班の構成は、HTLV-1の免疫や細胞内シグナルを専門とする基礎研究者と、ATLやHAM/TSP患者の診療に携わる臨床研究者との混成とした。基礎研究でHTLV-1病原性に関与する分子を洗い出し、その役割を解析するとともに、ATL患者、HAM/TSP患者検体から細胞株の樹立を行い疾患間の比較検討を行う。違いのあった候補分子について臨床検体を用いて検証し、疾患機序における役割の解明と診断指標としての妥当性の評価を行う。
結果と考察
HTLV-1の病原性に関与する宿主因子について重要な研究進展があった。
 HTLV-1感染細胞ではNFκBが恒常的に活性化しており腫瘍化にも炎症にも重要な役割を果たすことが以前から知られている。HTLV-1のTax蛋白はNFκB活性化機能を持つが、Tax発現の無いATL細胞でもNFκB活性が高いため、その機序は不明であった。今回、神奈木らは、HTLV-1感染細胞における恒常的NFκBの活性化に、自然免疫をになう宿主因子PKRが関与することを見いだした(論文印刷中)。PKRは、ウイルスRNAを認識しウイルス蛋白の翻訳を抑制するとともにNFκBシグナルを伝えるIFN応答因子の一つである。今回の知見は、これまでTax蛋白やHBZ蛋白の機能で説明されてきたHTLV-1の病原性の機序に、宿主の抗ウイルス自然免疫応答が関与するという全く新しい概念を導入した。
 また山岡らは、従来NFκB活性の負の調節因子と位置づけられ、他の腫瘍では減少することも多いA20分子が、ATL患者由来末梢血単核球細胞、ATL由来細胞株、HTLV-1感染細胞株で高発現しており、A20が感染細胞生存・増殖に大きな役割を果たしていることを発見した(論文投稿中)。これはATLの発癌機序の理解を進めるとともに、新たな治療標的としての可能性を持つ。
NFκB関連以外にも、自然免疫の担い手の一つであるγδT細胞について佐藤らが解析を進め、HTLV-1感染者由来のγδT細胞はほとんどHTLV-1に感染しておらず体外でも培養増殖が可能であることを示し治療応用への可能性を示唆した。また、種々のATL治療による細胞老化(前田)や、造血幹細胞移植術を施行したATL患者の免疫応答(崔)について臨床的な観点から検討を行った。さらに、基礎臨床の協力体制のもと、今後疾患間の比較検討を行うため必要となる臨床検体由来の細胞株の樹立にも着手した。

結論
HTLV-1の病原性(腫瘍化と炎症)の中心的役割を果たす転写因子NFκBの活性化機序に宿主のIFN応答因子が関与すること、NFκB下流のA20が細胞生存に重要であること等が明らかになった。これらはHTLV-1感染症の疾患機序の解明に向けた大きな前進であり、宿主の抗ウイルス自然免疫応答周辺のシグナルは、今後疾患間で比較検討を行うべき有力候補と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201447015C

収支報告書

文献番号
201447015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
35,000,000円
(2)補助金確定額
35,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 23,472,904円
人件費・謝金 3,006,462円
旅費 230,868円
その他 213,766円
間接経費 8,076,000円
合計 35,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-