文献情報
文献番号
201447010A
報告書区分
総括
研究課題名
酵母様真菌感染症の病原性解明と疫学・診断法・制御法の研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 義継(国立感染症研究所 真菌部)
研究分担者(所属機関)
- 竹末 芳生(兵庫医科大学 感染制御部)
- 渋谷 和俊(東邦大学医学部 病院病理学講座 病理学)
- 杉田 隆(明治薬科大学 微生物学講座、微生物学)
- 泉川 公一(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 高倉 俊二(京都大学大学院医学研究科 臨床病態検査学)
- 石野 敬子(昭和大学薬学部 薬物療法学講座感染制御薬学部門 微生物学)
- 田辺 公一(国立感染症研究所真菌部)
- 金子 幸弘(大阪市立大学大学院細菌学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国において血液又は脳脊髄液から分離培養される病原体のうち、カンジダ属とクリプトコックス属は検出数として上位を占める。これらの深在性真菌症における病原因子を解析し迅速な診断法や治療法の開発につなげることを目的とする。
研究方法
1.カンジダ症診断治療ガイドラインの検証
予後の関連性における多施設調査Key項目の達成状況並びに遵守率を評価し遵守と臨床成績との相関性を検討した。
2.遺伝子学的補助診断法の確立
国内多施設より深在性真菌症の病理切片を収集し、in situ hybridization (ISH)法を行った。
3.抗真菌薬候補物質の探索
化合物ライブラリーを用い、C. albicansの発育およびプロテアーゼ活性阻害効果を検討した。
4.侵襲性真菌症のリスク因子
京都大学病院において実施した肝移植において、術後侵襲性真菌症の発症を調査した。
5.クリプトコックス症の発症因子解析
長崎大学病院における非HIV患者に発症したクリプトコックス症自験例について、後方視的に解析した。
6.Cryptococcus gattiiの免疫原性
C. neoformansおよびC. gattii株を用いたマウス感染実験を行った。両菌株から精製した莢膜多糖による樹状細胞の活性化状態を調べた。
7.Cryptococcus gattiiの薬剤低感受性化機構
アゾール低感受性のC. gattii株よりRNAを抽出し、realtime PCRにより薬剤耐性関連遺伝子の発現量を調べた。
8.ミカファンギン耐性Candida株の耐性化機構
キャンディン耐性C. glabrata株のFKS遺伝子の機能解析を行った。
予後の関連性における多施設調査Key項目の達成状況並びに遵守率を評価し遵守と臨床成績との相関性を検討した。
2.遺伝子学的補助診断法の確立
国内多施設より深在性真菌症の病理切片を収集し、in situ hybridization (ISH)法を行った。
3.抗真菌薬候補物質の探索
化合物ライブラリーを用い、C. albicansの発育およびプロテアーゼ活性阻害効果を検討した。
4.侵襲性真菌症のリスク因子
京都大学病院において実施した肝移植において、術後侵襲性真菌症の発症を調査した。
5.クリプトコックス症の発症因子解析
長崎大学病院における非HIV患者に発症したクリプトコックス症自験例について、後方視的に解析した。
6.Cryptococcus gattiiの免疫原性
C. neoformansおよびC. gattii株を用いたマウス感染実験を行った。両菌株から精製した莢膜多糖による樹状細胞の活性化状態を調べた。
7.Cryptococcus gattiiの薬剤低感受性化機構
アゾール低感受性のC. gattii株よりRNAを抽出し、realtime PCRにより薬剤耐性関連遺伝子の発現量を調べた。
8.ミカファンギン耐性Candida株の耐性化機構
キャンディン耐性C. glabrata株のFKS遺伝子の機能解析を行った。
結果と考察
結果
1.カンジダ症診断治療ガイドラインの検証
ガイドライン遵守率と予後改善に相関が認められた。
2.遺伝子学的補助診断法の確立
二形成性酵母が確認された95症例中、26例がC. albicans を標的としたISH法、4例がTrichosporon属を標的としたISH法で陽性シグナルを発現していた。
3.抗真菌薬候補物質の探索
16化合物がC. albicansの発育阻害効果およびプロテアーゼ阻害効果を呈した。
4.侵襲性真菌症のリスク因子
術前からの免疫抑制、術後3ヵ月以内の再開腹術、術後3ヵ月以内の菌血症発症歴の3つが、独立した、晩期の侵襲性真菌症のリスク因子であった。
5.クリプトコックス症の発症因子解析
高齢、低タンパク血症、低アルブミン血症、ステロイド使用、高いCRP値、脳髄膜炎が予後因子として同定された。
6.Cryptococcus gattiiの免疫原性
C. neoformansに比べて、C. gattiiは肉芽腫形成が弱く、炎症細胞の集積をほとんど認めなかった。また、C. gattiiはIL-6またはIL-12のサイトカイン産生をほとんど誘導しなかった
7.Cryptococcus gattiiの薬剤低感受性化機構
アゾール低感受性C. gattii株において、2種類の薬剤排出関連遺伝子の発現量が感性株よりも高値を示した。
8.ミカファンギン耐性Candida株の耐性化機構
ミカファンギン耐性C. glabrataにおいて新規耐性化関連遺伝子変異を同定した。
考察
カンジダ症診断治療ガイドラインの遵守率が予後改善に相関すること、また移植領域および非HIV患者における臨床情報の後方視野的解析により複数の要素が侵襲性真菌症のリスク因子として特定された。これらの解析結果より、科学的根拠に基づいた侵襲性真菌症の治療が可能になると期待される。また、PNAプローブを用いたISH解析は治療方針が大きく異なるトリコスポロン感染とカンジダ感染を迅速に鑑別する有効な手法になると考えられた。
Cryptococcus gattii感染症については、莢膜多糖の免疫原性の低さが、免疫応答の低さに関連すると考えられた。また薬剤排出トランスポーター遺伝子の発現亢進がアゾール系抗真菌薬低感受性の一因を担う可能性が示唆された。これらの研究結果は、治療実績に少ないC. gattii感染症の治療方法の確立に貢献できるものと考えられる。
Candida albicans分泌性アスパラギン酸プロテアーゼ阻害薬の候補物質の発見は、宿主との相互作用を阻害するものであり、新たな抗真菌薬開発の可能性を示唆している。
1.カンジダ症診断治療ガイドラインの検証
ガイドライン遵守率と予後改善に相関が認められた。
2.遺伝子学的補助診断法の確立
二形成性酵母が確認された95症例中、26例がC. albicans を標的としたISH法、4例がTrichosporon属を標的としたISH法で陽性シグナルを発現していた。
3.抗真菌薬候補物質の探索
16化合物がC. albicansの発育阻害効果およびプロテアーゼ阻害効果を呈した。
4.侵襲性真菌症のリスク因子
術前からの免疫抑制、術後3ヵ月以内の再開腹術、術後3ヵ月以内の菌血症発症歴の3つが、独立した、晩期の侵襲性真菌症のリスク因子であった。
5.クリプトコックス症の発症因子解析
高齢、低タンパク血症、低アルブミン血症、ステロイド使用、高いCRP値、脳髄膜炎が予後因子として同定された。
6.Cryptococcus gattiiの免疫原性
C. neoformansに比べて、C. gattiiは肉芽腫形成が弱く、炎症細胞の集積をほとんど認めなかった。また、C. gattiiはIL-6またはIL-12のサイトカイン産生をほとんど誘導しなかった
7.Cryptococcus gattiiの薬剤低感受性化機構
アゾール低感受性C. gattii株において、2種類の薬剤排出関連遺伝子の発現量が感性株よりも高値を示した。
8.ミカファンギン耐性Candida株の耐性化機構
ミカファンギン耐性C. glabrataにおいて新規耐性化関連遺伝子変異を同定した。
考察
カンジダ症診断治療ガイドラインの遵守率が予後改善に相関すること、また移植領域および非HIV患者における臨床情報の後方視野的解析により複数の要素が侵襲性真菌症のリスク因子として特定された。これらの解析結果より、科学的根拠に基づいた侵襲性真菌症の治療が可能になると期待される。また、PNAプローブを用いたISH解析は治療方針が大きく異なるトリコスポロン感染とカンジダ感染を迅速に鑑別する有効な手法になると考えられた。
Cryptococcus gattii感染症については、莢膜多糖の免疫原性の低さが、免疫応答の低さに関連すると考えられた。また薬剤排出トランスポーター遺伝子の発現亢進がアゾール系抗真菌薬低感受性の一因を担う可能性が示唆された。これらの研究結果は、治療実績に少ないC. gattii感染症の治療方法の確立に貢献できるものと考えられる。
Candida albicans分泌性アスパラギン酸プロテアーゼ阻害薬の候補物質の発見は、宿主との相互作用を阻害するものであり、新たな抗真菌薬開発の可能性を示唆している。
結論
免疫不全患者の増加、臓器移植をはじめとした高度医療の発達によって、酵母様真菌感染症の症例数は増加し、また原因菌種は多様化した。新興感染症であるCryptococcus gattii感染症や薬剤耐性菌の出現は真菌症治療の障壁となっている。臨床研究、基礎研究共にさらなる進展と知見の蓄積が必要であり、診断技術、治療方法などにも改善の余地がある。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
-