迅速な製造が可能な新型インフルエンザワクチンの開発技術に関する研究

文献情報

文献番号
201447008A
報告書区分
総括
研究課題名
迅速な製造が可能な新型インフルエンザワクチンの開発技術に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
信澤 枝里(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 森川裕子(北里大学 北里生命科学研究所)
  • 高橋宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
  • 内藤忠相(川崎医科大学 微生物学教室)
  • 鈴木康司(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では迅速かつ十分量のワクチン供給および効果的な免疫賦与を可能にするワクチン種株構築系を確立しインフルエンザのパンデミック発生時に公衆衛生上の被害を最小限に留めることを目的とする。今年度の目標は1.高増殖細胞培養ワクチン株開発のためワクチン株作製用高増殖母体ウイルスを開発する。培養系上のレセプター構造を明らかにしそれに結合するウイルスを選択する系を確立する。2. A(H1N1)pdm09ワクチン株とA/PR/8/34のHA/NAを細胞内発現細胞内輸送効率の観点から比較し蛋白質収量を左右するウイルス側の要因を明らかにする。3.ワクチン株増殖中の変異導入率を低下させるためウイルス遺伝子複製時に親ウイルスの遺伝子を忠実に複製するポリメラーゼを単離する。4. ワクチン株と抗原性が必ずしも一致しないウイルスに対しても有効な免疫を賦与できるワクチン株と免疫条件を同定する。
研究方法
1.ウイルスはA/PR/8/34、A/Anhui/1/2014(H7N9)、細胞は品質管理されたNIID -MDCK細胞を用いた。三次元HPLCマップ法によりNIID-MDCK細胞のシアリル糖鎖構造を明らかにした。2. A/P R8/34、A/California/7/2009のHA, NAを対象とした。HA/NAの細胞内局在は共焦点顕微鏡により観察した。脂質ラフト親和性、多量体形成に関連するタンパク質上の領域の同定はHA/NA 発現細胞のraft画分, nonraft画分を分画しBlue Native PAGE, Western blotting 法により解析した。3.ポリオウイルスで同定されているポリメラーゼの忠実性を向上させるアミノ酸置換をインフルエンザウイルスPB1の当該部位に導入したウイルスをRG法により作製し複製の忠実性への影響を検討した。4.交差結合性細胞の検出系立ち上げのため基礎データが豊富なH3亜型ウイルス株を用いて検証した。H3N2型のX-31株Uruguay株でHAプローブを作製しフローサイトメトリによる交差結合性B細胞の検出系を確立した。
結果と考察
1. A/PR8/34株をNIID-MDCK細胞で20継代した結果ウイルス力価が1x 109PFU/mLの高増殖株(HG-PR8)を得ることに成功した。HG-PR8株を用いてRG法によりH7N9ワクチン株候補(1x108PFU/mL)を示す高増殖株の作製に成功した。細胞に含まれるN型糖鎖の一次解析を行った結果、中性糖、モノシアリル化糖、ジシアリル化糖の組成比は通常鶏卵等で観察される糖鎖とは異なりマンノースを多く含む配列であった。2.蛋白質収量が低いCApdm株の多量体形成能をA/PR/8/34(PR8)と比較した結果中性pHではHA,NAいずれも安定した多量体系性能を示した。CApdmとPR8のHA/NAの脂質ラフト親和性を293T細胞で調べた結果ほぼ同程度のラフト画分/非ラフト画分への分画比を示した。CApdmとPR8でHA/NAの発現量はCApdmのHA,NAはともにPR8より低くこのうちNAはCApdmとPR8でキメラNAを作製することでその発現量が回復した。CApdmのHA/NAはともに細胞内でPR8より形質膜への輸送が遅いことを確認した。3.ポリオウイルスでポリメラーゼの複製忠実度を上げることが明らかとなっている変異K481HをPB1に導入した結果ポリメラーゼ活性は野生型の1/10に低下した。この変異PB1を有するウイルスを作出した結果、新たな変異が導入され、この変異は、変異導入効率を上昇させる変異であった。
4交差結合性B細胞検出のため、H3N2亜型のX-31およびUruguai株HAをプローブとしたところX-31感染マウス肺細胞中のB細胞中にX31のみならずUruguayHAにも結合可能なB細胞の存在を確認した。このB細胞が産生する抗体結合領域は、HA2stem領域のペプチドに相当することが明らかとなった。

結論
1.品質管理されたNIID-MDCK細胞で高増殖性を示す細胞培養ワクチン株作製用母体ウイルスの開発に成功した。NIID-MDCK細胞上のシアリル糖鎖構造は鶏卵漿尿膜上の糖鎖とは異なることを示した。2.蛋白質収量が低いCApdmのHA/NAは、多量体系性能や脂質ラフト親和性に異常は認められないが発現量が低いことが判明した。この低発現はNAの特定領域に起因しその改善によりHA/NAの細胞内輸送が改善された。3. PB1ポリメラーゼ上の複製忠実性を示す部位は、ポリオウイルスの当該部位とは限らずまた1箇所以上存在することが示唆された。4.交差結合性を示す抗体産生B細胞の検出系の確立に成功した。この系の利用により交差防御性に優れた新型インフルエンザワクチン種株開発が促進される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201447008C

収支報告書

文献番号
201447008Z