非結核性抗酸菌症の疫学・診断・治療に関する研究

文献情報

文献番号
201447006A
報告書区分
総括
研究課題名
非結核性抗酸菌症の疫学・診断・治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 御手洗 聡(結核予防会結核研究所 抗酸菌部)
  • 松本 壮吉(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 杉田 昌彦(京都大学ウイルス研究所)
  • 小出 幸夫(浜松医科大学)
  • 前倉 亮治(刀根山病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
17,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非結核性抗酸菌症の罹患率の増加が懸念されているが、2007年の調査以後の正確な疫学情報は存在しない。また、同症は易再発性で難治性であるため高い有病率も想定される。そこで、疾病の蔓延状況を把握するために、アンケート調査に加え、海外では主流である抗酸菌検査データ分析の手法も導入し、患者構成や菌種分布の地域差等も明確化することで、本症の実態を把握する。
 さらに、より正確にかつ迅速に診断・治療を判断できる本症の診断薬を開発する。本症に対する診断薬作製に関する基礎研究で得られる知見を元に、薬剤耐性のメカニズムを解明し、革新的な治療薬の開発をにつなげる。
 本症は、再発が多いがその機構は不明である。再発防止策の提案を目的として、初発と再発時の菌層を解析し、再発事例における内因性再燃と再感染の実態を明らかにする。抗酸菌に特徴的な細胞内寄生メカニズムの解析と非結核性抗酸菌の細胞壁糖脂質組成や宿主応答解析を行い、その診断や予防への応用を実施する。
研究方法
1.非結核性抗酸菌症の疫学調査 a)医療施設調査 b)検査施設調査 
2.非結核性抗酸菌症の診断法開発と非結核性抗酸菌の病原性解析 a) 非結核性抗酸菌蛋白質の抽出とプロテオミクス解析  b)非結核性抗酸菌症患者血清の抗体応答検出 
3.非結核性抗酸菌脂質に対する免疫応答に基づく診断法ならびに治療・予防法の確立
4.非結核性抗酸菌のマクロファージ内での生存戦略の解明 5.肺非結核性抗酸菌感染に対する臨床診断法の開発
結果と考察
日本呼吸器学会認定施設・関連施設(873施設)に、2014年1月から3月までの肺非結核性抗酸菌症と結核の新規診断数を記入するアンケート調査を実施した。回収率は59.0%(暫定値)で、同期間中の新登録結核の診断数は2,327例で, 肺NTM症の診断数は2,652例であった。同期間の新登録結核年換算罹患率は12.9人/10万人であり、肺NTM症の推定罹患率は14.7人/10万人と予想され、2007年の全国調査と比較して、約3倍に増加した。
診断抗原の同定にむけ2DE—質量分析の確立と、MAC症患者の血清・尿を採取し解析を開始した。非結核性抗酸菌のバイオフィルム形成機構の一部を解明した。MAC感染モルモットモデルを確立し、脂質抗原の新生に伴い、脂質特異的T細胞応答が誘起されること、さらにその応答が結核菌感染とは異なりTH2応答であることを見いだした。プロテオミクスによって、MAC感染マクロファージで特に発現が増加するタンパク質にマイナー組織適応抗原が含まれることが明らかになった。2006年から2014年まで国立病院機構刀根山病院において肺MAC症疑いのためキャピリア®MAC抗体が測定された822例のうち、3年以上定期的に経過観察が行われ、検体が保存され追跡可能な肺MAC症患者299例を対象とした。これらの症例から、まず無治療もしくは単剤投与にて5年以上の経過観察で胸部画像所見の著明な悪化が認められない安定症例50例(Stable A1)と多剤併用化学療法を複数回施行するも、排菌は陰性化せず胸部画像所見が悪化する症例悪化症例40例(Progressive CおよびMACによる死亡例)を抽出した。
結論
1.肺NTM症の推定罹患率は15.1人/10万人と算出され、過去7年間で約2.7倍に増加し、公衆衛生上、重要な感染症であると考えられた。
2.新規非結核性抗酸菌感染症の診断法確立を目指し、非結核性抗酸菌のプロテオミクス解析系を確立した。
3.MDP1は、非結核性抗酸菌においても、静止期において、多数の蛋白質発現を制御しており、特に持続性感染との関連性が示唆された。
4.予備試験において、非結核性抗酸菌感染症患者中の抗血清が反応する蛋白質抗原の存在を確認した。
5.MAC感染によりGMMが新生され、GMM特異的T細胞応答が誘起されることを実証した。
6.MAV感染マクロファージにおいて発現が増加するタンパク質をプロテオミクスによって同定することができた。
7.肺MAC症患者299例中横断的解析にて、5年以上の経過観察で胸部画像所見が安定していた安定例50例(16.7%)と複数回の多剤併用化学療法に反応せず病状が悪化する悪化例40例(13.4%)が存在した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201447006C

収支報告書

文献番号
201447006Z